第7話:漆黒の中の色白、それでも笑って~
焚き火のぱちぱちという音が心地よく響いていた。金色の炎が揺れる中、僕の周りには自分とは違う肌の色をした人々ばかりいた。
けれど、もう驚かなくなった。最初の頃は、見るものすべてが異国の幻みたいだったけど……今では、慣れてきた。
鼓の音が夜空に溶け込む。子どもたちはきゃっきゃと走り回り、大人たちは焚き火の周りでくつろいでいた。香ばしい肉と薬草の匂いが漂い、僕のお腹がまた鳴った。今夜三回目だ。しっかりしなさい、リゼット。
僕は足を崩して、草編みのマットの上に胡座をかいて座っていた。貴族の娘がそんな格好をするなんて、もし母が見ていたら卒倒していたかもしれない。
けれどここにドレスコードなんてないし、僕のブーツはとっくに赤土で染まっていた。
「……それで本当に言ってたんだなー? マコノは僕のことを“空から降りてきた神の使い”だと思ったってー?」
串の先に残った肉をかじりながら、僕はにやり笑みを浮かべた。
マコノは腕を組んでむくれた。
「光に包まれて現れてきたんだと聞いたよ? 神様以外の何者だっていうんだよ」
「うん~、確かにそういうなんだけどぉ~」
困ったように唸る僕。
「しかもね、ふふふ...」
と、ナイアが隣で笑いながら続けた。
「彼、リゼットさんにヤギを二匹と塩の袋を捧げようとしたのよ」
「えっ、それマジ~?」
僕は転げそうになった。
「ヤギって! ねえ、マコノ、僕の国ではヤギの名前がついた馬車に乗ってるんだよ? ヤギには乗らない、ヤギで運ばれるんだぞー?」
双子のチマとマドゥはどっと笑い、酒をこぼしかけた。
アベニは太鼓を叩きながら、僕が初めてこの村に来たときの歩き方を真似していた。腰をくねらせ、誇らしげに、ツカツカと。僕は彼女にウインクを返す。
「ほほほうー」
オヤマ長老までが口元に微笑を浮かべた。あの堅物が、笑うなんて。
思えば、最初はこんな雰囲気じゃなかった。あのときの僕は銃を構え、ブーツの音を響かせ、顎を高く上げて村に現れた。
周囲は僕を星から落ちてきた災いのように見ていた。通り過ぎるとき、彼らはお守りを握りしめた。
けれど、今!
今では……まだ視線は感じる。...でも、それはもう「恐れ」ではなくなったんだ。
興味。警戒。そして、ほんの少しの——好意...
僕はナイアに小声で囁いた。
「ねえ、見てて飽きないー? こんなに周りと違っての白い肌を見るの、うんざりしてない?」
彼女は一瞬驚いたように瞬きをしたあと、優しく笑った。
「違いは、恥ずべきものじゃないわ」
「まぁ、そうかも。でもまるで一人だけ幽霊が混じってるみたいでさー」
「でもあなたは、雷を呼ぶ幽霊で、子どもたちと一緒に踊るのよ。それは素敵なこと」
僕は焚き火の向こう側に視線を向けた。
マドゥは木で作ったおもちゃの銃を手に、子どもたち相手に「バーン! バーン!」と叫びながら演技中。
アベニは戦士たちとリズムゲームで競っている。
タジリは……やっぱり少し離れたところで腕を組んで立っていた。前みたいに鋭い目じゃない。ただ、静かに僕の方を見ている。まるで……観察してるような......
僕は肘をついて背中を少し倒し、空を仰いだ。
——もし、あの貴族の社交界の人たちが今の僕を見たら、どう思うかしらね~?
リゼット・フォン・アルジャンティエ。
高貴なるアルジャンティエ公爵家の令嬢。
太鼓の音に笑いながら串を食べ、ハイヒールブーツが揃う魔導拳銃使いのための学院指定のとても短いショートパンツ姿で踊り、そして未開の部族たちと打ち明ける。そして拳銃の匂いは、焚き火の煙と混ざって香ばしい。
……もう上等じゃない~?
「ふふふ...」
僕は小さく笑った。誰に向けてでもない、僕だけの笑いだった。
「案外……悪くないね、ここは...」
ここは、僕が産まれてきた世界じゃない。
舞踏会もなければ、銀食器もない。
けれど——騒がしくて、暑くて、荒っぽくて、それでいて、とても真っ直ぐで......
そして、漆黒肌の人間ばかりに囲まれながら、僕だけが肌白いような、選ばれし女神みたいな存在に感じる~!
「ふふふふ~!」
これこそ、僕がず~っと夢見ていた『冒険譚』だぞ~!
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