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第22話 【保存版】探索者タイプ別・完全攻略バイブル ~ビルドを間違えるな死ぬぞ~

 港区ミッドタウン・タワー。

 丑三つ時を過ぎ、都市の灯りもまばらになった頃。

 俺、八代匠は執務室のデスクで、モニターの光に顔を照らされながら、猛烈な勢いでキーボードを叩いていた。


「……よし、構成はこんなところか」


 手元には、ここ数ヶ月で収集した膨大なデータとネット掲示板のログ、そして政府から横流しされた死亡事故報告書がある。

 最近、俺が販売した装備のおかげで探索者の生存率は上がった。

 だが、それでも死ぬ奴は死ぬ。

 なぜか?

 「自分のタイプ(適性)」に合った立ち回りをしていないからだ。


「リーダー、まだ起きてるんですか? 明日も早いのに」


 背後から、眠そうな目をこすりながら乃愛ウィズが現れた。

 彼女の手には、夜食のサンドイッチと自分用のコーヒーがある。


「ああ。ちょっと『教科書』を書いててな。

 最近、勘違いしたビルドで特攻して死ぬ馬鹿が増えてきた。

 ポーションが自動補充されるからって、何も考えずに突っ込めば死ぬのは当たり前だ。

 ここらで一度、探索者の『アーキタイプ』について整理しておこうと思ってな」


「教科書……ですか?」


「そうだ。戦士、盗賊、魔法使い。

 そして、ソロ、パーティー、企業、軍人。

 それぞれのメリットとデメリットを明確にする。

 これを読めば、明日からの生存率が3割は変わるはずだ」


 俺はニヤリと笑い、書きかけの記事を乃愛に見せた。


「へぇ……『有料級ブログ記事』ですか。

 相変わらず、情報の出し方が巧みですね」


「情報は鮮度が命だが、ビルド理論は腐らないからな。

 よし、公開だ」


 俺はエンターキーを強く叩いた。

 これは全ての探索者に捧げる「生存戦略」の記録だ。


     ◇


 ブログ記事:【八代匠のビルド・ラボ】

 タイトル:【保存版】探索者のタイプ別・完全攻略ガイド ~お前の死因はビルドミスだ~


 どうも、八代だ。


 最近、街中で探索者をよく見かけるようになった。

 俺のショップで装備を買ってくれた諸君、ありがとう。

 だが、良い装備を買っただけで「無敵になった」と勘違いしている奴が多すぎる。


 今日は、現在確認されている主要な「探索者タイプ」と、それぞれの「正解ビルド」について解説する。

 自分のスタイルを見極めろ。


1.ソロ勢:戦士系ビルド(The Tank)


 まずは基本にして王道。

 剣や斧、盾を装備し、物理防御で受けて殴るスタイルだ。

 日本人の性格に合っているのか、今のところ一番人口が多い。


 概要:

 「敵の攻撃を受けても死なない」ことを最優先にしたビルド。

 重視するステータスは【アーマー(物理軽減)】【物理耐性】【ライフ】、そして【元素耐性】だ。

 これらをまんべんなく積み上げることで、不沈艦のような耐久力を手に入れる。


 メリット:

 「圧倒的な安定性」。これに尽きる。

 物理攻撃も魔法攻撃も高いアーマーと耐性で受け止めるため、多少のミスで即死することがない。

 苦手な敵タイプが存在せず、どんな状況でも「とりあえず耐える」ことができる。

 ソロでの事故死率が最も低いのは、このタイプだ。


 デメリット:

 「火力が低い(殲滅速度が遅い)」。

 防御リソースにステータスを割いているため、攻撃力が犠牲になっている。

 同格のモンスターを倒すのに、スキルで2~3発は殴る必要がある。

 1匹倒すのに時間がかかるということは、それだけ敵に囲まれるリスクが増えるということだ。

 囲まれてタコ殴りにされると、いくら硬くてもジリ貧になる。


 八代のアドバイス:

 「攻撃は最大の防御」という言葉があるが、初心者は忘れろ。

 まずは「死なない」ことが利益を生む。

 武器よりも、まずは良い鎧と盾を買え。俺の店にな。


2.ソロ勢:盗賊系ビルド(The Rogue)


 二刀流の短剣や弓を使う軽装スタイル。

 戦士が「受ける」なら、こいつらは「避ける」ビルドだ。


 概要:

 【回避力(Evasion)】【ライフ】【耐性】を積む。

 敵の物理攻撃を、数値上の確率で無効化する。

 さらに高い【移動速度】と【攻撃速度】で敵を翻弄しながらダメージを稼ぐ。


 メリット:

 「機動力」だ。

 戦士よりも足が速く、探索効率が良い。

 敵の攻撃を自動回避しつつ背後に回ってクリティカルを叩き込む。

 ソロでも安定して立ち回れるように見えるが……次のデメリットを直視しろ。


 デメリット:

 「事故死ワンパンのリスク」。

 戦士との決定的な違いは、ここだ。

 物理攻撃の回避にはキャップ(上限)がある。

 どんなに回避力を積んでも、システム上回避率は90%前後で頭打ちになる。

 一般的なD級探索者の装備なら、60%程度だ。

 つまり1000ダメージの攻撃が飛んできた時、戦士ならアーマーで500ダメージに減らして受けるが、盗賊は「0か1000か」だ。

 避けている間は無傷だが、運悪く強烈な一撃が直撃ヒットした瞬間、紙装甲のライフがごっそり持っていかれる。

 いわゆる「運が悪ければ即死」というパターンだ。

 能動的に攻撃を避けるプレイヤースキル(PS)が必須になる。


 八代のアドバイス:

 回避ステータスを過信するな。あれは保険だ。

 自分の足で動いて、攻撃範囲から逃げろ。

 棒立ちで殴り合うなら、戦士をやれ。


3.ソロ勢:魔法使いビルド(The Caster)


 杖を持ち、遠距離から魔法をぶっ放すスタイル。


 概要:

 物理攻撃に対する【耐性】や【回避力】といったステータスが、初期状態では皆無に近い。

 その代わり【エナジーシールド(ES)】という特殊な防御機構を持つ。

 これはライフの前にダメージを受ける「仮ライフ」だ。

 一定時間攻撃を受けずにいると、超高速で自然回復する特性を持つ。

 「ライフ+ES+耐性」で防御を固めるのが基本だ。


 メリット:

 「圧倒的な殲滅速度と制圧力」。

 攻撃力が高い。近接職のおおよそ1.5倍の火力が出る。

 しかも遠距離攻撃だ。

 敵が近づいてくる前に、魔法の弾幕で粉砕する。

 「敵を殺せば攻撃されることはない」。

 殲滅速度が速ければ速いほど、結果として被弾回数が減り、安定性が向上する。


 デメリット:

 「物理に弱い」。

 ESが剥がれた瞬間、中身はただの豆腐だ。

 特に物理防御アーマーがないため、弓矢や不意打ちの物理ダメージが直撃すると脆い。

 常に距離を取り続ける必要がある。


 八代のアドバイス:

 ESを信じろ。

 そして火力を盛れ。

 敵を近づけさせないことが最大の防御だ。


4.パーティー勢(The Party)


 さて、ここからは「組織論」だ。

 ソロは気楽だが限界がある。

 そこでパーティー(PT)を組むわけだが、ここにも落とし穴がある。


 概要:

 タンク(戦士)、DPS兼スカウト(盗賊)、魔法DPS(魔法使い)、そしてヒーラー(回復役)で構成されるチーム。

 互いの弱点を補い合う、教科書通りのスタイルだ。


 メリット:

 「対応力」。これに尽きる。

 どんな敵にも挑めるし、安定もする。

 地味だが重要なのが「荷物運搬係ポーター」を作れることだ。

 俺には【アイテムボックス】があるから関係ないが、一般探索者はそれがない。

 戦利品を大量に持ち帰るためには、PT内で荷物を分担する必要がある。


 デメリット:

 「報酬の分割(割り勘)」。これだ。

 探索者はボランティアじゃない。

 100万円の魔石が出ても、4人で分ければ25万円だ。

 時給換算で、ソロの4分の1まで落ちることもある。

 「安全を買う」という意味では安いかもしれないが、稼ぎたいなら足枷になる。


 八代のアドバイス:

 「仲良しグループ」で組むな。

 報酬の配分ルールを事前に決めておけ。揉めるぞ。


5.企業勢(The Salaryman)


 最近増えてきた、大手企業が抱える専属探索者チーム。


 概要:

 会社員として雇用され、業務としてダンジョンに潜る。

 パーティー編成が基本。


 メリット:

 「資本力による装備の充実」。これが最強だ。

 個人では買えない数千万円クラスの装備が「経費」で支給される。

 巨大な資本金を背景に、安全かつ効率的に狩りができる。


 デメリット:

 「報酬の低さ」。

 いくら稼いでも、それは「会社の売上」だ。

 探索者には毎月の給料+歩合しか入らない。

 一般のフリー探索者より、手取りは1~2割落ちる。

 パーティーだから尚更、取り分が少ない。

 夢がないとも言える。


6.軍人勢(The Public Servant)


 自衛隊、米軍などの公務員探索者。


 概要:

 国防の最前線。企業勢と同じく、組織運用が基本。


 メリット:

 社会的信用と、国からのバックアップ。


 デメリット:

 「待遇の悪さ」。

 はっきり言おう。今の制度は終わっている。

 彼らは命がけで戦っているのに、報酬は「公務員の給与規定」に縛られる。

 一般企業より制限が多く、副業も禁止なのに、報酬は固定給のみで少ない。

 これでは優秀な人材が流出する。

 今後の待遇改善が強く求められる部分だ。


 八代のアドバイス(政府へ):

 彼らの給料を上げろ。

 モチベーションが尽きた時、スタンピードを防ぐ壁がなくなるぞ。


【総括】


 お前が何を目指すかによって、選ぶべき道は変わる。

 安定して稼ぎたいなら「戦士ソロ」。

 一発当てたいなら「魔法ソロ」。

 スリル中毒なら「盗賊ソロ」。

 安全第一なら「企業勢」。


 自分の適性を理解し、正しい装備(俺の店で売ってるやつ)を揃えろ。

 ビルドを間違えなければ、ダンジョンは最高のATMだ。


 以上。


(執筆:アルカディア・ギルドマスター 八代匠)


     ◇


「……ふぅ。書き上げたぞ」


 俺はエンターキーを叩き、記事をアップロードした。

 設定価格は「500円」。

 この情報量なら、安すぎるくらいだ。


「お疲れ様ですリーダー。

 ……あ、もうコメントがついてますよ」


 乃愛がモニターを指差す。

 深夜だというのに、投稿から数分でPVが跳ね上がっていた。


『待ってました! 八代さんの解説記事!』

『有料かよ……と思ったけど読んで震えた。俺、盗賊なのに回避しか積んでなかったわ。だからすぐ死にかけてたのか』

『ES魔法使いの解説助かる。HP捨てていいと思ってた』

『軍人勢のところ泣いた。現役自衛官だけどマジでこれなんですよ八代さん……』

『企業勢だけど確かに夢はないな。独立しようかな』

『結論:八代ショップで装備買えってことですね分かりました(ポチー)』


 反応は上々だ。

 これでまた市場のIQが少し上がり、俺の装備が売れる土壌が整った。


「軍人さんのコメント、切実ですね……」


 乃愛が悲しげに言う。


「ああ。実際、自衛隊の中には俺より強いポテンシャルを持つ奴もいるはずだ。

 そいつらが安月給で飼い殺しにされているのは、国益の損失だ」


 俺は空になったコーヒーカップを置いた。


「この記事が拡散されれば、世論も動く。

 『自衛隊員の給料を上げろ』という声が大きくなれば、政府も無視できなくなるだろう」


「リーダー……。

 また『自分のため』って言うんですよね?」


「当然だ。

 自衛隊が弱体化して防衛ラインが崩壊したら、俺の安眠が妨げられるからな。

 壁役タンクには十分に飯を食わせておくのが定石だ」


 俺は肩をすくめた。

 だが乃愛は、嬉しそうに微笑んでいる。


「やっぱりリーダーは優しいですね」


「……寝るぞ。明日はB級攻略の最終調整だ」


 俺は照れ隠しに背を向け、仮眠室へと向かった。

 タイプを知り、己を知る。

 それが、この理不尽な世界を攻略する第一歩だ。


 俺が撒いた知識の種が、どんな探索者たちを育てるのか。

 少し先の未来が楽しみでならなかった。



最後までお付き合いいただき感謝します。




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