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第86話 命のオークションと狂奔の国家間外交、あるいは九つの残機を嗤う商人

 国連本部地下に設けられたI・G・U(国際公式探索者ギルド連盟)の最高会議室で、十五個の『身代わりの聖石』の行方を決める厳正なる抽選会が行われた直後。

 世界は、かつてない狂熱と、ドロドロとした欲望のるつぼと化していた。


「命を金で買う」。

 人類の歴史上、権力者たちがどれほど渇望し、そしてどれほど莫大な富を費やしても決して手の届かなかった絶対的なタブー。

 それが今、わずか十五個という物理的な結晶となって、現実世界に放り出されたのだ。

 抽選結果が各国の首脳にのみ極秘裏に通達された数分後には、すでに世界を裏で牛耳る巨大な情報網がそのリストをすっぱ抜き、世界の金融市場と外交ルートは完全に焼き切れるほどの過負荷オーバーロードを起こしていた。


 当選国は、アメリカ、日本、中国、サウジアラビアといった大国から、シンガポール、ツバル、ソマリア、ブータン、エルサルバドル、マダガスカル、パラオ、ルーマニア、アイスランド、フィジー、ニュージーランドに至るまで、見事なまでにランダムにばらけていた。

 八代匠が提案した「当選枠の譲渡・売買は自由」という悪魔のルールにより、この十五個の石は単なるアーティファクトの枠を超え、国家の存亡や未来の覇権を担保する最強の外交カードに変貌したのだ。


 世界規模の巨大企業群――GAFAMに連なるテックジャイアントや、国家予算を凌駕する資金力を持つ軍産複合体のトップたちも、血眼になって動き出した。

 彼らが提示する金額は、もはや数億円、数百億円といった次元ではない。

「数兆円」。

 それが、即死を一度だけ無かったことにする赤い宝石一つの、開始価格スタートラインだった。


 ◇


 アメリカ合衆国、ワシントンD.C.。ホワイトハウスのオーバルオフィス。

 合衆国大統領は、分厚い葉巻を燻らせながら、机の上に置かれたI・G・Uからの暗号化された当選通知書を満足げに眺めていた。


「見事だ。我が国は自らの手で、確実な『盾』を引き当てたぞ」


 大統領の言葉に、周囲を囲む首席補佐官や国防長官たちが深く頷く。

 超大国アメリカのトップとして、彼がこの石を使用することに異論を挟む者は国内には皆無だった。大統領の死はそのまま国家の混乱、ひいては世界のパワーバランスの崩壊を意味する。テロや暗殺のリスクが日常的に付きまとう彼にとって、この聖石は絶対に必要なものだった。


「私の安全はこれで確保された。となれば、次は『攻め』の手だ。他の当選国、特に経済基盤が脆弱な小国へのアプローチを急げ。同盟国であろうがなかろうが関係ない。言い値で買い叩け。我々のドルの力で、市場に出回る可能性のある聖石を一つでも多く合衆国の管理下に置くのだ」


 大統領は葉巻の煙を長く吐き出し、獲物を狙う鷹のような鋭い眼光を放った。

 アメリカは既に『覚醒の聖杯』によって探索者の質を飛躍的に高めている。ここに絶対的な生命保証システムが加われば、もはや他国が追随することすら不可能な完全無欠の覇権国家が完成する。

 彼らは自国分を確保した余裕から、他国の権利を札束で殴り倒すゲームへと即座に移行していた。


 ◇


 一方、同じく自力で当選を引き当てた大国・日本。

 永田町の自民党本部奥深くにある、外界の音を完全に遮断した密室では、アメリカのそれとは全く対極にある、あまりにも醜悪で泥臭い権力闘争が繰り広げられていた。


「総理。この聖石は、我が派閥の領袖である大山先生がお持ちになるのが筋というものでしょう。長年、この国の土台を支え、今回のダンジョン法整備においても多大なる尽力をされたのは先生ですぞ。国の未来を導くためにも、先生には万が一のことがあってはならない」


 恰幅の良い古参議員が、机を叩きながら唾を飛ばす。

 それに真っ向から噛み付いたのは、対立派閥の幹部だった。


「ふざけるな! 御年八十を超えた大山先生が、一体どこで暗殺されるというのだ! 聖石は『内因性の死』……つまり寿命や病気には効かないと八代氏も明言していたはずだ! そんな老い先短い方に持たせるより、我が派閥の若きホープであり、次期総裁候補である私にこそふさわしい!」


「なんだと貴様! 長老に向かって老い先短いとは何事か!」

「事実を言ったまでだ! 国家の貴重な財産を私物化しようとする老害め!」


 灰皿が飛び交い、怒号が飛び交う。

 日本の政治の中枢を担うはずの重鎮たちが、たった一つの「命の保険」を巡って、己の功績と権力欲を剥き出しにして内ゲバを繰り広げているのだ。

「私が国を導くために必要だ」「いや私だ」「危機管理の観点から言えば私にこそ与えられるべきだ」。

 その見苦しいまでの生存欲のぶつかり合いを、上座に座る現職の総理大臣は、死んだ魚のような虚ろな目で見つめていた。


(……好きにしろよ、もう。誰が持とうが、どうせ刺される時は刺されるんだ)


 総理は心の中で深く、深くため息をついた。

 本来であれば、一国のトップである彼自身が保有するのが最も自然な流れだ。しかし、この国でそんな正論を振りかざせば、翌日には内閣不信任案が提出され、足元から引きずり降ろされることは目に見えている。

 ダンジョンという未知の脅威に対処し、八代匠という得体の知れない怪物と渡り合い、諸外国からの圧力に耐え続けてきた彼の精神は、既に摩耗しきっていた。


「……まぁ、別に誰が持っても良いですけどねぇ。最終的に国益にかなう形に収まるのであれば、皆様でよく話し合って決めてくださいよ。私は少し、疲れました……」


 総理は力なく呟き、こめかみを揉んだ。

 日本の割り当て分は、こうして国家の安全保障という大義名分を失い、派閥争いの戦利品という最もくだらない形で消費されようとしていた。


 ◇


 大国が己の欲望を満たすために動く中、小国に落ちた権利は、国家の存亡を懸けた切実な外交カードとして機能していた。

 南太平洋に浮かぶ美しい島国、ツバル。

 地球温暖化による海面上昇の影響で、国土の大部分が水没の危機に瀕しているこの国は、奇跡的にも聖石の権利を引き当てていた。

 ツバルの大統領は、このたった一つの権利を、自らの延命のためではなく、国家と国民の生存のために使うことを決断していた。


 首都フナフティの簡素な政府庁舎。

 冷房の効きの悪い部屋で、大統領はアメリカの特命全権大使と向き合っていた。


「大使。我々の要求はシンプルです。現金はいりません。この聖石の権利を合衆国にお譲りする代わりに、我が国の国民一万人が安全に居住できる土地の割譲と、そこに至るまでの完全な移住支援、インフラの整備をお約束いただきたい」


 大統領の額には汗が滲んでいたが、その目は真剣そのものだった。

 アメリカ大使は余裕の笑みを浮かべ、手元の書類をトントンと揃える。


「大統領、お気持ちは理解できます。合衆国としても、同盟国であるツバルの危機を見過ごすわけにはいきません。テキサス州の南部に、広大な未開拓地をご用意しましょう。ただし、インフラの完全整備となると議会の承認が必要でしてね。まずは暫定的な居住区の提供と、数億ドルの支援金ということで手を打っていただけないか?」


 アメリカは足元を見ていた。ツバルには時間がないことを知っているからだ。

 大統領が歯噛みし、さらに交渉を重ねようとしたその時、部屋の扉がノックもなしに開かれた。

 入ってきたのは、仕立ての良いマオカラーのスーツに身を包んだ、中国の特命外交官だった。


「おやおや、アメリカの条件は随分と渋いようですな」


 中国の外交官は、アメリカ大使を無視してツバル大統領の前に進み出た。

 そして、極めて流暢な英語で、悪魔のような、しかし絶対に断れない提案を口にした。


「大統領。我が国は、貴国の国民皆様を、中国内陸部の特別自治区へご招待いたします。そこは気候も穏やかで、津波の心配など一切ない安全な土地です。

 移住費用は全額我が国が負担。さらに、到着と同時に、生活に必要な最新鋭の魔導インフラ――全自動の空調設備から無限の電力を供給するシステムまで――を完備した、一人一部屋のタワーマンションをご用意しましょう。学校も病院も、すべて最高水準のものを国費で建設します。ウチは住むには、とても良い国ですよ? どうかなー?」


「なっ……! 貴様ら、横からしゃしゃり出てきて!」


 アメリカ大使が顔色を変えて立ち上がるが、中国の外交官は涼しい顔で微笑み続ける。

 ツバル大統領の目が、大きく見開かれた。

 国家の消滅という絶望の淵に立たされていた彼にとって、中国の提案はまさに天からの蜘蛛の糸だった。

 イデオロギーや将来的な政治的属国化のリスクなど、今の彼らにとっては何の意味も持たない。国民が生き延びられるのであれば、魂でも売り渡す覚悟があった。


「本当か……? 国民全員に、安全な暮らしを約束してくれるのだな?」

「ええ、中国共産党の名に誓って。我々が必要とするのは、貴方の手にあるその『石の権利』、ただ一つだけです」


 大国同士の剥き出しの代理戦争。

 ツバルの小さな庁舎で、世界の覇権を巡る数兆円規模の外交戦が、今まさに決着を見ようとしていた。


 ◇


 同じ頃、アフリカの角に位置するソマリア。

 長年にわたる内戦と無政府状態が続き、国土が血で洗われ続けているこの地でも、聖石の権利という爆弾が投下されていた。

 正式な政府として国際承認を受けているものの、実質的な支配力は首都周辺にしか及んでいないソマリア連邦暫定政府。

 大統領宮殿の執務室には、遠くから聞こえる銃撃音と爆発音をBGMに、ロシアンマフィアを思わせる冷酷な目つきをしたロシアの特命使節が座り込んでいた。


「大統領。状況は理解しているはずだ。反政府勢力やイスラム過激派の連中が、ダンジョンでレベルを上げ、魔導武器を手に入れたことで、貴軍の劣勢は明らかだ。このままでは、一ヶ月後には首都が陥落し、貴方の首は広場に晒されることになるだろう」


 ロシアの使節は、葉巻の灰を無造作に床に落としながら、静かに脅迫した。

 ソマリア暫定政府の大統領は、血走った目でロシア人を見返すことしかできない。


「だが、我々ロシアは寛大だ。貴国の平和と秩序を取り戻すため、喜んで手を貸そう」


 使節はアタッシュケースを開け、中に入っていた分厚い書類の束を大統領の目の前に投げ出した。


「我が国の最新鋭魔導兵器の設計図、そしてシベリアのダンジョンで鍛え上げられた、レベル30を超える精鋭の魔導傭兵部隊、五千名。これを即座に貴国に投入する。

 彼らが反政府勢力を文字通り『物理的に消滅』させ、貴方の政権を盤石なものにしてやろう。

 ……対価は分かっているな? 貴方が手にした、その聖石の権利だ」


 それは交渉ではなく、絶対的な武力を背景にした強奪に近い取引だった。

「石を渡せば命を助けてやるし、敵も殺してやる。断れば見捨てる。いや、むしろ反政府勢力側にこの兵器を渡すかもしれないぞ」。

 言葉の裏に込められた明確な殺意。

 ソマリア大統領には、選択肢など最初から用意されていなかった。


「……分かった。権利はロシアに譲渡する。だから、早く部隊を送ってくれ……!」


 震える手で譲渡契約書にサインする大統領を見下ろし、ロシアの使節は満足げにウォッカの小瓶を煽った。

 内戦の炎は、一つの石によってさらに激しく、そして凄惨な形で燃え上がろうとしていた。


 ◇


 金と力と血が支配する醜悪な争奪戦が世界中で繰り広げられる中、全く異なる価値観で世界を震撼させた国があった。

 ヒマラヤ山脈の東端に位置する、敬虔な仏教国・ブータンである。


「国民総幸福量(GNH)」という独自の指標を掲げるこの国もまた、奇跡的な確率で聖石の権利を引き当てていた。

 周辺の大国――特にインドや中国、そして中東の王族たちは、この小さな国が持つ権利を金で買い叩こうと、即座に特使を派遣し、数兆円規模の経済支援を申し出ていた。


 しかし、ブータン国王は首都ティンプーの王宮から、世界に向けて驚くべき声明を発表したのだ。


『我々ブータン国民は、この大いなる試練の時代において、何が真の幸福であるかを常に問い続けてきました。

 先日、リヴァイアサンという未曾有の厄災からこの美しい世界を救うため、自らの命を犠牲にして光の加護をもたらした、前ローマ教皇聖下の気高き精神。我々はそれに深く感銘を受け、涙しました。

 仏教の教えとカトリックの教えは形こそ違えど、他者を慈しみ、世界を平和へと導こうとする祈りの本質は同じです』


 国王の穏やかで、しかし凛とした声が、世界中のメディアを通じて放送される。


『一部の権力者が自らの死を逃れ、不自然に命を長らえさせるための石など、我が国には不要です。それは自然の理から外れ、人々の間に不和と争いを生むだけの呪われた石に過ぎません。

 したがって、我が国ブータンは、この「身代わりの聖石」を受け取る権利を、いかなる対価も求めず、無償で……バチカン市国へと寄贈することを宣言いたします』


 世界が、完全に停止した。

 数兆円の価値を持つアイテムを、無償で寄付する。

 資本主義の論理に完全に反する、信仰と道徳にのみ裏打ちされた決断。

 これに最もパニックを起こしたのは、ブータンから権利を買い取ろうと群がっていた大国たちだった。


「バカな!? 無償で寄付だと!?」

「考え直せ! 我が国がインフラを丸ごと整備してやる! 5兆円出そう!」

「バチカンに渡ってしまえば、もはや我々が手を出せる領域ではなくなってしまうぞ!」


 中国の特使が怒鳴り込み、サウジアラビアの王族が直通電話で桁外れのオイルマネーを提示する。

 中東勢はすでに、パラオやフィジーといった小島嶼国に対し、国家予算の数年分に匹敵するキャッシュを文字通りの「札束ビンタ」で叩きつけ、強引に権利を買い集める工作を成功させていた。

「金で買えないものはない」。その信念で動いていた彼らにとって、ブータンの決断は理解不能な暴挙に他ならなかった。


 だが、ブータン国王の意志は固く、いかなる脅しにも屈する気配はなかった。

 世界中の世論も、ブータンの気高い決断を称賛する声で溢れかえり、強引な買収を仕掛けようとする大国への批判が急速に高まり始めていた。


 ◇


 港区ミッドタウン・タワー。アルカディア・マスターオフィス。

 世界中で巻き起こっている血みどろの外交戦、巨額のオイルマネーの移動、そしてブータンの美しき声明。

 その全ての情報を複数のモニターで同時に監視しながら、俺、八代匠は最高級のヴィンテージワインを傾けていた。


「……ははっ、見事なまでに踊ってやがるな」


 俺はグラスの中で揺れる赤い液体を見つめながら、声を出して笑った。


「ツバルは中国に国を売り、ソマリアはロシアの魔導兵器で血の雨を降らせ、日本の老害どもは身内で首の絞め合いか。

 で、ブータンはバチカンへの無償譲渡ね。いい話じゃないか。宗教的指導者っていうのは、こういう時に強いよな。中国も中東も、バチカン相手に武力行使はできないしな」


 俺の背後で、乃愛ウィズが呆れたようにため息をついた。


「マスター……。世界中がたった15個の石のために、国家の存亡を賭けて争っているんですよ?

 まるで世界の終わりみたいな騒ぎです。それをワイン片手に笑って見ているなんて、本当に悪趣味ですね」


「悪趣味? 人聞きの悪いことを言うなよ、乃愛。

 俺はただ、彼らに『選択の自由』を与えただけだ。俺が提案した抽選と譲渡のルールがなければ、もっと血生臭い戦争が起きていたはずだぜ?」


 俺は肩をすくめ、再びモニターに視線を戻した。


「それにしても……あいつら、本当に『身代わりの聖石』が究極のアイテムだと思い込んでるんだな。滑稽なほど必死だ」


 俺の言葉に、乃愛が不思議そうな顔をする。


「え? 違うんですか?

 一度だけ死を無かったことにするなんて、これ以上ないほどの究極の保険だと思いますが……」


「まあ、一般人から見ればそうだろうな」


 俺はワインを一口飲み、意地悪く口角を上げた。


「だが、ゲーマーの視点から言わせてもらえば、あんなものは所詮『1UPキノコ』に過ぎない。

 いいか、乃愛。聖石の仕様は『死んだ瞬間、その場に無傷で蘇生する』だ。

 これが何を意味するか分かるか?」


 乃愛は少し考え込み、ハッとして目を見開いた。


「……その場に蘇生する、ということは……もし死因となった危険が、その場に留まっていたら?」


「ご名答だ」


 俺は指を鳴らした。


「例えば、火山の火口に突き落とされたとしよう。マグマに触れて焼け死に、聖石が発動して蘇生する。だが、蘇生する場所はマグマのど真ん中だ。当然、次の瞬間にはまた焼け死ぬ。

 毒ガスが充満した密室でも同じだ。蘇生した瞬間に息を吸って、また死ぬ。

 あるいは、圧倒的な力を持つモンスターに殺されたとする。ボスの目の前で蘇生したところで、また一秒後に殴り殺されるだけだ」


 ゲーマー用語で言うところの、「リスキル(リスポーンキル)」、あるいは「起き攻め」というやつだ。

 死を無かったことにできても、死の原因を排除できなければ、結局は連続して死ぬだけの無意味な延命措置でしかない。


「あんな石、不意の狙撃や交通事故くらいにしか役に立たない『序の口』のアーティファクトに過ぎないんだよ。

 権力者たちがビビっている暗殺対策にはなるだろうが、ダンジョンの深層攻略や、真の絶望の前では気休めにもならない」


 俺はタブレットを操作し、俺の脳内にある『ダンフロ』の知識データベースから、ある一つのアイテム情報を引き出した。


「本当に恐ろしい命の保証を求めるなら、これくらいじゃないとな」


 俺がモニターに表示させたデータを見た乃愛が、再び絶句する。


【九尾の九命ナイン・ライブス・オブ・ナインテイル

 レアリティ:神話級(Mythic-tier)

 効果:

 ・所持者に「9つ」の追加の命を与える。

 ・自然死、病死、事故死、他殺、あらゆる全ての死因に対して発動する。

 ・所持者が死亡した際、安全な任意の拠点へと自動的に空間転移し、完全な状態で蘇生する。

 ・さらに、その死の原因となった属性、物理現象、あるいは特定の個体からの攻撃に対する『絶対耐性(完全無効化)』を恒久的に獲得する。


「……死ぬたびに、安全な場所に転移して、しかもその死因に完全な耐性がつく……?

 それって、つまり……9回死ぬ間に、あらゆる弱点を克服した完全無敵の存在になれるってことですか……?」


 乃愛の声が震えている。

 聖石とは次元が違う。死を『経験値』として吸収し、自己を進化させる狂気のアーティファクト。

 これこそが、真のエンドコンテンツに相応しい命の保証だ。


「まあ、こいつがドロップするのは東洋の超高難易度ダンジョン、おそらく京都あたりに出現する『大妖狐の社』の最深部だがな。

 今のレベル帯じゃ、匂いを嗅いだだけで呪い殺されるレベルの難易度だ」


 俺はタブレットの画面を消し、ワイングラスをテーブルに置いた。

 世界中の権力者たちが、数兆円という大金を積んで、たった1回、しかもリスキルの危険性があるだけの「聖石」を巡って泥沼の争いを繰り広げている。

 その姿が、俺には滑稽な猿芝居にしか見えなかった。


「命を保証するアーティファクトやアイテムなんて、ダンジョンの世界にはまだまだ山のように眠っている。

 彼らがこの程度の石でこれだけ狂喜乱舞し、何兆円もポンポン出してくれるなら……」


 俺は窓ガラスに映る自分自身の、極悪人そのものといった笑みに向かって呟いた。


「俺の商売ビジネス、この先も安泰すぎて笑いが止まらんな。

 せいぜい争え。相場を限界まで吊り上げておけ。

 お前らが必死になって価値を上げたその『命の市場』に、俺がもっと質の良い商品を流し込んで、根こそぎ刈り取ってやるからな」


 夜は更け、世界の喧騒はさらに熱を帯びていく。

 八代匠は、誰にも知られることなく、次なる搾取のシナリオを静かに組み立て始めていた。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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― 新着の感想 ―
 私は後9つの命を残している、この意味が分かるか?と言わないとな。
それこそ寿命がなくなるアイテムとかありそう
自然死に耐性付いたら寿命なくなるのと同義じゃ?
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