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これが


「雷魔法で空を飛ぶだと……そんなこと、できるはずがない!!」


「電磁浮遊ってやつだよ……知らないのか?」


 この二年間、俺は海底で魔物相手に戦闘経験を積みレベルを上げていただけではない。

 他の奴らを育てている間にもスキルと魔法の鍛練は怠っていなかった。


 そして絶えず魔法の鍛練を続けることで、俺は上級より更に一段上の階梯――超級魔法へと手をかけることができるようになっていた。


「超級雷魔法、マグネティックフォース……タリバーディン、空はもう、お前の領域だけじゃない」


「ちいっ!!」


 マグネティックフォースは電磁的な浮力を発生させるだけではなく、磁場を発生させることで磁力の反発による加速・減速を自由に行うことができるようになる。


 タリバーディンが振るう腕を掻い潜り、すれ違いざまに胴を薙ぐ。

 そのまま下に飛び足を切りつけ、加速の勢いを利用してアッパーの要領で切り上げる。


「ぐああああああっっ!! この……舐めるなぁッ!」


 鮮血が舞い、悲鳴が上がる。

 けれど未だ戦意が衰える様子はなく、タリバーディンは爪をこちらに向けると、それを一位に伸ばしてみせた。


 槍の刺突のように迫ってくる爪を避け、軽く剣で弾いて相手の動きを牽制しながら接近。

 ラスティネイルを避けながら、お返しとばかりにタリバーディンの喉元に切っ先を突き刺してやる。


「がはっ……。貴様、俺のスキルを知っているな! 一体なぜ……まさか、こちら側に内通者が……?」


「さあ、どうだろうな?」


 ゲーム知識があるからなのだが、敢えて訂正するようなことはしない。

 俺の返答を聞いたタリバーディンがスキルを使い黒い衝撃波を打ち出した。

 距離を取ってその一撃を避けると、息を荒げながら肩で呼吸をして


「それに、超級の雷魔法だと……? ――ふざけるな! なぜ人間風情が、そんなものを使うことができる!?」


「才能があったからだろう。スキルでもそう出ている」


「スキルだと……まさか、貴様ッ!?」


「ああ、俺は――雷帝だ」


「バカな、貴様のようなガキが……雷帝!?」


 パッシブスキルの中には、スキルのような各種ステータスから成長補正に至るまであらゆるものに補正をかけるスキルが存在している。


 その中には、持っているだけで周囲から一目置かれたり、恐れられたりするようなスキルがいくつも存在している。


 その中で勇者や賢者スキルと並び称されるほどのスキルに、帝系と呼ばれるスキルがある。


 これは各属性ごとに世界で一人しか持つことのできない、オンリーワンのスキルである。

 その属性において誰よりも才能があることを示し、強力な成長補正や魔力消費量減少、耐性付与などを与えてくれる、ある種のステータスともなるようなスキルだ。


 俺はそのうちの雷属性……つまりは雷帝を持っている。

 この世界における雷魔法のトップ・オブ・トップ……それこそがこのヴァル・フォン・フレイムなのだ。


「実際、俺も驚いたよ」


 『スペル・シンフォニア』の設定資料集はほとんど全ての情報が網羅されている。

 だがどういうわけか、雷帝を持つキャラは存在していなかったのだ。


 それに関してもネット上でもいくつか予測は立てられていたが……まさか俺が転生したヴァル・フォン・フレイムが雷帝持ちだったとは。


 覚醒するよりも早く死んでしまったせいで、ゲーム世界ではまともな活躍ができなかった。


「だが――今は違うッ! サンダーロード・オーバーライド!」


「ぐうっ!?」


 俺の雷魔法は、使えば使うほどに成長していく。

 威力は上がり、射程は伸び、使う魔力量は減少していく。


 練習を積めば誰でも使えるわけというわけではない超級魔法が使えるようになったのも、きっと雷帝スキルと無関係ではないだろう。


 この世界はスキルという形で、残酷なまでに才能が可視化されてしまう。

 そのせいで色々と嫌なこともあったが……成長したことで、俺の世界は一変した。


 ヴァルに転生したからこそ、もし彼が生き延びていたらどんな風にストーリーに関わってきただろうと益体もないことを考えてしまう。

 だからこそ、これからは――。


「サンダーロード・オーバーライド!」


 タリバーディンの爪撃を避け、魔法を放つ。

 今では上級雷魔法を連発することも造作もない。


 俺が一撃を放つ度にタリバーディンの身体が黒く焦げ、煙が上がっていく。

 近づいてくるタリバーディンを速度で翻弄し、その全身に傷が増えていった。


 動きが見える、ついていける、近接戦闘でも上回ることができている。

 これが俺が転生してやってきた努力の結果。

 ――この二年間の集大成。


「ぐうっ!? なぜだ!?」


 タリバーディンの身体を切り刻み、袈裟斬りの斬撃を放つ。

 下に吹き飛ばされたタリバーディンは周囲にクレーターを作りながら、地面にめり込んだ。

「食らえ……超級魔法、サンダーエルロード・オーバーライドォォォォ!!」


「バ……バカな! 魔王軍幹部のこの俺様が――」


 超級雷魔法、サンダーエルロード。

 今の俺が放つことができる最大威力の魔法に、オーバーライドを使って大量の魔力をぶちこんでいく。


 これが今の俺の正真正銘の全力。

 このヴァル・フォン・フレイムのありったけを――受けてみろ!


「おおおおおおおおっっ!!」


 魔法が発動し黒い雷雲から振り落とされた極大の雷の柱がタリバーディンへと突き立つ。

 魔法は発動したが、その上で更に魔力を込める。

 雷の柱がドンドンと太く、そして強い輝きを宿していく。


 ものすごい勢いで魔力が減っていき、思わず立ちくらみで倒れそうになる。

 だがこの瞬間だけは、意識を手放してなるものか。


「ぐ……ぐわあああああああっっ!!」


 瞬間、この場全てを光が包み込んだ。

 周囲から音が消えたかと思うと、巨大な爆発が辺り一面に激しい破壊の波が押し寄せる。


「はあっ、はあっ、はあっ……」


 魔力が欠乏し全身に倦怠感を感じながら、ゆっくりと息を整える。

 魔法が発動し終えたことで空からは雲が消え、空には光が差していた。


 空に近い場所にいるからか、いつもよりも陽光が眩しく感じられる。

 煙が晴れ、視界が戻る。

 地面に倒れ伏したタリバーディンは、二度と起き上がることはなかった。


「――っ!」


 気付けば俺はガッツポーズを作り、拳を高らかに天へと掲げていた。

 辺りから沸き起こる歓声。

 くるりと振り返れば、そこにはこちらへ笑みを向ける父と弟の姿が見える。


 二人の姿を見て、改めて実感が湧いた。

 俺はバッドエンドを回避し、大切なものを守ることができたのだ、と――。

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