9:エリ女史や、王家の返事はまだかのぅ?
魔法鍛錬1日目は気絶して、女神ミーティアと会い、疲労があったのでそのまま寝た。
2日目。
前日のミーティアの言うように魔力操作に淀みがなくなった。
つっかえていた物というか、いきなり魔力を出したせいで本当に決壊でもしてたかのような感覚を覚えた。
3日目。
カムウェルさんに初級魔法に分類されるものはほとんど使えるはずだと言われ、クリエイトファイアの魔力操作を試した。
少し火の形状を変えてみたりと試行錯誤する内に龍のような形状に出来ないかと想像。
火力が予想以上に出た為にカムウェルさんの服を燃やしてしまった。
所々丸見えで片乳が見えていた。
10日目。
全体的に魔力の発現、操作が上手くなり始め、調子に乗って日本語で適当に言葉を羅列した『狙撃ッ!』と言いながら魔法を発現させたところ、魔力の塊が庭にテーブルとイスを置いて優雅にティータイムをして見守っていたカムウェルさんに誘導され着弾した。
お茶を被ったカムウェルさんに追いかけられ逃げるも未習得の身体魔法を使われて捕まり、ショットを一度受けてみるのも経験です、とショットによる撃ち合いを行う羽目になった。
一応、態とではないんだが……最近は客人としての扱いが減ってきている気がする。
15日目。
身体魔法を習得。身体魔法はオーガ種が得意な分野。補足説明で筋力増加や耐久増加をほぼ常時発動が出来るほど種族として相性が良いらしいと聞いた。
試しに魔力操作で全体的に強化して走ったりしていたところ強風で砂埃が発生し洗濯物が汚れてしまった。
結果、テナシーさんに怒られた。
30日目。
どうやら魔力測定ができる魔具、魔機があるらしい。
しかし、簡易測定魔具では魔力譲渡で注ぎ込んだ所、測定量の天井に張り付いており詳細は分からなかった。
だが、人族の中でも上位の魔力量が期待できると喜ばれた。
天井に張り付けば人族としては平均値を超えており、目盛りは±50。
人族の平均値を±0基準にしているのは、良くも悪くも人族、亜人族含めて中間であり、魔具や魔法の使用で困難にならない程度とされているからだ。
エルフ種の平均値よりは低く、オーガ種の平均よりは多い程度が判断として出来るのが簡易測定器具だ。
加齢成長と洗練成長で言えば洗練なのだろうか……
そもそも日本で魔力はあったのだろうか……
そして、60日目。
流石に色々と魔法や王国礼儀作法と出来るようになった恩がある手前、言い出しにくかったが、そろそろ言う時だろう……
ここ2ヶ月で邸宅の人とも仲良くなり家族のように扱ってもらえていた事は嬉しいが、それでも確認をしたい。
勝手知ったる邸宅の一室をノックすると中から声がかけられる。
「はーい、どうぞ!」
扉を開き、彼女に声をかける。
「失礼します。エリ女史、王家との謁見の件、あれからなにか返答などありましたか? せめていつ頃になるかは分かっておきたいです」
「し、心配しなくても大丈夫だよ! その内に連絡来るから、ね!」
エリ女史はこちらから視線を外し、窓の外を見ながら言う。
その言葉に納得できず言葉を返す。
「ですが、領主からの連絡を受け王家が約2ヶ月、何も返答が無いというのは、些か……その内、と私も考えてましたが、流石に長過ぎる気がします。それこそ、報せを持った使い魔が道中で不幸にあった、とかあり得るのではないですか?」
「お、王家の方々はお忙しいんだよ! し、報せを持った使い魔が不幸にあったら魔法契約が切れるはずだから分かるかな……で、でも使い魔だって王都までの道のりで休み休み飛んでるはずだし! ほ、ほらほら、ボクは忙しいんだよ! 出てった出てった!」
エリも負けじと言い返してきた。
この可愛らしい少女の言葉に、ここ暫くの知識から冷徹に伝える。
「ほぉ、使い魔は魔法契約で……では不幸は無く、王都までの道程はこのラビルンから通常2週間程度、最速1週間余り。使い魔ならもっと早いんですよね……まさかとは思いますが、出し忘れたり、意図して出さないで放置してませんか……?」
「そ、そそそ、そんな事、ある訳ないじゃないか! 失敬だね、キミは! きゃ、客人とはいえ、領主のボクになんて口の聞き方だ!」
私の方に振り返り、あわわと掌を前に出して振り、慌てながら言うエリ女史。
その言葉に私は寂しそうに俯き、肩を震わせるフリをする。
「そう、ですよね……私は流れ者の、たまたま貴方に拾って頂いただけの者……2ヶ月お世話になって居る内に馴れ馴れしく、無遠慮になっておりました……では……失礼致します……」
そう告げて退室しようと扉に向かうとエリ女史が呼び止めた。
「ま、待って! ほ、本当はもっと早く伝えるつもりだったの! でもジヒトがいるのが楽しくて……本当は駄目だけど、ジヒトの危険性が無いか確認中って事で保留にしたままで……ご、ごめんね……?」
そう告げたエリ女史に近寄っていき……アイアンクローを決める。
「幾ら領主でもやって良い事と悪い事があります! 早く王家への謁見のご連絡をお願いします」
「い、いたたたたたた! 痛い、痛いよジヒト!!」
少しは反省すると良い。
全く、私の気持ちも知らずになんて事を…
「痛た……わ、分かってるよぉ……ちぇー……ジヒトもこれで王家や他の領主にバレちゃうのかぁ……」
痛みに観念してそれに答えるエリ女史。
エリ女史の発言に胡乱な目を向ける。
「貴方、王国の領主ですよね……?」
今度はしっかりと報せを送るまでは動かないぞ、と待っていると、エリ女史が魔具を出し始め、なにか操作を始める。
「エリ女史、そちらは? 文字印字の魔具とかですか?」
びくっとした後に弱々しく告げるエリ女史。
「つ、通信魔具、いたたたた!!」
客人である私だが本気で怒り、領主であるエリ女史のこめかみをグリグリする。
エリ女史は年の離れた兄とイタズラをして戯れるように、痛がりながら嬉しそうであった。