1:記憶って曖昧だよね
「いつっ…」
私は不意に襲われた頭痛で思わず声を漏らす。
多少の無理からか熱が出て、偏頭痛のようなものが継続していた。
しかし、先程の痛みはこれまでよりも一際大きな痛みであり、立っている事さえもままならない。
平衡感覚を失い、為す術もなく地面へと近付いていくのが自身の目で捉える事ができた。
…
「……ですか? ……てますか?」
ぼーっとした頭で目を開いたところ、若い女性の声がかけられた。
どうにも冴えない頭のせいか、私にはなんと言っていたのかが聞き取れずこぼれ落ちてしまう。
「申し訳ないが、なんと?」
「大丈夫ですか? 聞こえていますか?、と問いかけたんですよ」
やっと目覚めたのか、耳が、脳が言葉をしっかりと拾う。
「失礼しました。どうも頭がはっきりと醒めていなかったようで……大丈夫、だと思いますし、問題なく聞こえておりますよ」
「そうですか…話によれば貴方はいきなり倒れた、とこちらに連れてきた方から聞いたもので……脈拍や呼吸の乱れ、脳波異常等々も無かったので、一時的な目眩によるものと判断し、目が覚めるまで待っていたんです」
どうやらここは病院であり、私は目眩で倒れた様だ。
眼前には随分とラフな着こなしの若い女性が私を見下ろすかのように見ていた。
しかし、目眩とはまたなんとも無様な倒れ方をしたものだ。
体は若いからと無茶をしすぎてしまったか?
「さ、特に自身でも異常が見当たらなければ受付へ行って下さい。倒れたとはいえ全身調べた限り健康そのものですから」
「私はその、どれくらい眠ってと言いますか……倒れていましたか?」
「半日程度かと。それはもうスヤスヤと寝ておりました。寝不足では?」
自分自身に思い当たる点が幾つもあった為、思わず私は自己管理すらできないとは、と嘆かわしく感じつつも謝辞を述べた。
「お世話になりました……え~と……」
「セイタイ検査師のアケネーです」
「申し訳ない、アカネ先生…ありがとうございました」
「いえ。では、くれぐれも無理無茶をしすぎない様に」
そう言ってアカネは要は済んだ、と椅子に座り私から背を向け机で作業をし始めた。
私も受付へ向かうとしようか。
「お、お世話様でした」
知らない誰かが近場の病院に運び入れてくれた事に感謝しながら受付へ向かい……向かいながら、ふと、日本人の顔立ちではなかったな、ハーフかな? 、アカネ先生は耳が少し長い人なんだな、と思い出す。
そして、今、目の前からこちらに向かって歩いている人は……何故かコスプレをしている様だ……
山猫に扮する女性を見る事になるとは、私の知る病院とは狭い世界だったのだな、と痛感させられる。
やれTPOに合わせた服装だ、身なりは人を表す鏡だなんだと言われていた昨今も、時代の流れで個人主義が進んで来たのだろう…
少しばかり老け込んだ気になりながら、受付&待合室の看板を見つけ、そちらを目指す。
あぁ、私の知る世界とは狭いもの……だ……?
受付のスペースが見え始めた所で徐々に待合室も見えだす。
その光景を認識すると、嫌に鼓動が早まり背中に薄っすらと汗をかきはじめ、目眩すら覚えてしまう。
ここは……コスプレなどと勝手に誤魔化していた、厳然たる事実が眼前に突きつけられてくる。
待合室には動物的な特徴のある耳や尻尾が動く者、耳が長く見目麗しい者、背丈が低いながら幼子ではない者…上げだしたらきりが無い程だ。
それら誤魔化しようもない現実が否応なく私に突きつけられた。
私の知る世界とはどこに消えた!?
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