未踏
魔法には大きく分けて三つの習得方法がある。
一つ目は最もオーソドックスな、師匠につくことで魔法を教えてもらい習得するやり方。
そして二つ目がスクロールと呼ばれている、読むだけで魔法が使えるようになる巻物を読むというやり方だ。
これが一番楽なのは間違いないが、スクロールは一番安い物でも金貨数十枚はくだらないほどの高値がついているので、こちらはあまり現実的ではない。
最後に三つ目が、現在俺達がやっているレベルアップによって魔法を覚えるやり方だ。
実はこれもまた、本来であればあまり一般的な方法ではない。
なぜかといえばレベルを上げるためには今の自分と同じ……あるいはより強力な魔物と戦い経験値を稼ぐ必要があるからだ。フェイクトレントという魔物があるからこそできた裏技みたいな物だ。
ただこれはあくまでこの世界における考え方。
『スペル・シンフォニア』においては、レベルアップでスキルや魔法を覚えるのが基本線だった。
あ、スキルっていうのは簡単に言えば後天的に得られる才能や技の総称と思ってくれればいい。
ちなみにスキルは大きく分けるとただ持っているだけで効果を発揮するパッシブスキルと、魔力を消費することで能動的に使うアクティブスキルの二種類に分かれていたりする。
おっと、脱線しかけていた話を戻そう。
わざ○シンよろしくスクロールを使って魔法を覚えることも一応可能ではあるんだが、別に大枚を叩いてまで使わなくても高レベル帯まで上げれば強力な技が使えるようになるので、わざわざ覚えさせる必要もないことがほとんどだからである。
こいつを使うのは弱キャラ単体で魔王を撃破する、みたいなネタ動画の投稿者などに限られていたと記憶している。
百を超えるプレイアブルキャラがいた『スペル・シンフォニア』においては、ある程度レベルアップに覚えるスキルや魔法にも型がある。
これまたメタが入るが、全員のスキルと魔法をいちいち細かく考えるわけにもいかないので、ある程度共通のフォーマットを利用したのだろう。
その型で言うと、たとえばララはレベルが上がるごとに使えるようになるバランスタイプ。
使えるようになっている魔法から類推するに、火力特化というより回復や妨害なども行える支援型の魔導師の構成になっていきそうだ。
対して俺はというと、大器晩成型……つまりレベルがかなり上がってから一気にスキルと魔法を覚えるタイプだった。
最初のうちは使える魔法の数でララにどんどん水をあけられそうになって焦ったが……まさか大器晩成型だったとはな。
てっきりスキルや魔法を覚えずに身体能力だけが上がっていく攻撃特化型だとばかり思っていたので、正直これは嬉しい誤算だった。
『スペル・シンフォニア』においては強キャラ扱いをされることが多かったこの大器晩成型だが、この世界においては不遇な扱いを受けていることが多い。
普通に暮らしていても、その真価が発揮できるレベル帯までいけることがほとんどないからな。
だから俺が記憶を取り戻さずに辺境で不遇を嘆きながらだらだら生きていただけでは、この事実に気付くこともなかっただろう。
まあ長々と話したわけだがどういうことかというと……ここから先の俺は、戦えば戦うだけ強くなっていくということだ。
「エレクトリックシェル」
「GRAAAAAAAA!!」
俺の上級雷魔法、エレクトリックシェルを食らったウィンドリザードがそのままバタリと地面に倒れ伏す。周囲には死屍累々な魔物達の死骸が転がっている。
ここはダート大森林深部。
一月前の俺であればまともに探索することも叶わなかった、この大森林でもっとも強力な魔物達の出現する地域である。
――そう、俺がこのダート大森林にやってきてから、早いもので既に二月もの時間が経過していた。
「チェインライトニング」
「「「ギャアアアアアアッッ!!」」」
ララが魔法で足止めをしていた大量のホブゴブリン達を、連鎖する雷で一網打尽にする。
ゴブリンって生き物は本当にゴキブリのようにどこにでも湧いてきてウザい。
対して経験値にもならないというのがまた腹が立つ。
「お見事です、ヴァル様」
「まあ、これだけ使い続ければ嫌でも慣れるさ」
慣れた手つきで解体をしつつ、ホブゴブリンの素材はまるっと放置してそのまま森の中を歩いていく。
俺もララもレベルが上がったおかげで、森の中を歩く程度で息を切らすこともなくなった。
このニヶ月間ほど、俺とララはとにかくダート大森林で魔物を狩り続けた。
おかげで今では俺のレベルは43、ララのレベルも42まで上がっている。
最初は浅層の魔物を入り口付近まで釣り出しながら狩り、余裕が出てきたので普通に森の中を探索して魔物を狩るようになり、最初に通っていた中層で大出を振って歩けるだけの強さを手に入れてからゆとりを持って深層に入っていき……。
道中何度か危ない場面もあったが、こうして今では問題なく深層探索を行うだけの実力を手に入れることに成功していた。
俺とララの技の相性も、なかなかどうして悪くない。
彼女の水魔法は俺の雷魔法と相性がいいというのも大きいし、俺のスキルと魔法が攻撃偏重型なのに対し、彼女は回復を始めとして色々と補助ができるので状況に応じて小回りが利くのだ。
ララが回復魔法を使えるのが特に大きい。
魔物の強さやエンカウント率の高さもあって、無傷のまま進み続けるのはなかなか厳しいものがあるからな。
ララがいなければ、探索のペースはかなり落ちていたはずだ。というか俺が一人で森の中で野垂れ死んでいた可能性もそこそこ高かったように思う。
ゲーム知識があっても、なんでも思い通りにいくわけじゃないと知ったよ。
「……っと、行き止まりみたいですね」
「となると……うん、これで終わりだな」
ララと一緒になって、手元にある羊皮紙をのぞき込む。
そこには俺とララの二ヶ月間の努力の結晶があった。
マッピングを続けることで、最初のうちは白紙だらけだった地図にはびっしりと書き込みがなされている。
元から生えていた巨大な樹や、俺達が新たに作った目印なども記されていて、これを見ながらであれば問題なく探索ができる精度の地図が出来上がっている。
(こうして眺めてみると、まったく別物だな)
そこに記されているダート大森林は俺の脳裏の中にある攻略本のマップとは似ても似つかないものに仕上がっていた。
ゲームだとそこしか通れなかった道筋が獣道になっていたりはするが、当然そこ以外にも森は広がっているから、非常に立体的に見える。
調査自体は二ヶ月で終わったがその範囲自体はかなり広い。
なんせ途中からは人間離れした体力で超特急でマップ埋めができるようになったからな。
ここ全体を切り開いて入植すれば、万単位で人がやってきても問題なさそうだ。
まあそもそも来る人間がいないわけだけどな。
「さて、そうなると次に考えなくちゃいけないのは大きく分けると三つだな」
「三つ、ですか?」
「ああ、まずは魔物をとにかく大量に狩って人間が暮らせる領域を作ること。そしてもう一つが……新たに作る領地に領民を、集めることだ」
「あぁ……」
俺が口ごもりながら言った言葉に、道中のあれやこれやを思い出したのだろう。
ララが途方に暮れるかのように上を見上げる。
俺も一緒になって見上げてみると、鬱蒼と茂る木々のおかげでより緑の面積の方がデカくてちょっと気分が萎えた。
ダート大森林の魔物を減らすこと……実はこれ自体はそこまで問題ではない。
魔物は基本的には知能が高くないため、とりあえず血をばらまけば匂いに釣られてやってくる。
そこを俺とララが殲滅させてしまえば、一気に森の生態系を壊す勢いで魔物を刈り尽くすことも不可能ではない。もちろん全滅させるのは不可能だが、場所を絞って徹底的に殲滅すれば入植予定地の魔物を削ることはさして難しくはないはずだ。
なので問題になるのはむしろ後者……領民集めの方だ。
一応俺はここにやってくるにあたって、各地で俺が領主となるダート大森林への入植の勧告を出した。
けれど恐ろしいことに、立候補する人間は一人も現れなかった。
一人も、である。
食い詰めて道ばたで倒れてる浮浪者の姿もあったのだが、彼らすら俺についてくるつもりはないらしい。
我ながら人望のなさに泣けてくる。
ヴァル・フォン・フレイムの悪評は、少なくともフレイム領内に轟いている。
そのため領内で領民を集めるのは絶望的といっていい。
貴族としての強権で集めることは不可能ではないが、そんなことをすれば後からどうなるかわかったものじゃない。
父上に領主としての資格無しとみなされてしまえば、そこでゲームオーバーだ。
かといって領外から呼び寄せれば、場合によっては内政干渉だのと難癖をつけられて紛争の原因になってしまう可能性があるため、これも難しい。
魔物を駆逐することなら問題はなさそうなのだが、いかんせんそこに入植させることになる領民を集める目処はまったく立っていなかった。
一難去って一難。
魔物を倒せるだけの強さを手に入れるだけでは、まだ本当に一歩目を踏み出したばかりに過ぎないのである。
「あのぉ、今言ったのだとまだ一つ足りないように思うのですが……」
おそるおそる、といった様子でララが手を上げる。
その疑問はもっともなので頷きを返し、最後まで取っておいたTODOリストのラストを口にする。
「ああ、だから俺はこれから三つ目の……ダート大森林の先の未踏エリアの調査に出かけようと思う」




