表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/43

3:ホウジョウってどういう方面で有名?

「ホウジョウ……」


 女性は名前を読み上げ、そのまま固まってしまった。

 そもそもこの書類に私は漢字を書いた訳では無い。

 平仮名、片仮名、アルファベットですら無い。


 しかし、脳裏に浮かび体が記憶しているかのように、さらりと記載したのだ。


「もしかして……」


 女性は二、三言呟くと私の目を見て告げた。


「あの……失礼かと存じますが、貴方様の手荷物を別室にてご確認させて頂ければと……」


 突如として冷や汗が背中側に吹きでる。

 顔は冷静を装い、汗は背中にかく。


 社会人になって会得した特技を用いてどうにか避けようと言葉を紡ぎ出す。


「いえいえ、そんな……! 手荷物等は特に持ち合わせて居らず、金銭も身分証もないですので……」


「ですが、貴方様は先程身分証の話が出た際に胸ポケットに上から手を当てておりました。何か身分の分かるものをお持ちでは? こちらとしても間違いのない様、確認をさせて頂きたく」


 見られていた……書類を見ながら説明していたと油断していた。

 誤魔化すにしても拒否を続ければ、それこそ警備を呼ばれる可能性もある……


 だが、しかし……ど、どうすれば……


 今更だが下手すれば身分証の偽造で公文書偽造罪とか……

 いや、そもそも名前で別室送りということは犯罪者が私のような名前、身なりでもしているのかもしれない!


 ど、どうすれば……


「貴方様がどういった物をお持ちであろうと口外しない事をお約束いたします。別室にて検めさせて頂きたく」


 冷静に対処、できなかったな……ほぼ、積みかけている……


 いや、既に積んでいるというか……

 顔に出さなくとも焦ってはいるのだ。


 そんな私が冷静に対処などできようはずがない、か……


 困り顔で肯き、受付を出て先導する彼女の後ろをしずしずと付いていくのであった。

 ドナドナされるにしては早すぎるが、腹を決めて行こう……


 私はまだ、何も分からないこの世界で、ただ目眩で倒れ、病院に連れ込まれただけなのだから。


 受付スペースからそう遠くない距離を歩いたところで彼女が歩みを止めて告げる。


「こちらになります。こちらで私と院長で持ち物を確認させて頂き、然るべき対応をさせて頂きます」


 院長!?

 そんな事は一言も伝えられてないぞ!?


「院長を交えてとは聞いてないですよ! 貴方のみで検めると言っていたではないですか!」


「私はどういったものでも口外しない、別室で確認を、と申しただけです。私1人で、とは一言も伝えておりません。何か不都合でも?」


 私の投げかけに対し、彼女は被せるかの様に言う。


「で、ですが……」


「何か、不都合でも?」


 何も不都合はありませんよね?それともやましい事でも? 、と問いかけるかのような切れ長の目で私を見てくる彼女。


「っ……」


 言葉に詰まり、思わず下を向いてしまう。

 何も言えないまま諦める。


 その様子を見て彼女は扉を3度ノックし、声をかける。


「院長、少々確認して頂きたい方がおります。よろしいでしょうか?」


 暫くして室内から返事が返ってくる。


「えぇ、どうぞ」


 返事の後に彼女が扉を開き手で入るように促したので室内へ入る。

 進んだ先の執務机にはお婆さんが柔和な笑みを称えて座っていた。


「この方がどうしましたか? 服装が珍しい気はしますが、特段おかしな所のない人族の方ではありませんか」


「院長、こちらを……」


 先程の書類を手渡す彼女。

 その書類を軽く見た院長は息を呑みつぶやく。


「ホウジョウ……」


 皆してなんだって言うんだ。ホウジョウ、ホウジョウとそこばかり注目してきて……


 こっちはなんでか異世界転移してしまったせいで困惑しているっていうのに……


「タチア、何か身元の分かるものはありますか?」


 タチアと呼ばれた彼女は答える。


「お持ちのようでしたので、こちらで院長とともに確認できればと思い、ホウジョウ様を連れてまいりました」


「分かりました。では、ホウジョウ様。申し訳ないですが、身元の分かる物をこちらに……」


 致し方なく日本で使っていた財布から身分証を出す。


「これは、院長、なんと書いてあるのでしょう……」


「さっぱりですね……やはり、あのホウジョウ様と関わりがあるのでは無いかと……名前もそうですし、あの方も神から遣わされた別世界の方だったと言われておりましたから……御領主様に御報告して対応して頂きましょう」


 受付の方(タチアさん)も院長の反応からホウジョウが何かやったようであることは分かる。


 出来れば、犯罪者ではないことを願うばかりなんだが、深刻そうな思案顔をされるとこれからの行く末に不安が募る。


 それに御領主様に御報告だって?


 なにこれ、どんどんと不安の大バーゲンでもやっているのだろうか。

 出来れば、そろそろ大バーゲンのしすぎで閉店セールで打ち止めしてくれないか。

 閉店セールと銘打って、いつも閉店セールですという年中セールはゴメンですよ。


 しかし…


 あのホウジョウとは、どこのどういったホウジョウ某なんでしょうね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ