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人獣見聞録-猿の転生 Ⅶ Side-B:N+Anachronism   作者: 蓑谷 春泥
第3章 発狂した宇宙
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第29話 ディープ・インパクト

 空を覆うほどの巨大な隕石が、凄まじい勢いでハワイ島に迫っていた。数万年前、太古の昔に恐竜を絶滅させたほどの質量を持つ星の衝撃が、地球に衝突しようとしていた。

「……大したエネルギーだな。星を脅かすほどの力……、第三の果実を与えられただけはある」

 御黒は頭上の大岩を見上げて称賛した。しかしその顔には汗一つ浮かんでいない。毛ほどの動揺も焦りも見せず、御黒は空の一帯を熱い空気で覆った。

 大気圏のような空気の熱圏がそこに発生する。空域に突入した隕石はその先端から瞬く間に熔け出して、体積をすり減らしていく。……終いには、光の塊となって空に瞬いた。

「……勇んで放った割には、あっけなく防がれたようだけど。兄さん」

 再び兄のもとへ舞い戻った佐丞が、呆れたような目で佑丞をどやす。

「うるせーな、まだ肩慣らしだ」

 佑丞が肩をそびやかして答える。しかし恐るべき力だった。隕石を呼び寄せる大技は佑丞の起こしうる最大級の奥義。狂花帯の負荷も並大抵ではない。にもかかわらずそれを焼き切った御黒の方には、これといった疲弊も浮かんでいない。

 無尽蔵のエネルギー……、出力も持久力も文句なく〈12人〉最高……。これが第二号・御黒闇彦か……。

「おもしれえ、なら俺様の力で直接……、跪かせるだけだ!!」

 佑丞が拳を振り下ろす。地面が割れ、弾ける。御黒の体は足場を失い、宙を漂う。即座に佑丞の重力が対象を捕らえた。御黒の肉体が地球に引き寄せられ、強力なGがその場を支配した。

「ッ……」

 さすがの御黒も膝を付き、歯を食いしばって耐える。大地は細かく割れ、数十倍の重力が骨に悲鳴を上げさせる。

「おらッ、どうした『帝王』! 這いつくばるのは初めてか⁉」

 あまりの重さに地面が抉れ、凄まじい勢いで御黒が大地へと飲み込まれていく。

「はっはァ! このまま地殻まで埋葬してやらァ!!」佑丞が追い打ちをかける。「昼神と同じようになぁ!!」

 突如として溶岩の地が隆起し、大規模な噴出と爆風があたり一帯を吹き飛ばした。

 兄弟はちりぢりに吹き飛ばされ柔らかなマグマの中に突っ込む。火山のふもとから発生した水蒸気爆発は火山の一部を抉りとるようにして半月状の穴をあけた。

「聞き捨てならないな……。お前らごときが昼神を語るなど。この程度で仕留められるほど、俺もあいつもぬるくない」

 クレーターのできた火の山に御黒が降り立つ。

「人を埋めるなら場所は選べ。粘性の高い土中に沈み込んだなら、その高い圧力を利用して水蒸気爆発を起こすのはたやすいことだ」

唸り声をあげ、佑丞が溶岩流を体から弾き飛ばす。「不意打ち決めただけで随分余裕じゃねえか。お望み通り、次はもっと硬い岩盤に沈めてやるよ!」

「いや、お前の手は飽きた。同じ手は二度も食わん」

 氷粒が宙に弾け、ダイヤモンドダストが輝きで視界を塞ぐ。「ッ……」佑丞は攻めあぐねたように動きを止める。

「お前の能力は重力操作といより……、引力操作だな」御黒が粉塵の向こうから声を飛ばす。「さっきの溶岩を弾いた動きで確信したよ。……外部に影響を与える能力は、概ね二通りに分かれる。俺や“V”五号・真白のように座標を対象とするタイプ、もう一つは五感によって攻撃対象を認識するタイプだ。さっきの技と言い隕石と言い、引き付けられる対象は常に限定されていた。単なる重力操作なら座標ごと重力場に干渉するはずだが、お前は対象を特定して力を加えていた」

「やっと気づいたか? そのとおり、俺が操るのは地球の重力なんて限定的なものじゃない。あらゆる物体間に働く『万有引力』! ……それはつまり、こういうこともできるってことだ」

 先ほどの噴火で弾け転がった、山のビルほども大きい一角が、粉雪を蹴散らしながら佑丞の方向に引き寄せられてくる。

「下にだけ働く重力と違い、引力は二対象間で作用する! コントロールすれば、念力のように自在に物体を飛ばすこともできるんだよ!」

 礫岩や氷塊が縦横無尽に乱れ飛ぶ。白塵を晴らし御黒の姿を曝す。視界に入れさえすれば、御黒を他の物体に縛り付けることができる。

「……お前のようなタイプは五感で対象を特定すると言ったが……、その多くは接触感知か視認による知覚だ。特に遠距離タイプは視覚感知に偏る傾向がある」

 御黒の声が素早く移動した。

「俺の『声』を目当てに能力を発動させられなかった時点で……、お前の能力のネタはわれてるんだよ」

 声はすぐ近くで聞こえた。しまった、佑丞が身を躱した瞬間に両の眼を冷たい痛みが貫いた。

 堪えきれない叫びが迸る。氷を割るような電流の音とともに御黒闇彦が姿を現す。「光学迷彩だ。透明な相手を捕捉することはできない。そうだろ?」

 片手に纏った氷の刃は、佑丞の両眼を貫いていた。

「硬いな……。眼球に弾性を付与していたか。分厚いゴムまりのような感触だ。だが……、光を失わせるには充分な一撃だった。これでお前は俺に攻撃できない」

「はっ……、自分で言った言葉忘れたか? 見えなくても、触れれば能力は掛けられるんだよ!!」

 佑丞が素早く腕を伸ばす。御黒がすかさず手を引き抜く。しかしわずかに早く、佑丞の引力操作がその手を襲った。御黒の右腕が巨人に握られたかのように潰れる。「っ……」

「ははは……! 両目と引き換えに二号の腕一本か……、釣り合いをとるにゃもう少し奪っておかないとなぁ!」

 三号は叫びながら右手を溶岩のなかに突っ込んだ。ぼこぼこと火山の表面が泡立つ。

「御黒ォ! お前にできることが、俺にできねえとでも思ったか?」

 巨人の足音のような地鳴りが火山から聞こえる。大地が鳴動し、天を突くような唸りが火口から響いた。爆発的に噴火したキラウェア山脈の火口から、灰と大量のマグマが天を衝いた。


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