宴
トロルキングという王を失い足並みを崩したトロル達を倒すのは、アマゾネス達にとっては余裕のことだった。
そのまま掃討を終えてから、俺達はアマゾネスの集落で今回の討伐戦の成功を祝い宴を開くことになった、のだが……
「ほらヴァル、こっちじゃ! もっと近う寄るのじゃ!」
「あ、ああ……」
俺は現在、なぜか女王であるカーミラ直々に接待を受けていた。
というか、先ほどから妙に距離が近い。
むにっとした感触が胸に当たって、大変情操教育によろしくない。
前世の記憶がなければ、ひょっとして俺に気があるんじゃないかと勘違いしてしまっていただろう。
カーミラ 忠誠度 92
だがどうやら彼女は擬態をしているわけではなく、本心でこちらを歓待しようとしてくれているらしい。
にしても俺はそこまで何かをしたつもりはないんだが……ちょっと忠誠度上がりすぎじゃない?
「ヴァルも飲むのじゃ、ほれほれ!」
「んぐ……ん、思っていたより飲みやすいな」
この世界では成人は十五才なので、酒を飲むのは問題ない。
どうやらアマゾネスの集落で飲まれているのは果物を発酵させた果実酒のようで、王国で一般的に飲まれているエールなどと比べるとかなり飲みやすい。
軽く蜂蜜なども混ぜているからか、甘くてジュースでも飲んでいるようだった。
「むむっ、新たなライバル出現の予感に、ララは震えております!」
ララが眉間に皺を寄せながら逆側に座ると、負けじといわゆるあててんのよをしてくる。
両腕が大変幸せな状態になってはいるのだが、そのせいで手に持っている果実酒が飲めなくなってしまった。
って、そんなに強く掴まないでくれ!
こぼれるこぼれる!
「何、複数人の嫁を娶る程度は男の甲斐性よ! のう、お前様よ?」
「め、娶る……?」
「うむ、妾はヴァルの嫁になるぞ! さっきそう決めたのだ」
なるほど、嫁……嫁ッ!?
まるで決定事項であるかのように堂々と言ってくるので、思わずそうなのかと頷きそうになってしまった。
ど、どうしていきなり結婚の話になるんだ!?
いくらなんでも話が飛びすぎだろう!?
「俺の意志とかないのか?」
「もちろんある……が、これはヴァルにとっても不利益のある話ではないと思うんじゃが」
一体それはどういう意味だろうか?
思わず上体を乗り出して話を聞く体勢に入ってしまう。
「ヴァルはアマゾネスの集落を手に入れたいと思っておるだろう?」
「……どうしてそう思う?」
「妾も女王じゃ。お主の目を見ていればそれくらいのことはわかる。邪な気配があれば、会った瞬間に敵対していたじゃろうからな。それで、質問の答えはどうじゃ?」
「……言い方を選ばずに言えば、その通りだ」
最初にやってきた時は調査が目的だったが、カーミラと出会いアマゾネスの集落があることを発見したことで、俺の目的は彼女達の勧誘に変わっていた。
この森の中の魔物達の勢力をこれ以上伸張させぬため、タリバーディンの影響力を可能な限りを削ぐためには魔物を狩れるだけの戦力はいくらでも欲しい。
今後の防衛を考えれば、正直なところ単体でトロルを容易に屠ることができる彼女達の戦力は喉から手が出るほどにほしい。
「妾と結婚すれば、それを叶えてやれる。アマゾネスは女王集権型の魔人じゃ、妾が命じればお主の軍門に降るのを嫌がるやつはおるまいて。ましてやそれが妾の伴侶とでもなればな」
「……なるほどな」
たしかにカーミラの鶴の一声さえあれば、アマゾネス達は俺の指揮下に入ってくれるだろう。
女王が強大な権力を持つアマゾネス社会において、カーミラの言葉は何よりも重い。
だが……結婚、か……。
思わず隣にいるララを見る。ララは何も言わず、ジッとその身体を縮こまらせていた。その拳がキュッと、小さく握りしめられる。
すると俺の視線の動きを見たカーミラが、はぁと小さなため息をこぼした。
「……無理は言わん。今はとりあえず婚約で構わぬ。もし妾達の力が必要なくなったら、その段階で巷で流行りの婚約破棄をすればええ。お前を愛することはないとでも言ってな」
「……いいのか?」
「勘違いするでないぞ。妾は別にヴァルを困らせたいわけではないのじゃ。お主の力になりたいという気持ちは本物じゃ」
カーミラはドスッと勢いよくジョッキを机の上に置く。
そして立ち上がると大きく息を吸い、周囲の戦士達に聞こえるように大声を出した。
「聞け皆の衆! 妾はここにいるヴァル・フォン・フレイムと婚約をする! 今日は妾の婚約記念日じゃ! 好きなだけ飲んで歌って騒ぐのじゃ!」
「うおおおおおおお!! おめでとうございまああああす!!」
「カーミラ様最強!! カーミラ様最強!!」
カーミラの叫び声を聞いた周囲がやいのやいのとはやし立て、先ほどまでよりも更に早いペースで酒が消費されていく。
辺りの騒ぎ声はますますやかましくなっていき、周囲の雑音がドンドンと大きくなっていく。
そのタイミングを見計らって、カーミラがそっと耳元に口を近寄せた。
「妾は第二夫人で構わぬ。もしお主がララを娶ると覚悟を決めた時は、しっかり妾のことも娶ってくれたもれ」
「……」
「二人で、何仲良さそうに話してるんですか!? 私も混ぜてください!」
俺とカーミラの間に割って入るようにやってきたララに、すまぬすまぬとカーミラが謝る。
話し始めた二人を余所に、俺の脳内では先ほどの言葉がぐるぐると回っていた。
カーミラとの婚約は、アマゾネスの力を借りるのにこれ以上ない一手だ。
だが、やはりその前にはしっかりとケジメを……。
「……ヴァル様、私の顔に何かついてますか?」
「ついてるぞ……鼻が」
「ええっ!? ――って、鼻がついてるのは当たり前じゃないですかっ!」
こうして俺はカーミラとの婚約という予想外のイベントを経ながらも、無事アマゾネス達を自身の傘下に入れることに成功した。
今回の一件は、色々と考えさせられることが多かった。
ララとの関係も……今一度真剣に考えなくちゃいけないな。
これで残るは北方の海だけだ。北を踏破することができれば……後はタリバーディンと戦うための準備をするだけだ。




