このままがいい。
部内の雰囲気は最高だった。初心者の子達もだんだん様になり、質問されたり、指導求められたりする。
月華ちゃんは少し不満そうだった。
大丈夫、浮気しないよって目で訴えかける。
水を飲むの事も、時間が経つ事も、頭から抜け落ちていた。
私の体も思ったように動く。月華ちゃんとも、上手くいっている。
「今ならもっと、もっと強くなれる。」
時計を見るたび、時間が止まって欲しかった。
こんな部活がずっと続けばいい。
「先輩、楽しそうですね。」
「うん。凄く楽しいよ。」
「月華ちゃんも楽しいでしょ。」
「……はい。」
全員が一つになった。疑う理由も無く、そう感じるほどに、今は全てが光って見えた。
ここ2週間は、質の高い練習が続き、部として大きく成長している実感があった。
雨の音をかき消すような、大きな音で扉が開く。
「来週の土曜日に練習試合が決定した。場所はここ。」
「新入生はまだ慣れてないと思うが、
早く慣れるように頑張って欲しいと思う。」
久々に顧問が来たと思ったら、
なんとも嬉しい報告だった。
部でやる模擬戦とは訳が違う。
勝ち負けがちゃんと出る戦い。
身体中の神経が研ぎ澄まされるような、高揚感。
これだよ。これ。これを求めてた。
「先生待ってましたよ。」
思わず笑みが溢れる。
周りを見る事も、月華ちゃんを見る事もできないほどに、自分に酔っていた。
「それは良かった。無理せず頑張ってくれ。」
「「はい。」」
「部長傘壊れたの?」
「ああ、そうみたいだ。」
「月華、私入れてくれる?」
「もちろんですよ。」
「うん、じゃあこれ使って。
私は月華に入れてもらうから。」
急な呼び捨てはずるい。
「じゃあありがたく使わせてもらうよ。」
なんでだろう。
先輩と距離があるわけでもない。
部活も順調。
先輩と相合傘で帰ってる。
嬉しいはずなのに、胸が苦しい。
「月華ちゃん。来週楽しみだよね。」
先輩は前を見たまま、私に言う。
私は先輩を見て、答える。
「そう……ですね。」
でも離れたくなくて、思った事とは違う言葉が出る。
私も練習は楽しい。
先輩はすぐ横にいる。
なのに最近私の事を見てくれない。
どうして、そんなに戦う事が好きなんですか。
「先輩の力になれるように頑張ります。」
また私は思ってる事と違う言葉が出る。
「月華ちゃんが、そう言ってくれるなら安心だね。」
先輩の期待が私の逃げ道を塞ぐ。
もう少しで寮に着く時、車が勢い良く通る。
水溜まりが一気に降りかかるのに気づいて、先輩の手を引く。でも先輩はすでに防御魔法を展開していた。
「危ないね。」
前しか見てないはずなのに。
先輩にどこか置いて行かれた気分になる。
私が引っ張ったせいか、すぐ横にくっついてて。
今はただ、この距離でいいと思った。
傘が狭いせいか、肩が少し濡れる。月華の方を見ると、同じくらい肩が濡れていた。
練習試合前に風邪をひくのは、ごめんだ。
「帰ったら一緒にお風呂に入ろう。」
それなら2人ともすぐ温まれる。
私は湯船に浸かりながら練習試合の事を考える。
対戦相手はどこの高校なんだろ。
どんな戦略を取ってくるのかな。
逆にこっちはどんな戦略で行こう。
新入生が3人だから、難しいのできないし。
それに、試したい。無詠唱攻撃魔法。
今まで頭の中で考えるだけだった。
自主練は散々やってきた。
「先輩そろそろ出ないと、のぼせますよ。」
「うん……出ようか。」
今いいところだったのに。
お風呂から出て、夕飯を食べ、ベッドに入る。
私は思ってる以上に疲れていたのか、すぐ眠りに落ちる。
「私の事、本当に好きなのかな。」




