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水の下

「ふむ、なるほどな……」


 話を聞かせてもらったところ、どうやらマーメイド達は魔物によってその生存圏を脅かされているらしい。


 彼女達は陸生動物相手の水中戦であれば無敗を誇るが、海には彼女達でも手こずるような強力な魔物達も多い。


 どうやら今回はその中のうちの一体、中でも特に強力な個体のせいでマーメイド達に少なくない被害が出てしまっているらしい。


 脳内でシミュレーションをしてから、こくりと頷く。


「うむ、それなら俺達でなんとかしてみよう」


「……えっと、その……」


 リリィがこちらを見上げ、そしてそのまま隣にいるカーミラの方を見る。

 明らかに訝しげな様子である。


 たしかに出会ったばかりの男にいきなりそんなことを言われても、信じるのは難しいだろう。


 だがどうやらかなり困っているのは間違いないらしく、わずかな希望であってももしかして……と思っているように見える。


「任せておけ、妾達ならそんな巨大な魔物でも余裕で倒せるのじゃ!」


 カーミラがドンッと胸を叩きながら豪語する。

 彼女の場合俺ならなんとかしてくれるだろうと根拠もなく言っているだろうが、実際聞いてみた魔物の強さと俺達の状況を勘案すれば、決して不可能ごとではない。


「いくつか聞きたいんだが、リリィは水中呼吸用の水魔法を使えるか?」


「はい、カーミラとは何度か一緒に漁に出かけたりもしていますよ」


「バフ用の歌スキルはいくつある?」


「鬼人の歌、魚鱗の歌、颯々(さっさつ)の歌の三つです」


 それぞれ攻撃・防御・敏捷に関するバフだ。

 歌スキルは重ね掛けが可能であることを考えれば……うん、問題ないな。


「よし、それなら一度俺達で海に潜ろう。海中戦に慣れたら、マーメイド達を苦しめているというその魔物を倒すぞ」


 話を聞いたところ、その魔物の正体は十中八九海魔――クラ―ケンだろう。

 既にレベルが頭打ちになっている俺達からすれば、水中マップへ行くことができるようになるのは正しく渡りに船。

 ここでレベルを上げながら恩を売り、マーメイドにも是非とも俺達の仲間になってもらうことにしよう。






 水中戦闘において、基本的に防具があると重すぎてまともに動けなくなる。

 まずは身軽さを重視して、水着に着替えさせてもらった。


 ミスリルソードを握り、そのまま潜水。

 そして息が苦しくなるより前に、リリィに魔法をかけてもらう。


「レスピレーション」


 水の中でもよく響く彼女の声と共に、俺の頭の周囲にぐるりと泡が包み込んだ。

 先ほどまで感じていた圧迫感が一瞬のうちに消え、普通に呼吸ができるようになる。


「これ……すごいですね」


「ああ、やはり使えると便利だ」


「すみません、私が不甲斐ないばっかりに……」


「気にするな、誰にでも得手不得手はある。俺も使えないわけだしな」


 特殊水魔法、レスピレーション。

 湖の中や海底神殿などの水中マップで呼吸を可能にしてくれる魔法である。


 レスピレーションの魔法は、使えるキャラクターがかなり限られている。

 使うのに特殊な才能が必要なため、ララでは覚えることはできなかった。


 だがそんなことに負い目を感じてもらう必要はないので、しっかりとフォローを入れておく。

 俺はもう十分なほど、ララに助けられているからな。


 しかしこの段階で水中マップに入ることができるようになったのは、正直なところ僥倖と言える。

 これで限界に近づいていたレベルアップに、光明が見えた。


(何せ水中の中でも深部のマップは、終盤になってからようやく解禁される場所だ。潜れば潜るだけ魔物も強くなる)


 海中エリアは、海の深度によって浅瀬、中域、深瀬、海底の四段階に分けられている。  そして海に出現する魔物の強さは、そのエリアによって変わる仕組みになっているのだ。


 『スペル・シンフォニア』において、水中の深瀬・海底の両マップに入ることができるようになるのはそれぞれ終盤・クリア後であり、そのため深くに棲む魔物達のレベルは極めて高い。


 クリア後に探検することが考慮されているため、海底エリアであればトロルキングクラスの魔物と邂逅することもそこまで難しいことではないのだ。


 その分危険度も高いので、慎重を期する必要はあるだろうが……水中呼吸ができるようになっていることも考えれば果敢に攻めても大丈夫だろう。


 雷魔法は水棲の魔物と相性がいいし、少し大胆に攻めてみても逃げることならできるはずだしな。


「よし、深度を下げてまずは深瀬エリアまで行くか」


「わふっ!」


「ベ、ベルトには負けないのです! あおおおんっ!」


 ベルトが楽しそうに吠えると、なぜかナナも対抗して吠えていた。

 なんで狼と張り合う必要があるのだろうか……。

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