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ひらめき


 『スペル・シンフォニア』において、ダート大森林はさほど重要なマップというわけではなかった。

 マップもさほど広いわけではなく、更にはその先に広がっているである領域に関してはマップ自体が実装されていなかったほどだ。


 なぜ魔族が人間界に攻め込んできた際の中継地点という、本来であればかなりの重要地点になりそうな場所がこんな扱いを受けているのかといえば、それにはもちろん理由がある。


 少しメタ的な話だが、今後この奥のエリアがストーリーと絡まなくなるからだ。

 この森の先からやってくる魔族……つまり将来的にフレイム伯爵領を潰すことになる魔族はその名を『強欲』のタリバーディンという。


 こいつは数多の魔物を操りながら奇襲的にいくつもの都市を陥落させる残虐な魔族である。


 不意打ちと電撃戦を得意とするタリバーディンは、一つの街を落とせばそのまま居場所を変え、新たな獲物をその毒牙にかけるというルーチンを何度も繰り返す。


 タリバーディンは一度フレイム領を落としてから、主人公に討たれるまで再度ダート大森林の奥へと行くことはなかった。


 そしてタリバーディンがやられたことで、それ以降魔物達が生息域から出てくることがなくなり、ダート大森林はそれ以上ストーリーに関連することがなくなった。


 そのためその先にある物が明かされることもなく物語は終わりを迎えることになる。


 その奥に何があるのか……それは設定資料集を細かに読み込んでも、イマイチ判然としなかった。


 全体マップを見た感じ、そのまま北に進んでいけば海があることはわかったんが……実際にそこにどんな魔物が出るのかはわからない。

 これを知っておくのは実はかなり大切なことだ。


 何せ隣接する魔境からの魔物の流入は、この世界では珍しくない。

 ダート大森林に苦労して人を集め安全を確保したところで、隣からとんでもない魔物がやってきて領地が全滅……なんてことは絶対に避けたいところだからな。


 まったく未知のマップに向かうというのは少し怖くもあるが……ゲームをやっていた時はどうやっても行けなかった場所に向かうというのは、『スペル・シンフォニア』ファンとしては楽しみでもある。


 魔物の知識があれば逃げの判断もすぐにできるだろうし……一体何が飛び出すのかは、実際に行ってみてのお楽しみ、ということになるだろう。





「どこに向かうんですか?」


「まずは東か西に進もうと思っている」


 俺達が行くことができるのは、北と東の西の三方になる。

 北に進むと荒野エリアがあり、その先に進んでいくと海が。

 そして東と西には変わらずダート大森林が広がっている。


 というのも俺達が探索を終えたのはダート大森林の一部――具体的には、『スペル・シンフォニア』のマップに相当している部分だけだからだ。


 フレイム伯爵領とは地続きに広がっている入り口から扇状に広がっている、半径百キロはくだらないほどの扇形の大地である。


 その範囲を超えた先には、まだまだ視界に収まりきらないほどに広大な森林が広がっているのである。


 ダート大森林はご先祖様達が何度も痛い目を見ても開拓をしようと思うのもわかるくらいとにかく広い。

 もしこれら全域の開拓に成功すれば、領地面積的にはフレイム伯爵領を上回るのではないだろうか。


(これだけ広域から魔物を集められれば、たしかに防衛戦が厳しくなるのも当然か)


 個人的には北の先にある海が気になっているが、海であれやこれやをするためには人手が必要だ。

 それに公式が出しているマップの縮尺を考えると、ここから向かうにはかなりの距離がある。おそらく海に辿り着くまでにはいくつかの魔境を挟むことになるだろう。


 優先順位を考えると、まずは東か西に進むのが無難なように思えた。

 東西に続いている森からの方が、魔物が流入してくる可能性も高いしな。


 油断は禁物だが、森が地続きになっていることから考えて一気にがらりと魔物の面子が変わることもないだろうという安心材料もある。


 どちらに進んでも変わらなそうではあるので、俺達はとりあえず西に進路を取ることにした。

 その選択が、俺達の運命を大きく変えることになるとも知らずに……。








 幸いなことに、出現する魔物のレパートリーは進んでいても変わらなかった。

 出てくる魔物は浅層に出てくるやつらがほとんどで、むしろ戦っていて余裕すら感じられるような状態であるう。

 連戦しても余裕があるほどだったのでガンガン進んでいくと、徐々に出現する魔物にも変化が生じ始める。


「明らかに……弱くなってますね」


「ああ、この強さなら普通に開拓もできそうだ」


 どうやら強力な魔物が密集して出現していたのは『スペル・シンフォニア』のマップ部分に該当する場所だけらしく、このあたりまで進んできてしまえばレベル20ほどもあれば問題なく森の中を探索することができそうだ。


 これなら大幅に予定を変更して、一気に探索を進められそうだと思っていた矢先のことだった。


「ん……なんだ?」


「魔物同士の戦闘音でしょうか?」


「……行ってみるか」


 突如として聞こえてくる戦闘の音に、息を潜めながら現場へ向かう。

 魔物同士が戦うというのは、ダート大森林の中ではままあることだ。


 だが俺の聞き間違えでなければ、魔法やスキルが発動して起こる爆発音だけではなく、剣戟のような音まで聞こえてくるような気がする。


 そして現着したところ、俺は先ほどの音が自分の聞き間違えでなかったことを知る。


 そこにいる俺達の視界の先に、魔物と戦闘をしている者達の様子が映る。

 魔物はダート大森林の浅層に出てくる巨大な熊、ヒュージベアーだ。


 マップ該当部分を出てからは弱い魔物とばかり戦っていたので、なんだか懐かしく感じられる。

 それに武器を構えながら対抗している彼らは、間違いなく人間であった。


「人、ですね……」


 呆然とした様子のララ。

 まさかこの場に人間がいるとは思っていなかったのだろう。


「私とヴァル様の一夏のアヴァンチュールが……」


 言っている意味はよくわからないが、とりあえずショックを受けているようだ。

 彼女が見つめる先では、優に二メートルを超えているヒュージベアーがその巨体で暴れ回っている。

 それに相対しているのは女一人に男二人の三人組だ。


 三人ともその手に湾曲した山刀を持っており、着ている服は王国のそれとは違う文化圏であることを感じさせるエスニックな造りになっている。


 だが何よりも目を引くのはその頭部、そこにピンと生えている一対の獣耳だった。


(なるほど、亜人か……)


 亜人とは、簡単に言えば人間に似た種族のことだ。

 獣人やエルフ、ドワーフなどが該当しており、ある一定の分野において人間より優れた能力を持っていることが多い。


 彼ら獣人は人間より高い身体能力を持っていることで有名だ。


 一体なぜここに人間がと最初は疑問だったが、その正体が獣人なら納得がいく。


 獣人は基本的に狩猟採集文化で暮らしており、巨大な街を作ることなく小規模な集落を作り集団生活をしていることが多い。

 恐らく彼らの集落が、この辺りのエリアにあるのだろう。


「ニーナさん、めちゃくちゃ硬いですよ!」


「ちいっ……なんとかして足に傷を付けて、この場を離脱するぞ」


「「了解!」」


 どうやら前衛に立っている女性がこの集団の代表らしく、彼女の言葉に二人が頷いた。

 

 その地力を活かし一撃離脱の形で攻撃を繰り返しているようだが、どうやら決め手に欠けているらしい。

 傍から見ている限り、戦いは魔物側に優勢なように思えた。


「GOAAAAAA!!」


「えっ……うわああああああっっ!?」


 先ほどまでと同様後ろ足を狙おうとしていた男の亜人の甘い攻撃に対し、ヒュージベアーが逆にその足を刈り取ろうと前足を掬い上げた。


 その爪に服を引っかけられた男が、後方に思い切り吹っ飛んでいき樹に激突、喀血しそのまま意識を失った。


 先ほどまで三人でなんとか対応できていたが、欠員が出て二人になったことで彼女達の動きも明らかに精細を掻き始める。

 このままでは逃げることも覚束ないだろうと思い、ここらで助太刀に入らせてもらうことにした。


「ライトニング」


 下級雷魔法ライトニング。

 発動までの時間も短く魔力の使用量も少ないため、俺が使える魔法の中では最も使い勝手のいい魔物だ。

 けれど既にレベル40を超えている俺が放つ下級魔法の威力は、以前とは比べものにならないほどに上がっている。


「GUOOOOOOO!?」


 俺の魔法を食らったヒュージベアーが悲鳴を上げる。

 そしてもう一発ライトニングを打ち込んでやると、断末魔の声を上げながら絶命した。


 浅層の魔物相手なら、下級魔法でもなんとかできるようになったとは、俺もずいぶん強くなったものだ。


 ズズゥンと音を鳴らしながら地面に倒れ込むその身体は、完全に黒焦げになっている。


 最近攻撃魔法の威力を上げることに重点を置きすぎたせいか、こんな風に上手く魔力が調節できないんだよな。

 時間を見て、そのあたりの練習もしておかねば。


「――誰だッ!?」


 ケモミミ女戦士のニーナさんが、こちらへ剣の切っ先を向けながら誰何の声を上げる。

 突如としてやってきた闖入者である俺達のことをかなり警戒しているらしく、その声は若干上ずっていた。


 まだ距離はかなりあるはずなんだが、的確に魔法の射手の居場所を探り当ててみせるか……探知能力もずいぶん高いようだな。

 身体能力だけではなく、嗅覚や聴覚も優れているのかもしれない。


 俺はそのまま両手を挙げて敵意がないことを示しながら、ゆっくりと彼らの元へと近づいていく。

 彼女達を見た瞬間、俺の脳裏に電撃が走った。

 そうか、その手があったのか。

 領民が来てくれないというのなら……原住民の人達に、領民になってもらえば万事解決じゃないか!

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