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7:水も滴る老執事

 朝食後に席を立つと執事服に身を整え筋肉質なコールマン(口の上に短く伸びた)髭を携えた白髪の老執事から声がかかる。


「ジヒト・ホウジョウ様、話はお聞きしているかと思いますが、私が執事長のカムウェルと申します。御準備できましたらお庭に来て頂けますか?そちらで魔法の鍛錬を行いましょう」


「はい。と言っても準備は特にありませんし、一緒に向かいましょうか。後、名前ですがジヒトと呼んで頂ければ……ホウジョウ様と混同されると大変ですし、何より私と同じ名前の方が物凄いので、少し肩身が狭いと言いますか…」


「そうでしたか、これは至らずに申し訳ありません。皆にも今後はジヒト様と呼ぶように申し伝えておきます」


 そう言って2人で歩き、庭に着くとカムウェルが言う。


「さて、ジヒト様にご確認させて頂きますが、魔法とは何かはお聞きしておりますかな」


 私は昨夜の会話を思い出しながら答える。


「えぇ、意味を持つ言葉と現象の想像を魔力によって生み出され、自分の魔力量以上に使用し続けると寿命が縮まる、と聞いております」


「その通りです。この世界では魔力は誰しもが多かれ少なかれ種族値に応じて持つとされております。その為、魔力を用いた魔具によってヒトの生活が支えられてきたのです。この邸宅にある浴場やトイレ、キッチン、照明、様々な物で魔具は根付いております。しかし、魔力は身近でも魔法は違い、覚えていない者もいれば覚えている者もおります」


 一度話を区切り、カムウェルはクリエイトアクアと告げて人差し指を立てた先に小さな水玉を浮かばせながら話し出す。


「それはなぜか? 魔法とは便利でありながら、安定して発現させるまでに時間がかかる物でもあるからです。人によって属性によって、効率の良し悪しのある魔力変換があり、現象の想像、魔力操作が上手く行えた上で魔法を起こす。それが魔力変換が一定の魔具が出て想像は関係なく、操作も気にせずに済む。そういった物が魔具からどんどんと生まれてきたからこそ、一般市民には覚えない者も増えていっているのです」


 水玉を細長くしたり、風船のように形を変えて言葉を続ける。


「ではなぜ無くならないのか? それは魔力操作によって汎用性に富み、そして魔力を注ぎ込めば魔具の出力を超えるからです。そして、それは戦闘においても同じ事が言えます」


 水の大きさが徐々に膨れ、表面で水がぷるるんと揺らめく。


「戦闘時に魔力量、魔力変換、魔力操作がそこそこな相手が全力で魔法を放った場合、一般的に流通する魔具では敵いません。あくまでも護身用であり、魔具はそれ程までの魔力量に耐えきれないのです。お金をかければその限りではありませんが、一般の魔具とはそういうものです」


 なるほど、出力範囲内しか出せないものに無駄に注いでも効果は出ず、負荷をかけ続け魔具が壊れる、と……


 リチウムバッテリーみたいな感覚が出てきたな……


「決死の覚悟で魔法に魔力を注いだ場合、魔力量が乏しいとされるオーガ種でも護身用魔具の出力は優に超えるでしょうな。まぁ、一般的な護身用魔具はそれ程までの手練れを想定はしていないので、あくまでも相手を拘束、煙幕での撹乱、攻撃魔法で注意を逸らす、と邪魔する程度の一時しのぎが多いですな」


 なるほどな……

 逆に言えば時間はかかるが魔法を安定して使えるようになれば、この世界においてアドバンテージは大きいと言う訳だ。


「そうなると私は尚更覚えておきたいですね。この世界を良く知らないので、やはり自衛の為に」


「そうですな。では、まずは魔力を感じてもらいましょう。手を出して頂けますか?私の手を重ねた後、手の先に魔力操作で魔力を集めジヒト様にお渡し致します」


「は、はい……」


 カムウェルの出した手に自身の手を重ねる。


「では、いきますぞ」


 むん!と声を張り魔力の操作をし始めるカムウェル。

 その途端に去来する感情があった。


(魔力っていうのはこんなに温かく、懐かしく感じる物なのか……心の内に安心感を与えてくれる……まるで優しく誰かに包まれるような……)


 温かさに思わず涙が出そうになるも堪え、カムウェルに話しかける。


「魔力を感じられます。温かく、そして懐かしく……郷愁の念に近いです……」


「ふーむ……私が過去に教えさせて頂いた方々は最初に魔力を温かく感じたりはしますが、郷愁までは初めて聞きましたな」


 下顎を触り悩みながらカムウェルが言う。


「そ、そうなんですか……けど、温かく懐かしいんですよ……」


「そういう事例もあるのかも知れませんな……何分魔力とは、何故人族、亜人族、魔物には産まれた時から宿っているのかについて何度も論じられておりながら、魂という不可思議な物が有力な説としてあります。魔力とは魂から漏れ出た余剰分の貯蓄である、と」


 顎を触りながらつらつらと言葉を続けるカムウェル。


「魔力量の増加は身体の成長が魂に影響を与え、余剰分を使用する事で内包される貯蓄量も鍛えられる。それで二通りの成長がある、と言われているのです。事実、成長している事は確認できておりますからね。そして、魂の譲渡によって形を現実のものとする。ただ、あくまで論じられている内の1つの可能性の積み重ねであり、立証されたものではありませんが」


 そこまで言い切り、「この歳になっても魔力や魔法には驚く事ばかりです」、と言い柔和な笑みを私に向けるカムウェル。


「さて、魔力は無事に感知していただけましたので、ここからは魔力を魔法にする為の言葉、想像、操作ですな。魔力をどこか一点に安定して集め、その後にクリエイトアクアと言葉に出してください。魔力を最初に使い過ぎると疲労困憊で気絶しかねないので、集まりすぎたと感じたら体に分散するように、ゆっくりと……」


 知識としてはまだ浅いが実践には移れるか。


「魔力、魔力……指先に集まって来たか?次に想像と言葉……クリエイトアクア!」


 その瞬間に指先からカムウェルに向かって水が勢い良く飛び出す。

 カムウェルは咄嗟にアースウォールと唱え、自身の前に土壁を発現させた。


「ジヒト様、お見事です。初日なので魔法を使えるだけの魔力操作が行えるかどうかと考えておりました。しかし、魔力操作をもう少し鍛えないといけませんな」


 思ったよりも水が指先から出てしまい、自分の想像はホースから水を出す物だが、ウォーターカッターの様だ、と考える。

 すると、その想像で更に形状が細く強く変化してしまい、カムウェルに慌てて声を上げる。


「す、すみません! 上手く止められないんですけれど、想像と分散の問題ですか!?」


 土壁にヒビが入り始めている事に思わずと言った様子で、ムゥウ! 、と唸った後にカムウェルは私に声をかける。


「そ、そうですな……これだけの力強い水圧では危ないですな! 想像をもっと緩めて念じ、魔力操作で指先に集まって来ている魔力の流れを堰き止めて見て下さい」


 自分の指先に流れ続ける魔力を上手く分散できず、慌ててしまう。

 それならいっそ、危ないウォーターカッターではなくスプリンクラーにしてしまおう、と想像する。


「と、止められないので、水を拡散させます! 水浸しになりますが、すみません!」


「畏まりました。庭に水が滴るくらいであれば、問題はございません」


「はい!」


 そして、大量の水が想像によって拡散され、スプリンクラーのように庭に降り注ぐ。


「魔力操作はどうですかな? 止められそうですかな?」


 水も滴る男前な老執事カムウェルが私に問いかけた。


「止めどなく流れたままで……堰き止めようとすると決壊します……」


 私も水を被りながらカムウェルに告げる。

 非常に申し訳ない気持ちになってしまうな。


「仕方ありませんな。魔力が落ち着くまで出し切りましょう。なに、水やりの手間が減りましたよ、ははは」


 周囲が水浸しになる中、そんな風に笑顔で言い、髪をかき上げるカムウェル。

 無駄に格好良いなこの老執事…


 暫く局所的な天気雨のような状況が続き、私は魔力を垂れ流し続けた弊害で疲労困憊により気絶した。

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