2-6 撮影のあとに
並んで座る電車の中で、隣りに座って、太もも同士が触れる。
一輝は気にならなかったが、佳祐は気になったようで、「ごめん、」と言って体をはなした。
明日も守屋は向こうで撮影があるとのことで、東京のスタジオは佳祐が入るらしい。二人で帰路についた。
「あの写真、使われるのかな」
一輝は写真集のことを考えていた。
「イヤなら言ったほうがいい。おれが言っておこうか」
佳祐はすぐにそう返す。
「でも、せっかくプロに撮ってもらったわけだし」
一輝はどこか吹っ切れた気分だった。佳祐が思わず呟くように、綺麗だと言ったので、照れつつも、いい写真なのだと自信が出てきた。
「そう……」
佳祐は座席に深くもたれて、床をぼんやり眺めた。
山並みを抜け、住宅地の多い辺りに来る頃には、すっかり夜景になっていた。
「守屋さんに、こんなに謝礼ももらっちゃったし、どこか付き合ってよ」
と、一輝は誘ってみた。
「もちろん、新宿で降りるか」
駅を出て目についた居酒屋に入った。
酒で口が滑らかになってきた頃、佳祐が蒸し返してきた。
「やっぱり載せるのはやめたほうがいいんじゃないか」
「じゃあ、あの写真はどうするの?」
一輝は頬杖をついて、佳祐を見た。
「おれが買い取る」
「闇に葬ろうとしてるな」
「や、それは……そんなことはないけど」
と、口ごもる。
一輝は疲れたところに、酒も入ってきて、佳祐らしからぬ歯切れの悪さが面白くなってきた。
「別にいいんじゃない?記念にさ」
「あんなに嫌がってたのに?」
「なんか、撮られてみて、熱意が伝わってきたからさ」
佳祐がビールをあおって、初めて飲んだ時みたいに、苦い顔をした。
「気分良くなっちゃったの?」
「そうかも……」
一輝は目を細めて笑った。
「やめたほういいよ」
佳祐がまた苦そうにビールを飲んだ。
ふと一輝がスマホを見ると、通知画面にテキストメッセージが表示されていた。
「守屋さんから連絡きてた」
「連絡先、交換したの?」
「うん、『今日はありがとう』って」
「だめだって、返さなくていいから」
「それは失礼だろ」
「また撮りたいとか言うから。あの人こだわり始めると止まらないからさ」
佳祐はやめておけ、と顔の前で手を振った。
「……なんかおれ、強引な人に弱いんだよね」
一輝はため息をつく。
佳祐は僅かに身を乗り出すようにして言った。
「強引なのはおれだけで十分だろ」
「はは、たしかに!」
一輝はスマホ画面から顔を上げた。思ったより、佳祐が真面目な顔をしている。しばし見つめ合ってしまった。
一輝は、やがて視線をそらして冗談ぽく言う。
「でも、お前も結婚するから、あと強引なのは守屋さんくらいかな」
「強引だったら誰でもいいのかよ」と佳祐が苦笑した。
「なにそれ」と一輝も笑う。
佳祐は肩の力を抜いて呟いた。
「結婚ね、できる気がしない」
「あきらめんなよ」とだけ一輝は返す。




