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第1話:白き肌と魔導拳銃の威嚇

「熱いなぁ...」

太陽が頭上から容赦なく照りつけ、灼熱の光が砂漠を覆っていた。


私はふらつきながら前へと足を運ぶ。


ブーツの下で砂がきしみ、頭はガンガンと痛み、喉はカラカラだった。


魔法学院の講義室でも、遠征の地でも、これほどの暑さは感じたことがない。


だが、それよりも苦しかったのは――肌だった。


私は自分の腕を見下ろした。白く繊細な肌が、じりじりと赤く染まり始めていそうな感覚を覚える。


この太陽の下では、ほんの数時間で取り返しのつかない日焼けになる。貴族として、いや一人の女性として、それは絶対に避けなければならない。


「この白い肌はお父様お母様から譲り受けた大事なものだ。失う訳にはいかない」


震える指でサッチェルバッグから小瓶を取り出す。銀のルーンが刻まれた瓶の栓を抜き、そっと呪文を唱えた。

「ルーメン・テゲーレ……我が肌と血脈、誇りを護れー!」

ピカ―――!!

淡い光が霧のように私の全身を包み込む。


魔力のヴェールが張られ、陽光の灼けるような痛みが和らいでいく。


......私の肌はもう太陽に焼かれなくなった。...魔法の保護が完全に働いたようだ。


「ふぅぅー」

ほっと息をつく。これで、私は私でいられる。


気を取り直して辺りを見渡す。砂丘がどこまでも続き、金色の大地が無言で私を拒んでいるかのようだった。


「ここは……どこ? どうして、こんな場所に……?」


その時だった。視界の端で何かが動いた。私は反射的に振り向く。


タタタタ―――!

遠くに、影があった。一人?

...陽光を背にして、こちらへと近づいてくるみたい!


私は迷わず腰のホルスターから銃を抜いた。

「カチッ」

魔導拳銃が起動し、銃口の先に魔法陣が浮かび上がる。


幾重にも重なる光のルーンが宙を舞い、空間が歪んだ。学院でも数人しか扱えない、錬金術と魔術を融合した“戦術級”の魔導兵装――それが、私の武器だ。


この銃があれば、私はどんな敵にも立ち向かえる。岩のゴーレムを砕き、魔力障壁を貫いたことある力。もしも必要になれば、私はどんな南方部族の集団襲撃であろうと突破できる。私はそれほど圧倒的な武器を持っているということだ!


だが――!遠距離射撃ができる私でも結局は引き金を引かなかった。


タタタタ......

その中の一人が前へ出てくる。


「―!?」

私は息を呑んだほど驚愕の表情を浮かべてしまった!


「ほ、本当に、...真っ黒だ......」

黒曜石のような肌、琥珀色の瞳、がっしりとした体格。


彼の衣は質素で擦り切れていたが、立ち姿には揺るがぬ威厳があった。


そして彼の視線が、私の銃に向けられた瞬間――!

恐れが、その顔に浮かんだ!

挿絵(By みてみん)


異国の魔導兵装を目の当たりにし、未知なる存在に対する本能的な警戒と恐怖が、彼の瞳を曇らせた。


私は銃を構えたまま、静かに問いかける。

「あなたは……敵意があるか?」


男は少しの間、沈黙した。

「お前が何者かはわからないが……その訳の分からないモノを下ろせ!」


私は首をかしげる。部族の男が、私の北方言葉を理解できるだとー?


「......」

何か原因があるはず。...だけど、何故言葉が通じるか問うよりも先に大事なことが目の前にー!


「ふぅ...」

息を小さく呑んで冷静に分析すれば、状況は完全に私が優位。


魔導拳銃はまだ発動中でいつでも撃てる。まるで歴史の一幕のようだ。異国の地に降り立った白い肌の女が、圧倒的な力で原住民と対峙する――!


まるで植民者コロナイザーのような構図でなんか嫌だな。

何故なら、そんなつもりで来たわけでない。

無理やりに不可解な現象で飛ばされてきた私だ!


なので、私は侵略者などではない。善意で来たわけでもないが、少なくともこの力で誰かを踏みにじるつもりはない。


カチャー!

私は、静かに銃を下ろした。


「私は戦うためにここに来たのではない。私は迷い込んだの。ただ、それだけ......」


彼は一歩前に進み、周囲の仲間に目配せをした。


「連れていこう。族長が判断するだろう」


「断ったら?」

私は銃を戻しながら、手をホルスターの近くに置いたまま尋ねた。


男はわずかに口元を吊り上げた。

「もし本気で殺す気だったなら、もうとっく『その変な物体』で何か攻撃っぽいものしてきただろう。...そうじゃないなら、生かされているとしか......。俺たちは、それを感じただけ...」


「...未開の部族なのに良く分析できたものだな」

その通りだった。


私はその集団に従って歩いた。


周囲からはささやき声が聞こえ、幼い子どもたちは私の白い肌をまじまじと見つめていた。


彼らにとって、私は完全に異形の存在だったのだ。


やがて村へとたどり着いた。


土と草でできた住居、素朴な生活。


だが、そこには秩序と歴史があった。中心には一人の男が待っていた。


「こちらが、族長のタジリ様だ」


私はその名を聞いたとき、すでにその男の威厳に圧倒されていた。


彼は武器を持たぬまま、全てを制していた。私の魔導銃をちらりと見やり、そして魔法のヴェールに包まれた私の肌を見つめる。


「お前はただの外人ではないと見える。力を持っているな」


「その通りだぞ。けれど、私は侵略者ではない。望んでここに来たわけでもないからな」


「名を名乗れ」


「リセット・フォン・アルジャンティエ。ルネヴァル魔法学院の1年生の学生だ。突如、不可思議な現象に飲み込まれて……いきなり転移させられてきて、ここで着いてきた。望まずして...」


「空が裂けるのは見たことがある。だが、人が現れたのは初めてだ」


そのとき、群衆の中から若者が叫ぶ。


「こんな奴、信用できるか! さっき俺たちに知らない不吉な呪物っぽいモノを向けてきたんだぞ!? 外人の呪物で、俺たちを脅してたじゃないか!」


村人たちにざわめきが走る。


「黙れ、タヨー!」タジリが一喝する。


「だが、族長!」


「止せ!彼女は何もやらなかった。誰も殺さなかった。あれは『見せつけ』だけだったろう。...それだけで力は伝わった。恐ろしいほどにな...」


タジリは私に向き直る。


「ここにいてもいい。ただし、監視はさせてもらう。我々にとって、お前はまだ『謎の外人女』だ。だが……敵ではない事は分かっているつもり...」


私はゆっくりとうなずいた。

「それで十分だ。私、...肌も白くて繊細な体躯しているけど、こう見えて男勝りなんだぞー?」


「...その口調を聞くだけで分かる。男が言ってるような言葉遣いだ」

と賛成してくれたタジリ。


私は救世主でもなければ、招かれた客人でもない。けれど......


力を持つ者には、否応なく『重み』が付きまとう。


彼らが、私という存在をどう受け止めるかは――これからの行動次第だった。


(でも~!これからは『大冒険』が始まる気がして、なんかワクワクしたくなるなー!)

もしや、ここへの転移こそが、私がずっと求めていた『箱庭生活からの脱出』となるだろうな、ふふははは~!


賽は投げられた。


後は、シリアスになり過ぎず、この謎の状況を楽しんでいくだけでいいんだな、ふふふ......

.....................................

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