プロローグ(第1部: ルーン拳銃の少女)
「ここが大嫌いだ」
完璧すぎる陽光が気に入らない。まるで王家の芝居のために脚本されたように、従順で退屈な光。
金色の門と大理石の広がるこの学園は、学校というより、金ぴかの檻だ。
壁も窓も、手入れされた生垣も、すべてがささやく。
「お前は良家の令嬢として、政略結婚の道具になるのが運命だ」と。
どうしてこんな場所に?
あの日を覚えている。希望に胸を膨らませて到着した初日のこと。だがその感覚はすぐに腐った。
名門ルネヴァル魔法学院は、いまや牢獄と化している。
毎日が昨日の繰り返しで、会話は空虚な反響にすぎない。手入れされた髪と上品な微笑みの生徒たち――彼らとは、どれだけ努力しても分かり合えない。
廊下を歩きながら、クラスメイトの囁きを無視する。
「リゼット・フォン・アルジャンティエよ、また訓練で的の中心を撃ち抜いたってー!」
「彼女、一度も外さないわよね。次の婚約者はどんな人かしら~?」
婚約者。この言葉は喉元で胆汁のように渋い。
......最大の冗談だ。
私がここにいる理由は、政略結婚にふさわしい「完璧な令嬢」に仕立て上げられるため。家族は常に私を商品のように扱ってきた――褒めそやすが、型にはまった時だけ。
深呼吸して、大理石の床を鳴らす磨かれたブーツの靴音と周囲の囁きを振り切り、中庭へ向かう。
教官を囲む生徒たちの中心に、彼女がいた!
アドリーナ――完璧に整えられた金髪の貴族令嬢と、おべっか使いの取り巻き。
「リゼット~!」甘い声で呼ぶアドリーナ。
「また射撃の練習してたんでしょ? 相変わらず的の中心ばかりね~」
作り笑いを浮かべる。
「ええ、...もちろん」
「本当に才能があるわね」彼女は続ける。
声は甘いが、底に何かが潜んでいる。嫉妬? それとも嘲笑?
周囲を見渡す。ファビアン、公爵の息子が腕を組み、私に話すべきか悩んでいる様子だ。
「その才能を、つまらないことに浪費してるとは思わないかいー? 君は……アルジャンティエ家の人間だ。もっと重要なことに集中すべきでは?」
予想以上に言葉が刺さる。顎を上げて突き刺さった心の傷を隠す。
「つまらないー? 敵が目前に迫ったとき、兵士の狙いが『つまらない』と思うかしらー? それとも、私がやる時だけ『つまらない』というの?」
ファビアンはたじろぐが、アドリーナは笑う。
「大げさね~?...リゼット。女性の趣味にしては射撃は少し……過激過ぎじゃない? というか……」
少し笑みが崩れる。
「品がないわ」
「品がない?」
と低く、しかし鋭く返す私!
「魔力をスポーツ、近接戦闘しか出来ない剣術と茶会とおしゃべりで浪費する方が品がないと思うけど」
彼らの視線の重さが首枷のようにのしかかる。
逃げ出したい。
すべてを捨ててしまいたい。
......だが代わりに、深呼吸して訓練場へ向かう。
今日の教官はフェレル師匠――頬に傷跡のある灰色の髪の男だ。
私を「お人形様」扱いしない数少ない教師の一人。
「おう、リゼット」渋い声で頷く。
「ピストルを見せろ。魔方陣が錆びてきてる」
腰から武器を外し、グリップの刻印の冷たさを感じる。
構え、魔力が渦巻く空気の中で、銃口の前に銀色の魔導照準環が浮かび上がる。
回転し、閃光と共に的は粉々に砕け散るー!
「相変わらずだな...」フェレルが呟く。
「だが調子に乗るな。安全な場所での正確な射撃と、実戦とでは話が違うぞ?」
「...はい」
言葉を飲み込んで頷く。
でも、...いつまで待てばいいの、師匠? いつになったらこの牢獄から抜け出せる?
私、...一刻も早く『政略結婚』の運命から抜け出して、ただ銃を撃ち続ければいいだけの従軍生活をしていきたいのにー!
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その夜、寮の窓辺で学園の外に広がる丘陵を見つめる。
上級生たちの夕食会の笑い声と音楽が遠くから聞こえる。
本で読んだ南部の村の生活を考える。
貧困と戦争に苦しむ人々。
彼らには大理石の床も完璧な夜もない。選択肢もない。ただ生き、戦う。
目を閉じ、現実を願う。
このすべてと引き換えに、外の世界を見られたら―――!
「あ~はははは......」
自分でも笑ってしまう。貴族令嬢がそんなことを考えるなんて。
だがここにいるほどに、金の檻の鳥のように――自由を渇望しながら、飛び立つ勇気がないまま...
そして次の朝、すべてが変わった。
バーン!バーン!バーン!
パチー―――――!
ゴゴゴゴゴゴゴ..........................
訓練中、突然空気が震える!
ビュウゥ―――――――!!
風が渦を巻き、世界が傾く。
パチィィ―――――――――――――――――~!!
魔法の閃光と共に、私は――墜落したー!
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..................
ビュウウウ...........
熱風が顔を撫でつけ苛んでくるー!
もはや大理石の廊下も優雅な中庭もない!
乾いた砂漠の縁で、肌を焼く太陽が照りつける。
無意識にピストルを握りしめ、刻印に指を走らせる。
「なんだ、ここは……?」
立ち上がり、地平線を見渡す。もうここは学園内ではないみたいだ。
埃っぽい空気、ひび割れた大地......
自分の手を見下ろす。白磁のような肌が、この無情な太陽の下で、弱々しく見える。
...熱だけではない。肌を守る魔法の結界が、うまく機能していないようだ。
ここがどこか、どうやって来たのか——わからない。
ただ一つ、確信していた。
これは、
白日夢などではなかった。
現実だ。
そして次の朝、すべてが変わった!