孤高の化け物
私が考える暇もないほどあっという間に練習試合当日になってしまった。
先輩はずっと優しい。
でも試合の事をずっと考えている。
先輩はいつも以上に目がギラギラしている。
今日が終わったら、それも終わるのかな。
「月華ちゃん。いつもありがとうね。」
「そばにいてくれたから頑張れたよ。」
笑って頷く。
手を握られて、寮を出る。
それが心地よくて、何も言えなかった。
学校の前に着く。練習試合の相手を案内するからだ。
「仲がいいね君たちは。」
手を繋いでるのをみて、部長が揶揄ってくる。
先輩は照れてるのか、離そうとする。
それが嫌で、私がぎゅっと握った。
「仲がいいのは良い事だけどね。今日は集中してくれよ。」
「当たり前でしょ。」
先輩は淡々と答える。
部長はきっと、先輩に向けて言ったんじゃない。
私が集中を欠いてるからだ。
「頑張ります。」
私もそう返す。手は繋いだままで。
試合相手の一団が着いた。
私たちは試合に出れる最低人数ギリギリの5人。
相手は12人と多い。それも男性が多かった。
「「今日は、よろしくお願いします。」」
礼儀正しく、勢いのいい挨拶に怯んでしまう。
先輩の顔を見ると、不敵な笑みを浮かべてる。
私はこの雰囲気、この顔を知ってる。
「なんでうちとやるんだろう。」
「さぁな。去年の事責めてくるんじゃないか。」
「それにしても可愛い子が多いよな。」
去年の事、それに気持ちの悪い会話が聞こえてしまう。
「去年の事ってなんですか。」
周りに聞こえないように、部長に聞いてみる。
「まあ色々とあったんだよ。」
それを聞いて、振り返って確認する。
去年先輩を倒すために、結託したところだ。
去年とは違う。私が横にいるから。
試合ホイッスルがなる。
それと同時に先輩は私の元から消える。
無詠唱で攻撃魔法を連発してる。私は背中を見る事しかできなかった。結果は勝ち負けとか、そういう尺度じゃなかった。試合というにはあまりにも一方的だった。
「もう一回やろう。今少し精度が悪かった。」
「ひな、これじゃ練習にならない。後ろで防御魔法だけにしといてくれ。」
「いや、まだなにも。」
部長の圧に押されて先輩は後ろに下がる。
「すいません、もう一度お願いします。」
ほとんど4対5で練習試合を続ける。
普段、4対1で、先輩を相手にしても勝てないのに。
今は先輩が居なくても勝てると思った。
「なんか、陽奈先輩と比べるとあれだね。」
「ほんとほんと、普通あのレベルじゃないんだね。」
小豆も莉緒も先輩を見慣れているせいか、今日はこれで終わりと、安心してしまったのかもしれない。
「も、もう終わりにしましょうか。」
相手の顧問らしき人が止めに入る。
「いや、ちょっと待って。」
「私1人でいいから、全員まとめてかかってきて。」
「いくらなんでも舐めすぎだろ。いいぜやろう。」
「去年の二の舞にしてやるよ。」
どんどんコートに入っていく。もう誰も止めれる雰囲気じゃない。
先輩はここにいる誰よりも楽しそうだった。
「何やってるの?月華ちゃんたちも入って。」
ここにいる誰も陽奈の隣には立てない。
お姉ちゃんが言っていた事を思い出した。
「誰も陽奈には敵わない。」
大人数対1。それでも敵わなかった。
「去年の件については、指導者として深くお詫びします。」
練習試合が終わり、相手の顧問の先生が頭を下げた。
「なんの話?」
「去年は、勝つためにはあれしかないと思い込んでしまった。結果として全国には行けたが……」
生徒たちも次々と頭を下げる。
「だけど、君たちが出ていたら全国最下位ということはなかっただろう。だから本当にすまない。」
負けたのに、強豪校としてのプライドだろうか。
それなら、最初からやらなければいいのに。
練習試合も、結託するような真似も。
「いいよ別に気にしてない。」
「私は負けてから考えたよ。この人数差を覆す方法。」
それはさっき、先輩が見せた。
「もう私は、誰にも負けない。」
この場にいる全員が、背筋を凍らせ息を呑んだ。
先輩は、私が居なくても平気なように思えてしまう。
弱いところも、強さで塗り潰せるくらいに、圧倒的だった。
でも、私は知ってる。
壊れた先輩を。
ほとんどみんな帰ってしまったのに、先輩はコートに寝転がり、天井を見ている。
「帰らないんですか?」
「なんかね、今な空気を忘れたくなくてね。」
「先帰っててもいいよ。」
この空気を知ってる。
「今日の私のプレーはどうでしたか?」
「……悪くなかったよ。」
私の事、見えてなかったはずだ。
「先輩は、今年は勝てると思いますか?」
「勝つよ。絶対に。」
私が聞くより先に、答える。
分かってた。
先輩は変わらないって。
いつか限界が来る。
この人は止まらないから。
だから私が、先輩を堕とす。
「先輩、模擬戦やりませんか?」




