迎撃
魔物の数の急激な増減……それは『強欲』のタリバーディンが動き出したことを示す何よりの証拠。
――どうやら俺が積極的に動いたことで、タリバーディンの側の動きにも変化が起こっているらしい。
報告を聞いた俺達は、急ぎ北と西に連絡を飛ばした。
魔物が消えた以上、いつ戦闘が始まってもおかしくない。
ちなみにダート大森林は広大で各地に居る者達とは距離が離れているが、連絡手段は存在している。
以前シルバーウルフをテイムした時にわかったことなんだが、獣人にはテイムのスキル持ちが複数いた。
彼らがテイムした鳥を連絡手段に使うことで、ダート大森林内であっても素早い情報の共有が可能になっているのだ。情報は逐一集めることができるようになっている。
故に獣人達からもたらされた報告によって判明した、魔物の減少のニュースの確度は高い。
緊張に思わずごくりと唾を飲み込んでしまう。
「ということは……ヴァル様が警戒されているその魔物の襲撃が、近いうちに起こる、ということでしょうか?」
「ああ、今すぐにというわけではないだろうが……準備が始まったのは間違いないだろうな」
『スペル・シンフォニア』においてタリバーディンが動き出す時の兆候の一つに、魔物の数の減少が上げられる。
タリバーディンは本体自体は強くないが、配下の大量の魔物をある方法で使役することができる。
そのため彼を倒すためには大量の雑魚魔物を倒しながら本体の居場所を探り当てる必要があるという、少々面倒なタイプのギミックボスだ。
ここから先は言わばボスとのイベント戦なわけだ。
(いくらなんでも早過ぎるだろ……)
本来であればまだ三年の猶予があったはずだ。
タリバーディンが魔物を使役するのにかかる時間はさほど長くはないことを考えると、この段階で動き出すのはいささか早すぎる。
『スペル・シンフォニア』との間で大きな違いがあるとすれば……俺が急速に進めたダート大森林の開拓、だろうか。
(だがギリギリだが準備は整った……早く終えられるのなら今後の領地経営もずいぶんと楽になるだろうし、ここはプラスに考えておくことにしよう)
本来であれば負けるはずのイベント戦も、戦いの勝敗をひっくり返せるだけのことはしてきたつもりだ。
某有名RPGのようにバグを使ってちからのたねを増殖させることはできないが、それに負けず劣らずの超強化はさせてもらったからな。
「前にも説明したが、一度魔物が消えだしたとなると、その魔物達が強化され、どこかに出現し始める。それを叩きながら、本体が現れるのを待って、そこからボス戦だ」
「たしか強化された魔物は黒く変色するんじゃったな?」
カーミラ達にも既に話は共有しているため、動き出すためのタイムラグもない。
こくりと頷きながら、間違いがないかをセルフチェックするためにも脳内の知識をもう一度呼び起こす。
「ああ、タリバーディンは一度魔物を食らい、その魔物を己の魔力でコーティングして吐き出すことで己の支配下に加える。その黒い魔物が出たら、それを魔物達を叩いてもらう」
タリバーディンは神出鬼没な魔族ではあるが、その行動パターンにはいくつかの規則性がある。
そのうちの一つが、彼が人間や亜人達が住んでいる集落を落とそうと動くこと。
人間を下等生物とみなしている彼は、それを狩ることに愉悦を見出している。
その残虐性を逆手に取られるなどとは、あちらもまったく考えてはいないだろう。
ダート大森林で動くとすれば、俺が支配下に加えているどこかを攻め立てることになる。
外の開拓村や南の街を狙いに行く可能性もあるが……タリバーディンの強さは、自らが使役した魔物の数によって変動する。
長距離移動をするようになるのはある程度魔物の数が増えてからだったはずなので、まずは領内のどこかに出現するはずだ。
「領内に警戒網を張って……そこからは機動戦だ。多分俺達もすぐ出ることになる、いつでも出撃できるように、準備を整えておいてくれ」
「了解致しました」
「妾に任せておくのじゃ!」
頼もしく頷く二人を見ていると、少し心のゆとりが出てきた。
今頃西と北にも同じ連絡が届いているはずだ。
ナナもリリィも、上手くやってくれているだろうか……。
俺は自分の嫁達が上手くやってくれることを願いながら、索敵班の報告をジッと待つのであった……。




