同室どうでしょう。
「月華ちゃん。同室って、興味ない?」
私がそう言うと、月華ちゃんは一瞬だけ目を見開いた。
「先輩となら、同室したいです」
即答だった。
その言葉が嬉しくて、少しだけ胸があったかくなる。
……でも。
私は、本当の理由を言えずにいた。
これは少し遡り、模擬戦をした後のことだ。
私は汗をかいたので、一度寮に戻り、シャワーを浴びていた。
お風呂場には小さい窓がついており、
そこから小さな生き物が入って来た。
……カエルだ。
私はカエルが大の苦手だ。Gは平気なのに……
急いでお風呂から上がり、悩む。
一回先輩に相談しよう。
「あのもしもし先輩、今から寮に来てくれませんか?」
【残念だが、無理だ陽奈。】
私は菜月先輩を頼った。結果は、無理らしい。
「そんな事言わずに、助けてください。」
【話だけなら聞いてやるよ。】
「カエルです。カエルが出ました。」
【そうか、じゃあな。】
「酷いですよ。菜月先輩。」
【全く都合のいい時だけ、後輩ぶるよな。】
「そんなに褒めなくても……えへへ。」
【はぁ、全く。そっちに月華がいるだろ。私から連絡しといてやるよ。】
「いや、それは……」
それはなんか、
月華ちゃんの前で、先輩でいられなくなる気がした。
「分かりました大丈夫です。自分でなんとかします。」
そう言って、電話を切った。
私は意を決して、お風呂場に入る。
ドンと、風呂桶に座ってる。
「うん。やっぱ無理。」
私は逃げたのだった。
服を着て、もう一度学校に向かう。
自主練してる内に出ていってくれるかもしれない。
そう思い、訓練室に向かった。
まだ練習してる……月華ちゃん。
こんなに頑張ってるんだ。
これだけやる気があれば、いい戦力になるかも。
そんな期待をしながら、私も練習を始める。
集中できない……
帰ったら、奴がいるからだ。
……だからかな。あんな提案をしてしまったのは。
すぐに、2人で、寮で同室になる申請を済ませ。
私の部屋に戻って来た。
どうしよう。
先輩としての立場を守りつつ、
月華ちゃんに、奴をなんとかしてもらう方法。
「あのさ月華ちゃん。
せっかくだし一緒にお風呂なんてどうかなーなんて。」
「えっ、いいんですか?」
「もちろんだよ。うんうん。」
月華ちゃんの背中を押して、どんどんとお風呂に近づけて行く。
「お風呂の洗い方とか教えてあげようかなーって。」
「私も、同じ寮に住んでいたので知ってますよ。」
あっ、そうだった。どうしよう。
「私が洗いますよ。先輩は座っててくださいね。」
この子は天使なのかもしれない。
ふんふん、全部上手くいってしまった。
これでカエルは逃してくれたはずだ。
「あの、お風呂沸いたので、入りま……せんか?」
忘れてた、一緒に入ろうとか言ったんだ。
なんで同性なのに、服を脱ぐ時って緊張するんだろうね。私の体に自信がないからなのかな。
謎の緊張に身を包まれながら、本日2度目のシャワーを浴びる。
……カエル居ないよね。
体を洗い湯船に浸かる。
月華ちゃんも体を洗って私の横にぽちゃんと入ってくる。
仲良くなってすぐなのに。ずいぶんと距離が近い。
狭い湯船のせいか太ももが当たる。
これはこれでカエルより良くないかも。
「そろそろでようかな。」
「は、はい。」
私はそっと湯船から出ようとした。
目線の先に緑の何かが目に入り、バランスが崩れる。
「ぐわぁ」
月華ちゃんのいる方のお風呂端に倒れ込んでしまう。
「ご、ごめん。滑っちゃった。」
緑のものに目を向けると、ただのスポンジだった。
あんなデカいカエルいる訳ないもんね。
目線を前に戻すと、
月華ちゃんが近い。
後少し近づいたら、触れてしまいそうなくらいに。
私は慌てて、体勢を戻し、浴室を出た。
なんか、心臓うるさい。
きっと……カエルのせいだ。
私はお風呂を出て、先に髪を乾かしている。
月華ちゃんより髪が短い分、私の方が早く乾くからだ。
「ごめんね、待たせて。」
「全然平気ですよ。」
月華ちゃんは優しい。それが分かっただけでも同室にした意味はあったのだろう。
「そういえば、先輩。お風呂場にカエル居たんですよね。」
「へ、へー。そうなんだ。そのカエルはどうしたの?」
やっぱ居たんだよな。スポンジじゃないよな。
「可哀想なので逃しましたよ。実家だったら飼いたかったんですけど。」
今飼うとか……言った?気のせいだよね。
寝る準備を済ませて、ベッドに転がる。
下のベッドには月華ちゃんがいる。
さっきの距離を思い出して、私は慌てて眠りについた。
朝私は6時に起きた。月華ちゃんは先に起きてもう準備を済ませていた。
「姉妹揃って朝強いんだ。」
「おはようございます。」
「おはよ月華ちゃん。」
私はなんだか昨日を思い出して気恥ずかしい。
「先輩顔赤いですけど風邪ひきました?」
「ひいてないと思うけど一応測っとくね。」
顔が赤くなってるらしい恥ずかしいな。
月華ちゃんはケロッとしてて、私ばかり意識してる気がしてしまう。
「熱ないみたいで良かったです。」
「ほんとね!今日から、学校だしがんばろ。」
月華はクラスメイトに向けて、短く言った。
「白凪月華ですよろしく。」
自己紹介とか苦手だなと、思いながら適当に挨拶した。
そのまま座り窓の外を見る。
陽奈先輩は今何してるのかな。
昨日は本当に凄かったな。
夢みたいだった。
月華ちゃんって呼ばれるだけで幸せなのに、
同室になって、
一緒にお風呂に入って、
あんな近くに先輩がいて、
寝られる訳がなかった。
授業1日目から、幸せそうに眠る女の子として、
校内でちょっとした有名人になったのでした。




