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第96話:漆黒の棺に閉じ込められた高熱の咆哮(と、時空を圧縮して人間を一瞬で圧殺する時限式気圧崩壊爆弾)

「……アリス、聞こえる? 私の胃壁が、サウナ(第51話)と水風呂の交代浴を終えた完璧な『ととのい』の極限状態において、箸を当てた瞬間にホロリと崩れ、お口の中で濃厚な脂身がジュワッと溶け出す、あの『極上豚の角煮』を求めて深刻な暴動を起こしているわ……!」

「聞こえるわエレン。というか、共有されている私の大脳皮質も、あの甘辛い焦がし醤油とハチミツのコクを脳に直接摂取しろと激しいアラートを出しているわ。だけどね、普通の鍋で豚の角煮を作ると、肉の結合組織(コラーゲン)をゼラチン化させて繊維を柔らかくするのに、最低でも3時間のコトコト煮込みが必要なのよ。だらだら時間を愛する私たちにとって、そんな時間の浪費はQOL(生活の質)に対する深刻なテロ行為だわ!」


シルバーストーンQOL巨大観光特区の昼下がり。

完璧に除湿されたドライコタツ(第65話仕様)に入りながら、ハチミツコーラ(第42話)を飲んでいた銀髪の双子は、脳内の専用回線(テレパシー)をかつてない「豚の角煮熱」で同期させていた。


前世は三十代の理科教師、成瀬健一。

どれだけ時間がかかろうとも、だらだらライフの時間を1秒たりとも削ることは許されない。

「ないなら、すべての時間を熱力学の理で圧縮するマシーンをDIYすればいいじゃない!」


「いい、エレン? 液体の沸点Tと圧力Pの関係を示す『クラウジウス・クラペイロンの式』をハックするわよ!」

アリス(理論・設計・分子計算担当)が脳内の黒板に、相転移の熱力学公式を書き殴る。


 dP/dT = L/TΔV


「(ここでLは蒸発潜熱、ΔVは体積変化よ! 密閉した容器の内部圧力を『2気圧(約200kPa)』まで高めれば、水の沸点は通常の100℃から一気に『120℃』まで上昇するわ! この高温・高圧の二重の物理圧力により、豚肉の硬いコラーゲン組織は通常の3倍以上の速度でゲルからゾルへと熱分解(ゼラチン化)するのよ! 2気圧に耐えるチタン製圧力容器(第28話仕様)と、魔石温度・調圧基盤(第32話仕様)を連動させた『全自動・魔導電気圧力鍋(マルチシェフ)』を物質化しなさい!)」

「最高よアリス! 時空(調理時間)を15分に圧縮する魔法の釜ね! 私の『超精密魔力クラフト・3Dチタン一体成形モード(120,000 rpm)』、出力最大よ!」


エレン(実技・精密加工・物理演算担当)の指先から、バチバチと精密な魔力放電が散る。

アリスが共有視界に投影した「超高圧窒素ガスバラスト&自動減圧真鍮バルブ」の3次元設計図に沿って、エレンはチタンの塊をコンマ数ナノメートル単位のクリアランス(隙間)で完璧に削り出し、不気味に赤く明滅する魔石LEDのカウントダウンインジケーターをあしらった「全自動電気圧力鍋(漆黒のチタン釜)」をものの数分で組み上げた。


一人が「熱力学相転移シミュレーター(ソフト)」、一人が「ナノ精度放電カッター&精密アッセンブル(ハード)」。

双子の超絶連携により、台所のテーブルの上に、怪しげな真鍮の調圧レバーと、液晶(魔導文字)をチカチカと明滅させる「電気圧力鍋・クッキングマイン」が爆誕した。


◇


さっそく、アリスが考案した「極上圧力角煮シーケンス(レシピ)」がスタートした。


「まずは一次加圧(下茹で)よ! エレン、極上の豚バラ肉(ブロック)700gを、内なべに入れたときに肉が曲がらないように、なるべく大きく豪快にカットして!」

「ラジャー! 私の指先包丁で、一瞬で等幅に叩き切ってあげるわ!」


トントンッ!とエレンが大きく肉をカットし、チタン製の内なべにぎゅうぎゅうに敷き詰める。

そこに長ねぎ1本の青い部分をちぎり入れ、しょうが2片を薄切りにして投入。


「水を内なべの『調理MAX』の線まで一気に注ぎ込みなさい! そして、内なべを本体にセットしてふたをして、ふたのレバーを『密封』にセットよ!」

「密封完了! 手動メニューから、圧力調理、時間設定は『20分(0:20)』ね! 調理スタートボタン、オン!」


ガチャン、とエレンがボタンを押すと、チタン釜の液晶パネルが「0:20」と不気味に赤く明滅し、

「キィィィィィィィン……」という、水晶の調圧振動を伴う不気味なハミングを歌いながら、内部の気圧を急激に2気圧まで高め始めた。


◇


その頃。

コタツ(ドライ除湿モード)ですっかりQOL完全降伏し、お揃いのサウナハット(第51話仕様)を被ってのんきにたこ焼き(第60話)をつまんでいた元・超一流隠密アルド。

そして、未だに騎士としての最後の誇りとQOLの誘惑の間で胃を痛めている、王都エリート監察官イゾルデ。

二人は、台所の奥に鎮座する、不気味に「0:20」と赤い魔導文字をチカチカ明滅させ、時折「シューーーーーッ!!」と真鍮のバルブから不気味な高圧蒸気を噴き出している漆黒のチタン釜を見て、全身の毛穴から冷や汗を噴き出させていた。


「お、おい……アルド。奴ら、ついに台所の奥で……世界を滅ぼす新型の『時限爆弾』を起動しおったぞ……!」

イゾルデが、白銀の甲冑の隙間からガタガタと歯を鳴らして囁いた。


「イゾルデ様、落ち着いてくだせえ。あれは双子様が『角煮を早く食う』ためだけに作った、ただの鍋です。本当に、ただの安全な鍋でして……」

「嘘を言うな! あのチタンの棺(圧力鍋)……、中に膨大な『熱量と大気圧』を極限の2気圧まで凝縮して閉じ込め、あの赤いカウントダウンがゼロになった瞬間に、周囲の時空を物理的に引きちぎって爆縮・消滅させる、新型の時限式気圧崩壊爆弾――『デシベル・プレッシャー・ボム』に違いないわ……!!! ほら見ろ、不気味なハミング音が大きくなっている!」


アルドがサウナハットを揺らしながらおでんを貪るのを横目に、イゾルデは胃を激しく痙攣させ、恐怖で涙を流しながらその場にひれ伏した。


◇


20分後。

「ピーーー!」というチタン釜からの電子アラーム音が響き、圧力ピンがストンと下がった。


「よし、一次加圧完了よ! エレン、ハーフオープン!」

アリスの指示に合わせ、エレンがフタを開けると、中から長ねぎとしょうが、そして豚肉の余分な脂が溶け出したアツアツの湯気が立ち上った。


「エレン、内なべをシンクに取り出して、冷水を注いで。手が入れられる温度になったら、お肉を手で取り出して優しく洗いなさい! 界面ハック(第40話仕様)を応用して、肉の表面にこびりついたアクと余分なギトギト脂を完璧に洗い流すのよ! 長ねぎとしょうがは役目を終えたから廃棄、内なべもきれいに洗って!」

「ラジャー! お肉をいったん冷水でギュッと締めて、余分な脂を一分子の漏れもなく洗い流すよ!」


洗い終えた極上の豚肉を、エレンは3cm幅の美しいサイコロ状にカット。

再びチタン製の内なべを本体にセットし、その中にカットした肉、そして秘伝の調味料Aを投入する。


「酒大さじ6、みりん大さじ5、しょうゆ大さじ5、砂糖大さじ4、水300mLを投入! さらにコクを加えるためにハチミツ大さじ1と、隠し味の八角(スターアニス)を1片投入して、香りの分子を宇宙の果てまで拡張しなさい!」

「オッケー! そしてアリス、これね! 真ん中に1cmの穴をあけたアルミホイルを上に載せて、落としぶた(第54話仕様)にするよ!」


アルミホイルがフワリと肉の上に載せられ、フタが閉められ、レバーが再び「密封」にセットされた。


「二次加圧、時間設定は『10分(0:10)』よ! 爆縮(調理)スタート!」

「スイッチ、オォォォン!!」


ポチッ、とエレンがボタンを押すと、再び液晶が「0:10」と明滅し、

「キィィィィィィィン……」という超音波調圧ハミングと共に、二度目の、そして本命の「味の超高圧強制浸透プロセス」が開始された。


◇


10分後。

台所からは、八角のエキゾチックな香りと、焦がし醤油、みりん、砂糖が完璧にマリアージュし、肉汁の脂と混ざり合った、

嗅いだだけで大脳新皮質の満腹中枢を分子レベルで直接破壊し、胃袋の支配権を強制的に双子に譲渡させる、あまりにも暴力的で甘い「極上の匂い」がリビングへと溢れ出した。


イゾルデは、その匂いを嗅いだ瞬間、胃袋がキュゥゥゥと激しく鳴り響くのを防げず、涙を流した。

「あ、頭が……、あの甘い匂いに脳をハッキングされて、時限爆弾の恐怖よりも『あの黒い液体を啜りたい』という狂暴な衝動に支配されていく……! なんという恐ろしい精神汚染……!」


その時。

ピーーー!ピーーー!ピーーー!

チタン釜から、カウントダウン終了を告げる鋭いアラーム音が響き渡った。


「い、いやぁぁぁっっっ!!! 時限爆弾のカウントダウンがゼロになったわ! 信じられない、世界が……世界が爆縮して更地にされるぅぅぅ!!!」

イゾルデが頭を抱えてコタツの中に潜り込もうとした、その瞬間。


エレンが「からくり自動減圧バルブ、クラッチ、オープン!」と叫び、レバーを回した。


プシューーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!


真鍮のバルブから、2気圧の圧縮を解かれた真っ白な超高圧蒸気が、別棟の天井に向けて「ゴォォォォッ!」と凄まじい咆哮を上げながら、一気に、勢いよく噴き出した。


「し、信管が作動したああああああ!!! お、お赦しください、双子の魔王様! 我が公爵領の全財産を差し上げるから、私の脳髄を爆縮させないでくださいぃぃぃ!!!」


イゾルデは、あまりの「超スチームの爆風(※ただの減圧です)」への恐怖に、白目を剥いてコタツの上でガタガタと震えながら、全員でお揃いの「黒い目隠し(第70話仕様)」を両目に巻き付け、泥(のようなリビングの床)にひれ伏して全力で号泣土下座をキメるのだった。


◇


「ふぅ、減圧完了。圧力ピンが下がったわね。ハッチ、オープン!」


アリスがフタをパカッと開けると、中からアルミホイルの落とし蓋に包まれ、

とろっとろの飴色に染まった、箸を当てずとも自重で崩れそうなほど柔らかく煮込まれた「極上豚の角煮」が、美しい輝きを放ちながら姿を現した。


「アリス、さらに味を極限まで染み込ませるために、落とし蓋をしたまま『なべモード(常圧加熱)』で、お好みのとろみになるまで数分煮詰めるわよ!」

「ええ、エレン。醤油とハチミツのカラメル化反応を促進させて、ツヤツヤの黄金のタレに仕上げなさい!」


ジュワジュワジュワ……と、チタン鍋の中で、とろっとろのタレが肉に絡みつき、完璧な黄金の衣となってコーティングされていく。


「シルバーストーン特製・全自動高圧魔導角煮、完成よ!」


双子は、アツアツの角煮を器に盛り、

「はい、イゾルデ、アルド! おバカな目隠しをしてないで、早くこの『ととのい(QOL)』を口に放り込みなさい!」

と、スプーンで大ぶりの、プルプルと艶やかに揺れる角煮を、目隠しをしているイゾルデの口の中に躊躇なく突っ込んだ。


「ひぎぃっ!? 爆縮肉弾の直撃……くっ、私は屈……むぐっ!?」


イゾルデが、お肉を口に含んだ。その瞬間。


――ホロリ……ジュワァァァァァッ!!!


「甘美なる神罰(QOL)があぁぁぁぁぁぁぁぁん!!! Resigntion(降伏)しますぅぅぅぅぅ!!!???」


口に入れた瞬間、2気圧の超高圧でコラーゲンが完全にゼラチン化(ゾル化)した豚肉は、

噛む必要すらなく、舌の上で「ホロリ」と柔らかくほどけ、

中から閉じ込められていた焦がし醤油とハチミツ、そしてサシの入った豚バラの上質な脂が、

口の中で一気に大爆縮(ジューシー・スプラッシュ)を起こして溢れ出していった。


「な、何これぇぇぇ! 脂身が……脂身がプリンのようにお口の中でなめらかにとろけて消えていくわ! そして、隠し味の八角のエキゾチックな香りと、お醤油のコクが、お肉の繊維の最深部まで1分子の隙間もなく完璧に染み渡っていて……、もう、もう一生このお肉の奴隷としてコタツに埋もれて暮らしたいぃぃぃ!!!」


イゾルデは涙とよだれをダラダラと流し、コタツの布団をギュッと抱きしめたまま、白目を剥いてへなへなと崩れ落ち、完全なるQOLの虜(永久住民)となった。


「旦那、このタレをふっくらご飯(第24話仕様)の上にぶっかけると、ご飯が無限に吸い込まれる悪魔の飯泥棒(QOL)になりやすぜ! ビール(第6話)おかわりだべ!」

アルドもサウナハットを被ったまま、涙を流して角煮をご飯にのせて貪り食っていた。


「おやおや、アリスにエレン。この高圧チタン釜(圧力鍋)というものは、3時間かかるお料理をわずか30分で、しかもこんなに美味しく作ってしまうんだねえ。本当に魔法のような科学だね」

「本当にねえ、エドワード。お肉が柔らかくて、お口の中でとろけてしまうわ。これで私たちの毎日のディナーQOLは、またしても完璧にハックされたわね」

父エドワードと母レイラも、優雅に箸を進めながら、家族団らんの極上の時間を満喫していた。


窓の外では、月明かりの下、ガシャガシャと走る木製のお掃除ロボ(第36話)が、静かに庭に落ちたわずかなねぎの青い部分を掃き清めていた。

領内には、目に見えない「極限の熱力学・クラウジウス・クラペイロン沸点上昇技術」と、王都の超エリート騎士イゾルデを一瞬でコタツから抜け出せない「角煮の虜」へと書き換えた、恐るべき時限式気圧崩壊お肉の噂が、優しく、そして最高にお気楽に広がり続けるのだった。

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