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第4話 重なる凶星と、最強の証明

 自宅での「禁断の合成」から一夜が明けた。

 俺の首には、今も『清純の光輪ピュア・ヘイロー』が巻かれている。

 肌身離さず装備しているおかげで、常時展開されている【元素の盾】のオーラが、

 俺の周囲の空気をわずかに浄化しているような気さえする。


 SNSでの募集活動は続いていた。

『鑑定します』『最適解を教えます』という俺の投稿は、相変わらず「怪しい宗教」か、

「詐欺」扱いが大半だ。


 だが、その中でも数件、まともな反応があった。


 その中の一人。

『ギルド面白そうですね。話だけでも聞かせてもらえませんか?』

 というDMを送ってきた人物と、今日会うことになっていた。


 場所は、都内のとある喫茶店。

 チェーン店のような騒がしい場所ではなく、路地裏にある昔ながらの純喫茶だ。

 今の世の中、どこに行ってもダンジョンの話題で持ちきりだが、

 ここは静かな時間が流れている。


「……遅いな」


 約束の時間は午後二時。

 時計の針は二時五分を回ろうとしていた。


 俺は冷めたコーヒーを一口啜る。

 まあ、この状況下だ。

 交通機関の乱れもあるだろうし、あるいはドタキャンか。

 そう思い始めた時だった。


 カランコロン、とドアベルが鳴った。


 入ってきたのは、一人の女性だった。

 年齢は二十代半ばくらいだろうか。

 ラフなパーカーに、デニムキャップを目深に被っている。


 一見すると普通の女性だが、その身のこなしには無駄がない。

 視線が鋭く、店内の状況を一瞬で把握するような動き。


(……只者じゃないな)


 彼女は店内を見渡し、俺と目が合うと迷わずこちらへ歩いてきた。

 そして、俺の前の席にドカッと腰を下ろした。


「どうもー。八代さんですか? ギルド面白そうだなーと思って来ちゃいました」


 軽い。

 第一声は拍子抜けするほど軽かった。

 キャップを少し持ち上げ、人懐っこい笑顔を見せる。


「はじめまして。八代です。あなたがDMをくれた方ですね?」


「はいはい、そうです。ハンドルネームは『レン』でやってますけど、

 本名は神崎かんざきです。神崎リン。呼び方は何でもいいですよ」


 神崎リン。

 彼女はメニューも見ずにアイスコーヒーを注文すると、頬杖をついて俺を見た。


「で? X(旧Twitter)で見ましたよ。『最適解を教える』とか、

『鑑定スキルがある』とか。あれ本当なんですか?

 今の世の中デマばっかりでしょ。政府の発表も嘘くさいし」


「すべて事実です。

 政府が隠していること、これから起こること、そしてあなたがどうすれば強くなれるか。

 俺はすべて知っています」


 俺は真っ直ぐに彼女の目を見返した。

 ハッタリだと思われてもいい。

 だがここで引いたら負けだ。


「へぇ……言い切りますね。嫌いじゃないです、そういうの」


「ギルド『アルカディア』は少数精鋭を目指しています。

 馴れ合いのサークルを作る気はありません。

 効率的にダンジョンを攻略し、富と力を得る。

 そのための互助組織です」


 俺は単刀直入に切り出した。


「基本的には、俺の知識とスキルを提供します。

 ビルドのアドバイス、狩場の選定、そして……必要ならパーティーを組むことも検討します。

 が、強制はしません」


「なるほどね。拘束時間は?」


「ありません。ノルマもなし。

 ただ、俺が『これを持っておけ』と言ったアイテムは必ず確保すること。

 それだけ守ってくれれば、あとは自由です」


 リンは運ばれてきたアイスコーヒーをストローで回しながら、面白そうに笑った。


「自由なのはいいですね。私、束縛されるの嫌いなんで。

 ……で、その肝心の『アドバイス』ってやつ、私にもできるんですか?」


「ええ、できますよ。

 あなたが自分の才能スキルを正しく理解していれば、ですが」


「あー、それそれ。実は私、自分のユニークスキルがよく分かんないんですよね。

 なんか変な文字が出るだけで、効果がいまいち実感できないっていうか」


 やはりか。

 この初期段階で、自分のスキルを完全に把握している人間は少ない。

 特に複雑な計算式が絡むスキルや確率発動系のスキルは、

「なんとなく強い気がする」程度で片付けられがちだ。


「じゃあ私、ユニークスキル分からないんで、鑑定して貰って良いですか?」


「ええ、良いですよ。じっとしていてください」


 俺は彼女に向け、意識を集中した。

【鑑定】発動。

 彼女の体の周囲に浮かぶ情報の羅列を、脳内でデコードする。


 そして表示されたウィンドウの中身を見た瞬間、

 俺の心臓が大きく跳ねた。


(……おいおい、マジかよ)


 思わず顔に出そうになるのを堪える。

 これは「当たり」なんてレベルじゃない。

 ダンジョン攻略における、一つの「到達点」になり得るスキルだ。


【鑑定結果】


 名前:重なる凶星(ツイン・クリティカル) (Twin Critical)


 レアリティ:ユニークスキル(等級:SS)


 種別:パッシブスキル / 確率改変


 効果テキスト:このスキルを持つ者が攻撃を行う際、クリティカルヒット判定を2回行う。


 判定A(1回成功):どちらか一方の判定に成功した場合、その攻撃は「クリティカルヒット」となり、通常のクリティカルダメージボーナスが適用される。


 判定B(2回成功):両方の判定に成功した場合、その攻撃は「真・クリティカル(True Critical)」となり、その攻撃に対するクリティカルダメージボーナスが2倍として適用される。


 フレーバーテキスト:奇跡は二度起きない? 誰がそんなことを決めた。


 一撃目は肉体を穿つ。

 二撃目は運命を穿つ。


 偶然ではない。

 それは必然的に訪れる、二重の破滅だ。


「……ほー、凄いですね。SS級ユニークスキルですよ、これは」


 俺は感嘆の息を漏らした。


『ダンジョン・フロンティア』の世界において、

「クリティカルビルド」はロマンであり、同時に修羅の道だ。


 クリティカル発生率(Crit Chance)と、クリティカル倍率(Crit Multiplier)。

 この二つの数字を極限まで高めた先にある火力は、

 物理法則を無視してボスを蒸発させる。


 だが、この『重なる凶星』は、その前提を覆す。


 通常、このような「判定を二回行って良い方を採用する(Lucky Crit)」という効果は、

 極めて希少なユニーク武器や、特殊な装備のセット効果でしか得られないものだ。


 しかもそれらの装備は得てして、

「基礎攻撃力が低い」というデメリットを持っている。

「強い効果を得る代わりに武器が弱い」——それがゲームバランスだ。


 しかし彼女の場合は違う。

 これが「パッシブスキル」として、本体に備わっているのだ。


 つまり彼女は、

「基礎攻撃力が最強の武器」を装備したまま、この恩恵を受けられる。


 さらに凶悪なのが【判定B】の効果だ。

 両方成功すれば、ダメージボーナスが2倍になる。


 仮にクリティカル倍率が300%だとしたら、それが600%になるということだ。

 指数関数的にダメージが跳ね上がる。


(……もし彼女のクリティカル率を100%まで持っていけたら、どうなる?)


 俺の脳内で計算式が走る。

 クリ率100%なら、二回の判定は必ず両方成功する。

 つまり常時「真・クリティカル」が発生する。


 全ての攻撃が、理論値最強のダメージを叩き出す。

 殺戮マシーンの完成だ。


「SS級……? そんなに凄いんですか、これ?」


 リンはきょとんとしている。


「ええ。分かりやすく説明しましょう。

 あなたはダンジョンで戦っていて、

『やけに敵がサクサク倒せる時』と『そうでもない時』がありませんか?」


「あー! あります、あります!

 なんか適当に鉄パイプ振っただけなのに、

 ゴブリンが風船みたいに破裂する時があるんですよ。

 あれ何なんですかね?」


「それが『真・クリティカル』です。

 あなたのスキルは攻撃するたびにサイコロを二回振って、

 ゾロ目が出たら威力が倍増する……そんなチート能力なんですよ」


 俺はテーブルの上の紙ナプキンに、簡単な図を書いて説明した。

 確率の二重判定。

 そして、それが成功した時の爆発的な威力。


「へー、なるほどねぇ……。

 だから時々、自分でも引くくらいの威力が出るんだ」


 彼女は自分の手を見つめ、納得したように頷いた。


「でも確率なんでしょ?

 安定しないってことじゃないですか?」


「そこです」


 俺は身を乗り出した。


「今はまだ装備もステータスも整っていないから『運ゲー』になっています。

 ですが、俺のアドバイスに従って装備を整え、クリティカル率を上げていけば……

 その『偶然』を『必然』に変えられます」


「必然……?」


「百発百中の確率で、あの爆発的な威力を出し続けることができる。

 文字通り、触れるもの全てを粉砕する最強のアタッカーになれますよ」


 リンの目の色が変わった。

 ゲーマー特有の、攻略の糸口を見つけた時の輝きだ。


「……面白そう。

 私、そういう『極まった』話、大好きなんですよね」


「でしょうね。

 ぜひギルドメンバーになりませんか?

 俺ならあなたを、そこまで導けます」


 彼女は少し考え込み、ストローの先を噛んだ。


「うーん……でもなぁ。

 私、基本的にソロ気質なんですよね。

 パーティー組んで『回復遅い!』とか『タゲ取って!』とか、

 ギスギスするの面倒だし。

 自分のペースでやりたい派っていうか」


 やはりそう来たか。

 スキルの性質的にも、一撃離脱のアサシンタイプだ。

 集団行動よりは単独行動を好むのは分かっていた。


「別に構いませんよ。ソロ歓迎です」


「えっ、いいの?」


「ウチは『ギルド』ですが、

 常にパーティーを組んで行動することを強制したりしません。

 情報は共有しますが、攻略は各自の自由。

 ソロで潜りたいなら、それに特化したビルドを提案します」


 俺は畳み掛ける。

 ここが落とし所だ。


「それに実は俺、『鑑定』以外にもSSS級ユニークスキルを持っていましてね」


「は? SSS級がもう一個? 何それ、漫画の主人公?」


「それが『クラフト系』のスキルなんです。

 市場には出回らない、あなたに最適化された強力な装備を供給できます。

 クリティカル率を底上げするアクセサリ、とかね」


 リンが口をポカーンと開けた。


「……マジですか」


「マジです。

 ソロでやるなら、装備の質が生死を分けますよ。

 俺と組めば、最強の装備環境(環境)を提供します」


 数秒の沈黙。

 彼女は残りのコーヒーを一気に飲み干すと、ニカッと笑った。


「分かりました! ギルドメンバーになりましょう!

 ソロでもいいなら願ったり叶ったりだし、

 最強装備とか言われて断る馬鹿はいませんからね」


「契約成立ですね。歓迎します、神崎さん」


「リンでいいですよ、ギルマス」


 軽い調子だが、その目には確かな信頼の色が見えた。

 よし。

 最初の一人目にしては、上出来すぎる戦力だ。

 SS級の火力枠。

 彼女がいれば、ボスクラスのモンスターも瞬殺できる。


「じゃあリンさん。

 これがギルメンである証、そして最初のプレゼントです」


 俺はアイテムボックスから、昨夜作ったばかりの『清純の光輪』を取り出した。

 喫茶店の照明を受けて、神々しい銀色の輝きが広がる。

 中心の宝石が、深淵な青い光を湛えている。


「うわっ、綺麗……なにこれ?」


「『清純の光輪ピュア・ヘイロー』。俺が作ったユニークアイテムです」


 俺は彼女に首輪を手渡した。

 彼女は恐る恐るそれを受け取り、そしてステータス画面で詳細を確認したようだ。

 次の瞬間、彼女の目が限界まで見開かれた。


「ちょちょっと待って……なにこれ!?

 全耐性+5%にHP+40……ここまではいいとして、このスキル何!?」


「【元素の盾】。周囲の属性耐性を爆上げするオーラです。

 これがあれば、魔法攻撃やブレスで死ぬことはまずなくなります」


「いやいやいや! 強すぎでしょ!

 しかもこれ『マナコスト100%減少』って書いてあるけど……

 タダで使えるってこと!?」


「ええ。常時発動しっぱなしでOKです」


 リンの手が震えている。


「……これ、国宝級じゃないですか?

 こんなの貰っていいんですか?」


「言ったでしょう? 最強の環境を提供するって。

 あなたは防御をこれに任せて、ステータスは攻撃クリティカルに全振りしてください。

 それが『最適解』です」


 彼女はゴクリと喉を鳴らし、首輪を愛おしそうに握りしめた。

 そして俺を見て、不敵に笑う。


「……あーやばい。

 私、とんでもないギルドに入っちゃったかも」


「後悔してますか?」


「まさか!

 ワクワクが止まらないですよ。

 これ装備してダンジョン行ったら、私、無双できちゃうじゃん!」


 彼女は早速、その場で首輪を装備した。

 カチリ、という音と共に、彼女の周囲に淡い光の膜が一瞬だけ現れ、そして消えた。

【元素の盾】が展開された証拠だ。


「凄い……体が軽いし、守られてる安心感が半端ない……!

 ありがとうございます、ギルマス!

 私、ガンガン稼いできますね!」


「期待してますよ。

 あ、ドロップ品は売らずに俺に回してくださいね。

 適正価格で買い取りますから」


「了解ッ!

 あー早く試し切りしたい!」


 リンは子供のように目を輝かせている。

 その姿を見て、俺も確信した。

 このギルドは、間違いなく世界を席巻する。


 俺の『万象の創造』による最強装備供給。

 そしてリンのような『規格外のスキル』を持つメンバーたち。

 二つの歯車が、噛み合い始めた。


「さて、次はどんな才能に出会えるかな」


 俺は伝票を手に取り、席を立った。

 足取りは軽い。

 無職ギルドマスター。

 そして今、最初の仲間を得た。


 俺たちの「攻略」は、ここから加速していく。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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主人公の儲けがなさすぎる、、、情報とアイテム与えて物は適正価格で買い取りますって、、、 まぁそれをクラフトして金稼ぐつもりかもしれないけど、そのうち裏切る奴出てくるだろうな
(*´◇`)ノ 『リンさんは無双系MMOゲーマー・ソロプレイ勢』って、どこかで解説入れたらえぇんやで~ 厨二の妄想で考えてた『超レアで最強なアイテムや武器・防具だけど、扱い難くてお蔵入り……でもオレ…
始まって二日目、そうでなくても数日しかたってなくて比較情報もなさげなのに、神崎ちゃんが国宝級って認識するのはなんか違和感 キャラごとの認識は共有されてる訳じゃないですし
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