第53話 パッシブスキルツリー構築論、あるいは凡人が英雄になるための生存戦略
深夜二時。
アルカディア本社の最上階にある執務室。
俺は愛用の高級ゲーミングチェアに深く沈み込みながら、デスク上のトリプルモニターを見上げていた。
中央のモニターに映し出されているのは、俺が運営するアルカディア公式サイト内の特設ページ――『探索者向け技術指南ブログ』だ。
このブログは、今や国内の探索者にとってバイブルとなりつつある。
開設当初から俺は口を酸っぱくして「命を大事にしろ」「生存第一だ」と説いてきた。
おかげで無謀な突撃で死ぬ馬鹿は減り、「生存第一」というスローガンは探索者たちの間で常識として定着しつつある。
だが。
俺はコメント欄に並ぶ嘆きの数々を見て、眉間を揉んだ。
『八代さんの教え通り、防具を優先して更新しました。でもD級のオークの一撃が重すぎて、ガードの上から骨折しました。これ以上どうすれば?』
『生存優先でHPに振ってるつもりですが、ジリ貧になります。ポーションが尽きて撤退ばかりです』
『タンク役です。ガチガチに固めたつもりなのに、魔法攻撃で蒸発しかけました』
……分かっていない。
彼らは「生存第一」という言葉を、「ただ臆病になること」や「いい鎧を着ること」だと履き違えている。
あるいは、ステータス画面の「耐久力(VIT)」にポイントを振れば、それで解決すると思っている。
「甘いんだよ。それじゃあ、本当の意味で『死なない体』は作れない」
現実のダンジョンは、数値の削り合いだ。
そして、その数値を底上げするのは装備だけではない。
もっと根源的なキャラクターの設計図――『パッシブスキルツリー』こそが重要なのだ。
パッシブスキル。
広大な星図のような盤面を進み、ステータス強化や特殊効果を得るシステム。
その複雑さは、多くの探索者を混乱させている。
装備を加味して調整する必要があるため、正解は人によって異なる。
だが、「生存しつつ敵を殺す」ための「最適解の方向性」は、間違いなく存在する。
「方向性は示唆することができる……。今回は大まかな方針を示してやるか」
俺はエナジードリンクを一口煽ると、キーボードに指を走らせた。
かつて『ダンジョン・フロンティア』でトッププレイヤーとして君臨し、数多のビルドを試行錯誤した経験と知識。
それを現代の探索者たちに叩き込む。
◇
【八代匠の技術指南】
タイトル:生存第一は分かった。だが「ビルド」が間違っていれば意味がない――パッシブスキルツリー構築論
よう、八代だ。
最近、「生存第一」を心がけているにもかかわらず、ダンジョンで痛い目を見ている奴が多いようだな。
装備は整えた。無理な深層アタックも控えている。
なのになぜ死にかけるのか?
なぜポーションが足りなくなるのか?
答えはシンプルだ。
君たちの『パッシブスキルツリー』の構築がお粗末だからだ。
パッシブスキルは単なるステータスの足し算ではない。
装備とスキル、そして立ち回りを掛け合わせるための「接着剤」であり「増幅器」だ。
ここを適当に済ませている奴は、いくら高い防具を着ても、その性能の半分も引き出せていない。
パッシブスキルは装備を加味して調整する必要があるため、細かい所は人による!
だが、方向性は示唆することが出来る!
今回はランク帯(レベル帯)ごとに、大まかな方針を示したいと思う。
今すぐ自分のツリー画面を開きながら読め。
■F級:レベル2~10(基礎構築期)
【テーマ:装備は紙だと思え。まずは中身で耐えろ】
まず、この段階で小難しいビルド理論について考えてはいけない。
クリティカル率? 詠唱速度? まだ早い。
なぜなら、この時期の君たちの装備は、そうだな……せいぜい『ライフ+単体属性耐性装備』と言った所か。
ハッキリ言って、紙装甲だ。
だからこそ、パッシブスキルでは以下のことを徹底しろ。
まずは『ライフノード(最大HP増加)』を取ることを覚えることだ。
これが正解だろう!
まず第一に死なないこと! これが肝心だ。
HPが低ければ、ポーションを飲む暇もなく即死する。
だが、ライフと耐性があれば、敵の攻撃に一発は耐えられる。
耐えるということは、ポーションで回復出来るということだ!
まずは防御第一だ!
また、特定の属性攻撃をしてくる敵がいるなら、パッシブスキルで『耐性ノード』を取るのもありだ!
装備がしょぼくても、パッシブスキルである程度補えるわけだ。
■E級:レベル10~20(専門化の始まり)
【テーマ:器用貧乏は死ぬ。武器を愛し、武器に愛されろ】
ここらへんから、ドロップ品や購入品の装備の質が上がり、防御に余裕が出来てくる。
鎧が厚くなれば、HPノードだけに頼らなくても即死はしなくなる。
さあ、ここからが本番だ。
『攻撃ノード』を取り始めることだな!
だが待て。
適当に「物理攻撃力UP」なんてノードを取ろうとしていないか?
それは罠だ。
攻撃ノードと言っても色々ある!
俺がオススメするのは以下の通りだ。
1.物理アタッカーの場合
『自分が持ってる武器のノード』を取ることをオススメする。
単純な攻撃ノードより、専門的な『両手武器剣専用武器ノード』や『片手剣専用武器ノード』の方が上昇倍率が圧倒的に強い!
良いか、探索者とは武器を1つ選んで、それに特化させる方が強い!
「剣も槍も使いたい」?
そんな浮気者は、どっちつかずの火力しか出せずにジリ貧になって死ぬ。
器用貧乏にならないようにすることだ!
2.魔法使いの場合
物理と同様だ。
ここらへんで、その属性に合う『属性攻撃ノード』を選ぶことだな!
炎が得意なら炎を、氷なら氷を伸ばせ。
3.タンク(盾役)の場合
パーティの命綱であるタンク諸君。
E級からは、まず『ブロックノード』を取ること!
ブロックを知らない読者のために説明すると、この世界には『物理ブロック率』と『魔法ブロック率』というステータスがある。
これは盾や一部の武器を持つ時に付与されるブロック率に応じて、ダメージを無かったことにするシステムだ。
最大75%の確率でブロックすることが出来る。
・物理ブロック率:比較的簡単に手に入る。盾を装備するだけで稼げる。
・魔法ブロック率:これが曲者だ。スキルやパッシブスキルで積むしかない!
いいか、タンクはダメージを受けるのが仕事じゃない。
ヘイトを集めて、攻撃を「無効化」するのが仕事だ。
良い鉄壁になるんだ。
パーティーの安定度は、それだけで高まる。
ヒーラーへの配慮も大事だぞ!
4.ヒーラーの場合
回復役の君たち。
回復量を増やすのも大事だが、それ以上に重要なことがある。
『確率でマナ消費なし』などのマナ管理系ノードを取ることをオススメする!
良いか、いざという時「マナがありません」はダメだ。
それはパーティ全滅の合図だ。
常にマナの量を気にする。
ヒールしたら、自分のマナをチェックする!
枯渇しないためのパッシブ構成。
それが優秀なヒーラーの条件だ。
■D級:レベル20~30(攻防一体のバランス調整)
【テーマ:殴りながら回復しろ。立ち止まるな】
ここらへんから、パッシブスキルに余裕が出てくる!
主要な攻撃ノードやブロックノードを取り終えた時期だろう。
だが同時に、敵の攻撃も激化する。
ソロだったら、ここから敵の攻撃が痛くなる。
さらに攻撃性能を高めるのもいいが、ここでは『リーチ機能(攻撃時ライフ吸収)』を付けたり、『ライフ自動回復系ノード』を取って、バランス調整もするべきだ!
攻撃こそ最大の防御だが、防御(回復)しながら攻撃できれば無敵だ。
もちろん、基本であるライフノードもしっかり取っていくべきだ!
HPという器が大きくなければ、いくら回復しても溢れてしまうからな。
■C級:レベル30~40(ギミック・ビルドの完成)
【テーマ:システムを悪用しろ。非常識な強さを手に入れろ】
さあ、C級だ。
ここらへんで初めてビルドが機能し始める!
これまでは「攻撃を上げる」「HPを上げる」という直線的な強化だった。
だがC級からは『キーストーン(重要スキル)』と呼ばれる特殊なパッシブスキルを組み合わせて、独自の強みを生み出せるようになる。
例1:属性耐性変換ギミック
例えば『炎耐性を75%以上にキャップ(上限突破)して、余った耐性値をライフ自動回復に変換される』なんてノードがある。
これを取って、装備とパッシブで炎耐性を極限まで高める。
するとどうなるか?
炎耐性を高める=ライフ自動回復が高まる=生存能力が高まる!
炎の中で棒立ちしていても死なない、不死身の戦士の出来上がりだ。
なんてギミックも出来るのが、ここらへんからだ!
例2:マナタンクギミック
または『ダメージの40%をマナで受ける』なんてキーストーンを取ってみる。
通常ダメージはHPで受けるものだ。
だがこれを取れば、マナがHPの代わりになる。
この場合、マナ最大値とマナ回復速度を極限まで高めることで「魔法使いなのに物理職より硬いタンク」って芸当も出来るようになる!
いいか、ここらへんからビルドの形がしっかり出来てないとダメだ!
ただステータスが高いだけのキャラは、C級の凶悪なギミックボスには通用しない。
自分だけの「強み」を確立しろ。
俺(八代)の例
参考までに、俺のビルドの一端を明かそう。
俺は二刀流だ。
通常、二刀流は盾を持てないため、ブロック率は0%になるのが普通だ。
だが俺は、パッシブスキルの組み合わせで「二刀流でブロック率を高める」特殊なルートを通っている。
さらに『最大ブロック率が65%に下がる代わりに、余った物理ブロック率を魔法ブロック率に変換される』というキーストーンを取得している。
これにより、二刀流でありながら物理・魔法ブロック率65%を達成している。
65%の確率で、あらゆるダメージを無効化する二刀流剣士。
これが俺の「ギミック」だ。
良いか、ここらへんからギミックを何か1つはあるべきだ。
ソロ・パーティー関係ない、自分だけの強みが何かないとダメだ!
・高いリーチ性能!
・高いライフ自動回復!
・高いブロック率!
他にあるが、もう一回いうぞ。
ギミックを作れ!
■B級以降:終わらない探求
B級以降は同じだ。
ギミックを増やして、強みを作る!
これに尽きる!
……長くなったな。
今回の講義は、ここまでだ。
死にたくなければ頭を使え。
ダンジョンは筋肉だけで攻略する場所じゃない。
賢い奴が生き残り、生き残った奴が強くなる。
それが真理だ。
では、良きダンジョンライフを。
(記事終わり)
◇
書き終えた俺は、エンターキーを強めに叩いて記事を投稿した。
ふう、と息を吐き、椅子にもたれかかる。
「これで少しは、マシな探索者が増えればいいが……」
俺は画面の中で、投稿されたばかりの記事に早くも「いいね」が付き始めるのを見て、ニヤリと笑った。
知識は力だ。
そして、その知識を与える者は「支配者」となる。
俺の言葉一つで、日本の探索者たちのトレンドが変わる。装備の相場が変わる。
「さて、次はどんな情報を小出しにしてやろうか」
俺は空になったエナジードリンクの缶をゴミ箱に投げ入れると、再びモニターに向かい合った。
夜はまだ長い。
そして俺の野望もまた、尽きることはないのだ。
最後までお付き合いいただき感謝します。
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