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第5話:砂漠に咲く火花

二週間目に入り、僕は砂漠の風の香りを覚えた――焼けた石、煙、そしてかすかな甘み。


渓谷に響く太鼓の音は、クラシック音楽に代わり僕の日常の音楽になった。異国の絹をまとった幽霊のように村を歩く。魔法で保たれている僕の白磁のような肌は、常に視線を集めた。称賛ではない。畏怖と不安めいた感情だね~。


やっぱり僕はまだ『異物』だったよね。よそ者って感じで...

まあ、仕方ないけどねえ。実際そうなんだし。


タジリに連れてこられ市場へ。


編み笠の下には干し肉、磨かれた骨の装飾品、紐で束ねられた香草が並ぶ。子供たちが籠の陰で囁き、大人たちは遠慮なく見つめる。彼らの視線は僕の顔より、僕の白い肌と腰の拳銃へ向かう。


「あれは『まじゅう』ってもの……」

誰かが呟いた。


素敵ね、みんなに注目されてるのって。


だが全ての視線が警戒ではなかった。


「リバー・トゥリーズのニアだ」

タジリが紹介する。


銅の腕輪と雨粒のようなビーズを身に着けた、渓谷より古い眼差しの女が、病児の胸に薬草を塗りながら歌っていた。


彼女の視線が僕を捉えた時、日焼けに冷水を当てられたような感覚がした。


「炎を放つ鋼鉄を、精霊たちは信用しない...」

穏やかな声。

「だがあなたに悪意は感じない。ただ……葛藤がある」


「僕はいつも矛盾の塊みたいなものだぞ?」

笑いながら頭を傾げる。


「嘘じゃねえな」

タジリが呟く。


鍛冶場では、煙と雷の化身のような巨漢クウェクが、赤熱する金床からも目を上げない。


「北方の地からきた白い民の偉いさんの娘だと聞いた...」

唸るように。

「だが炎を操れるか? 鋼に従わせられるか?」


「作るより壊すのが得意だけどね~」

にやりと笑う。


もちろん、全員がここまで控え目ではなかった。


「白は味方、茶色は敵! 太陽の天使がカディールを滅ぼす!」


マコノだ。この細身の狂信者は、炎に群がる蛾のように僕を追いかけ、槍を掲げて目を輝かせる。


「またこの子?」

げんなりした声をあげる僕。


「善意からだと思う、はぁぁ......」

タジリは長いため息。

「熱心すぎて……極端に誤解している」


マコノが決めポーズ。

「爆破の貴女! 敵を串刺しにしましょうか?!」


「やめて」

先週作られた(実際の敵の首を飾った)僕の祠が悪夢だった。


その週の終わり、炎の輪に引き寄せられるように足が向いた。


太鼓の響く中、炎の舞姫アベニが赤い渦を巻きながら踊る。


彼女は突然回転を止め、腰に手を当てて一言。


「あんた」

指をさす。

「前髪と爆発の」


「え?」


髪と拳銃を指差す。

「威張り屋で口達者で、寝相は蛇みたい。でもリズムに乗って戦える?」


「試すしかないでしょ」


打ち合いの末、持ち前の護身術の高さで白い肌の僕は槍を使って黒い肌の彼女のそれを絡みとって無力化させ圧倒的に相手を打ち負かした。


「やっぱり、白い人は強いよね。女神みたいにわたし達へやってきたような者......」

そして認められた僕。


夕暮れ、テントを二つの小さな台風が襲った。


夕暮れ時、二筋の砂煙と笑い声がテントを突き破った。


「リゼット様!銃を作ってみました!」

「違うよ、お前が作ったんでしょ!ボクは木を押さえてただけ!」


チマとマドゥ――、部族随一の可愛い問題児――が煤だらけの手と誇らしげな表情で転がり込んできた。二人が掲げるのは、革紐で金属片がぐちゃぐちゃに固定された木の塊。


粗削りな銃身からは煙がもくもくと。


僕はただ呆然と見つめた。


樹脂と炭の焦げる臭いが遅れて鼻を突く。


「……これ、点火しようとしたの?」


マドゥが胸を張る。

「火薬の説明覚えてたから!火打ち石の粉と樹脂を混ぜたんだ~!」


僕のまぶたがピクつく。


「硫黄と炭を正確な比率で、って言ったはずだぞ」

低い声で呟く。

「太陽神に捧げるような謎物質じゃなくー」


その時、ガラリと音を立てて銃が二つに折れた。

チマが瞬く間に、破片がテントの壁に刺さり、僕の藁の枕が燃え始める。


ゆっくりと立ち上がり、唇を結ぶ。顎が痙攣している。


「二人とも好きよ」平板な声。

「でも次に僕のテントで燃焼スティックを作ったら、おもちゃに触れる度に悲鳴を上げる呪術をかけるぞー?」


二人は同時に漆黒色の額を地面に擦りつけるようにお辞儀した。

「はい!リゼット様!」


逃げ去る背中を見送り、ため息をついて枕の炎に向き直る。


ルーンピストルを一閃。冷気の一撃で火は消えた。


独りになると、ノートを広げた。


みんな頑張ってる、自分に言い聞かせる。でも彼らの燃焼理論は、トカゲにストーブの点火を頼むようなものだ。


それでも……彼らは僕を女神のように見上げてくる。


そして正直――


だんだん、慣れてきていた。


その夜、大バオバブの下で長老オヤマと対面した。岩と年月でできたような顔の老人は、立ち上がりもせず言った。


「長年帝国から追われてきた。きみは騒音と炎と変化をもたらしにきたのか?」


「生き残る術を提供できるのは違いないぞー?」

冷静に返す。

「...精霊の祈りと骨の矢だけでは足りない」


実際にここで生きていくと決めたら、敵対勢力である帝国の軍勢をどうにかして打ち破る対策をしないといけないので、これからはそれについての課題にも取り掛からないとね。


沈黙が戦場の砂塵のように続く。


「見届けよう」

ようやく言葉が返った。


テントで煤を拭い、鍛冶場の煙とシナモンの香り。

かつて「公爵令嬢」と呼ばれた頃とは違う僕になってきた。


ここには宮廷人も、安全で磨かれた人々もいない。


誇り高く、傷つき、しなやかだ。


僕はもう、異国で反逆者ごっこをしているわけじゃない。


何かに――なりつつある。


拳銃を引き寄せ、銃身に新たなルーンを刻む。銃に、自分に、夜に囁く。


「さあ、白銃士よ。奇跡を起こしてみせようー!」

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