先輩、模擬戦やりませんか。
「先輩、模擬戦やりませんか。」
そう言って真剣な眼差しで見てくる。
私もしっかり見返す。けれど、すぐ逸らしたくなった。
この子に、こんな目で見られる理由が思い当たらなかったから。
「いいよ。知ってると思うけど、私けっこう強いよ」
あの時は、
こんなふうに私を見つめる子になるなんて、
思ってもいなかった。
最初に会った時の月華ちゃんは、
ただの――可愛い後輩だった。
廃部寸前の戦闘魔法部を守るため、チラシを貼っていた時だった。
「陽奈先輩。」
振り返ると、そこにいたのは見覚えのある黒髪の女の子だった。
落ち着いた佇まいで、どこか懐かしい。
「……白凪菜月先輩の妹さんだよね。月華ちゃん。」
「覚えててくれたんですね。」
嬉しそうに、ぴょこぴょこ寄ってくる。
気づけば顔がすぐ近くにあった。
気恥ずかしいけど、先輩として我慢した。
「この学校にしたんだね。やっぱ菜月先輩の影響?」
「いえ、陽奈先輩に影響されて来ました。」
……堂々とそんな事を言われてしまう。
私何かしたかな。
「話は変わるんだけどさ、私の部活廃部しそうで、部員を探してるんだけど、入りたい人知らないかな?」
「私入りたいです。」
「ほんと。それは助かるね。じゃあ部室まで行こっか。」
「部長。入部希望者見つけたよ。」
「良くそんな早く見つけたね。」
「ああ、白凪さんの妹か。どこかで見たと思った。」
「はい……姉がお世話になりました。」
部長は入部届けの書き方を説明し始める。
正直、私にはよく分からない。
それに少し退屈になってきた。
練習でもしようかな、と思い部室を出る。
「先輩、待ってください。」
なぜだか分からないけど追ってくる。
「どうしたの。」
「なんで、急にどこか行っちゃうんですか。」
「いやー、書類とかの話はあんまり分からないし……」
私がいなくても、できるだろう。
部長と仲良くしてたじゃないか。
「練習もしたいなって思っててさ。」
嘘は言ってない。
「じゃあ私も行きます。」
「資格持ってないと、訓練室は使えないんだよね。」
「持ってるので平気です。」
入学する前から入る気だったのかな……
「んーまあいいか。着いておいで。」
先輩の妹は強かった。
私と同じ無詠唱魔法の精度が高いタイプだ。
2人で的に向かって、魔法を打つ練習をしてる。
「先輩の妹だけはあるね。」
「私は、お姉ちゃんより強いですよ。」
「随分強気だね。嫌いじゃないけど。」
この歳でこれだけできれば、
すぐに姉を超えるかもしれない。
「私も負けてられないね。」
練習に集中し、気づいたら下校時間になってしまう。
「そろそろ帰るよ。」
「は、はい。」
月華ちゃんは息が切らしている。
結局大したことはないのかも。
気にせず、寮に向かう。
「あの、先輩。」
「どうしたの。」
今日はよく先輩って呼ばれる気がする。
「先輩は、どうして髪切ったんですか。」
「あー。まあ色々とね。」
この子は随分大胆だ。
髪を切る理由なんて、聞かれたくない事が多いだろうに。
私は歩くペースを早くする。
でも月華ちゃんの方が身長が高いからか、距離は変わらなかった。
「じゃあこれで。」
「はい。また。」
「あと2人部員が集まればね。」
「私が探しておきましょうか?」
「え、いいの。凄い助かる。」
この子、少し苦手かと思ったけどいい子かもしれない。
「任せてください。先輩のために頑張りますね。」
私……なんかしたっけ。
学食はもう閉まってる時間だったので、1人で料理をする事にした。
最近まで菜月先輩と同室だったからか、2人分作って残してしまった。
「明日の朝にでも食べればいいか。」
部屋が静かで、1人にしては大きい部屋。
なんだか居心地が悪くて、うまく寝付けない。
今日は、色々とびっくりだった。
特に先輩の妹、月華ちゃんだ。
……本当に何かしたっけ。
そんな事を考えていたら、眠りに落ちた。
まだ始業式前で学校には、ほとんど人がいない。
あと2人、見つけたら大会に出れるし、部も存続できる。
「部長、あと2人見つかりそう?」
「月華ちゃんから、昨日の夜連絡があって、見つけてくれたそうだ。これで大会でれるな。」
月華ちゃん、本当に探してくれたんだ。
「月華ちゃんは来てないの?」
「一年は、オリエンテーションだからな。」
「そっかぁ、それで学校にいるのね。」
「まあ午前中までだろうから、もうすぐ来るかもしれないよ。」
「え、てことは学食混むよね。早く行かないと。」
「お、おい。待たなくていいのか?」
部長に呼び止められた気がするけど、私は急いで学食に向かった。
ふー。ギリギリだったね。
私が食べ終わったタイミングで、ゾロゾロと一年生がやって来た。
月華ちゃんもいるかなーなんて探すけど。
見つからなかった。
すぐに、他の場所で見つける。
訓練室に居た。
「月華ちゃん。お昼食べてないの?」
心配になり声をかける。
「あ、先輩。今日はおにぎりを食べましたよ。」
「足りないでしょ。練習も大事だけど……食べて来なよ。」
「もっと、強くなりたいんです。」
「どうして、そんなに。」
月華ちゃんは悩んでいるような顔をする。
「先輩のせいです。」
「私、何かしたっけ。」
「覚えてないです……よね。先輩の言う通り、ご飯食べて来ますね。」
泣きそうな顔をして、訓練室を飛び出して行った。
「私、絶対何かしてるじゃん……」
月華ちゃんが1時間くらいして、戻ってきた。
「あの……ごめんね。本当にあんまり覚えてなくて。」
「いいですよ。でも、代わりにして欲しい事があります。」
「先輩、模擬戦やりませんか。」
月華ちゃんと、訓練室の狭いコートで向かい合う。
正直負ける気がしない。
なのに、覚悟が伝わってくる。
本気らしい、私に勝つ気でいる。
戦闘魔法で私はそれなりの有名人だ。
こんな人なかなか居ない。だからこそ面白い。
「私は攻撃魔法しか使わないから。」
「どういうつもりですか。」
「手加減ってやつだよ。新入生のために。」
「死にますよ……」
「死なないよ。やってみれば分かる。」
「じゃあ、やろうか。」
結果から言えば圧勝だった。
私は攻撃魔法で攻撃魔法を相殺し、無詠唱の簡単攻撃魔法を連続で放つ。
その精度が高く、誰にも真似できない。
それが、私の戦い方だった。
月華ちゃんは、私の戦い方に似ていた。
精度が私より低いが、十分に通用するレベルだった。
「正直舐めてたよ。やるね月華ちゃん。」
「先輩はやっぱり凄いです。」
後輩に褒められて、私はなんだか照れてしまう。
我ながら、ちょろい気がする。
「やっぱり間違ってなかった。」
「ん?何か言った?」
「大丈夫です。気にしなくて。」
「そう……」
月華ちゃんの目は、負けたとは思えないほどに、強いものだった。
――まるで、次をもう見ているみたいに。




