8:気付けば白い空間に…
「ねぇー、そろそろ起きない? まだ起きないのぉー」
誰かに声をかけられ頬を突付かれた事で意識が戻りだす。
(んぅ……倒れて……いや気絶したのか……)
横たわっていた姿勢から姿勢を起こし首を振った。
「済まない。魔力操作で気絶した、よう、だ……」
見知らぬ白一色の空間にいる事を悟り、驚いたために声が途切れ途切れとなってしまう。
自分の横には、気の強そうな猫目、犬の立ち耳、ポニーテールの見目麗しい女性がテーブルに頬杖を付き、靴を脱いだ素足をこちらに伸ばしてイスに座っている。
女性は伸ばした足で、固まる私の頬をぷにっと突く。
色々と判断の付かない状況に置かれ、何から質問すべきか悩み、取り敢えず声をかけてみた。
「あー、ど、どうも……」
「はぁ~い」
女性は手を振り、笑顔を向けてきた。
「え~と、ここはどこですか?とか、また転移した?とか、もしかして魔力の使い過ぎで死んだ?とか色々と疑問が湧いているんですが……貴方はどこのどなたでしょうか……? あと、足で突付かないでください」
改めて周りを見返しながら、足で今も頬を突き続ける彼女を見つめて問いかける。
女性はやっと足で突くのをやめ、上を向いて唇に人差し指を当てながら呟く。
「そうよねー。まずはそこからになっちゃうかー……覚えてなくても当然なのかー……」
改めてこちらを向き、彼女は言う。
「じゃぁ、やり直しましょうか。初めまして、ジヒト。アタシはこの世界で亜人族が信仰している神のルーティアよ。聞いてないかしら?」
「い、いえ、信仰に関してはそこまで聞いてはおりませんでした。日本……元の世界でも信仰心はありませんでしたし……異世界でも似たようなもんだろうな、位の認識で失念しておりました」
私は首を振りルーティアに答える。
「あ、地球から転移したのは分かってるわ。神様だもの。信仰心は知ってるわ……ホウジョウに……」
最後の方はぼそぼそと喋るルーティアだったが、一転して明るく声を上げて私へ告げる。
「さて、質問に答えましょうか。ここは人々からは天界と呼ばれる場所。そして貴方は別に再転移した訳でも死んだ訳でもないわ。だって、気絶した貴方を呼んだのは私だもの」
「それに昨日も合わせれば、ここに来るのは……今は2度目よ」
ルーティアは指折り回数を数えていたが辞め、言い放つ。
「2度目?1度目はいつ?記憶にありませんが……」
再転移でも死んだ訳でもなく安心したが続けて言われた言葉に思わず聞き返してしまう。
「あ、いえ、その……昨日……呼び出して……いつまでも起きないから……なぐ……軽くビンタしたら……こっちで気絶しちゃって……そのまま天界からアンレアに戻っちゃったっていうか……?」
そう私が問いかけるとルーティアは慌ただしく体を動かした後に弱々しく呟いた。
何を言っているのだろうか?と怪訝な表情で見続ける。
「し、仕方ないじゃない!まさかジヒトの耐久があそこまで低いとは思わなくて、いつもと同じ様に軽くビンタしたら気絶しちゃったんだから!保有魔力が多いから、アンレアでも相当強いレベルだと思ってたのよ!」
ルーティアは言い訳を続けた。
じとっと見続け非難したくなるが、やれやれと頭を振り、話をする。
「まぁ、分かりました。それで、私は何故呼ばれたのですか? 異世界から紛れ込んだ私を元の世界に戻せるとかですか?」
「あたし達神が戻すのは無理よ。あちらもこちらも、魂となるまでは手が出せないのよ。ここに呼んだのは、私から見て異世界から飛んできた貴方と話してしっかりと確認したかったのと、これを渡したかったからよ」
そう言ってルーティアは立ち上がると、未だに座ったままの私の手を取り、口付けをし小さく呟く。
「貴方の……世……、幸多からん事を……」
聞き取れない声になんと言ったかを聞き返そうとすると、周囲から光が舞い始める。
「な、何が?」
「今日はこれで終わりね。貴方を向こうで呼びかけているから、戻ってあげなさい。魔力操作は次回からは上手く使えるようになるから安心してね。それと貴方に加護を付けてあげたから有効活用してね。神と会ったなんて軽々しく話しちゃ駄目よ?」
小さく手を振りながら、ルーティアは優しい眼差しで告げた。
「あ、ありがとうございます!また会え」
……
「また、だって。ふふ」
言葉も途中にアンレアへと魂が戻ったジヒトを見送ったルーティアはテーブルに戻り、嬉しそうに呟いた。
……
天界から魂が戻された私の耳に次第に声が聞こえ始めた。
「じゃぁ、彼は問題ないんだね。良かったよー」
エリ女史が安心したように声を出す。
「ジヒト様は魔法を使用し、魔力操作の調整で難儀し魔力枯渇まで魔法を使用しました。魔力操作の点では鍛錬が必要あるかと存じますが、魔力量、想像に於いては既に充分な素質が備わっているかと」
エリ女史に対してカムウェルは饒舌に楽しそうに話す。
「カムウェルさん、魔力枯渇にならないように教え導いてください! 客人なのですよ! 何を嬉しそうにしているんです!」
少し怒気をはらみながら、カムウェルへと話すテナシー。
私はのそりと体を起こし、3人へと声をかける。
「倒れてしまったようで、御心配おかけしました。エリ女史、カムウェルさん、テナシーさん」
3人は会話をやめ、こちらへ向き直った。
「良かったよー、倒れたって聞いたからさ。魔力が無いのに無理矢理、とかだったら本当にどうしようとか心配しちゃったよー」
エリ女史は改めてほっとした顔で私に話しかけてくる。
「御身体はどうですか?魔力を初めて意識して魔法を発現させると気怠い感覚が出てきますが。お加減は…」
テナシーも同じく意識を戻した私に安心し言葉をかけてくる。
「確かに、少し疲れはありますし、火照るような感覚もありますね。でもその程度ですよ」
「ジヒト様、魔法は楽しかったですかな? まだまだ触りではありましたが、初日からあれだけの事をできたのです。どんどんと上手に、強くなれますぞ! はっはっは!」
私の言葉を聞き、カムウェルは嬉しそうに一人だけ、二人とは違う反応を返した。
この老執事は普段とは打って変わって魔法が関わるとこういうノリなのだな…
その後は3人と軽く会話をし、私はそのまま休ませて貰い眠りについた。
いつの間にか衣服が変わっていた事には朝まで気付かずに……