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90.夢の中の出来事が浮気になるわけがない※

 ブラン様と結婚して王太子妃になった私は、今日初めて、王族としてイベントに出席している。


 この国に来てから一年ちょっとが経つけど、去年の今頃は、魔王討伐の旅で忙しかったし、行事については未経験だ。


 この世界に魔王が現れてからは、魔物にあふれていたせいで、開催出来なかった行事もあるらしく、それらも今年から再開されるとか。  

 平和になったこの国で、これから様々な行事を経験出来るのが楽しみだ。


 

 今から始まるイベントというのは、騎士団剣術大会だ。

 正男に見せられた、アッシュ様の夢の中の情景そのままで、お城の敷地内にある屋外闘技場で開催される。


 両陛下とモント様、ブラン様と共に王族席に座る。

 あれだけ派手な結婚式を挙げておいて今更だけど、私が王族の一員だなんて、とっても不思議な気分だ。


 マロンさんたちメイドのみなさんも、後ろの方で待機してくれていて、喉が渇いたときや、トイレに行きたい時なんかは手伝ってくれるそう。

 というのは表向きで、後でどの騎士様がカッコよかったか教えてくれるらしい。

 なんだか女子会みたいで楽しみだ。



 開会や閉会の挨拶は陛下がされるので、今日の私たちは観戦していれば良いだけなんだけど、いつかはブラン様がその役割をするんだよね。


「今日の大会には、私のアカデミー時代の同級生達も出場するから楽しみだ。もちろん王太子としては、出身校や所属に限らず、誰が勝っても嬉しいが、友人としては、アッシュを応援したいところではある」


 ブラン様は、誰にも聞こえないように、私の耳元で言った。

 その表情はまるで少年のようだ。


 伝説級になったアッシュ様だけど、大会ではスキルや魔法の使用は禁止されているから、等級は関係なく、心身の強さと剣の技術の勝負になる。


 今日の大会には、王室騎士団はもちろんのこと、全地域の支部から、腕に自信がある騎士たちが集うそう。

 ちなみに、王室主催のこういった行事には、他にも魔術大会と馬術大会があるらしい。

 

 

「よーい! はじめ!」


 審判のかけ声と共に一回戦目が始まった。

 剣と剣が激しくぶつかり合って、金属音が響く。 

 たいていの試合は、勝負が着くのは一瞬。

 剣が弾き飛ばされるか、攻撃を受けた側の防具の宝石が輝くかだ。

 

 騎士たちは真剣な表情で試合に臨んでいる。

 この人たちが、一緒にこの国を守ってくれているのだと思うと、大変心強い。 

 

 

 お昼休憩を挟み、いよいよ準決勝だ。


 勝ち残ったのは、去年の優勝者でもある我らがアッシュ様。 

 あとは私が行ったことの無い街の騎士様たちだ。


 湖が美しい街『セイル』のカナール様。広大な自然公園がある街『ブルム』のコルク様。不戦の灯火を絶やさず守り続ける街『バーント』のルートル様。


「カナール様は初めてお見かけしましたが、コルク様はブラン様とアッシュ様の同級生の方ですよね? さすが、十代の頃からお強かったですもんね! それと、ルートル様は一昨年の優勝者の方ですね!」


 すごい。アッシュ様の夢で見た通りだ。

 

「セイラはすごいな。ルートルに優勝経験があることはともかく、コルクが十代の頃から強かったことを、どうして知っているんだ?」


 ブラン様は不思議そうにしている。


「正男の術で、アッシュ様の夢に迷い込んだ時に見たんです! そう思うと、すごく精度も解像度も高い夢だったみたいですね!」


 そう返答してから視線をステージに戻す。

 この発言が、ブラン様の心をざわつかせていたことにも気づかずに。

 


 準決勝の結果は、アッシュ様がコルク様に勝利し、カナール様がルートル様に勝利した。

 つまり、決勝に進んだのは、アッシュ様とカナール様。


 アッシュ様は構えた剣の先を見つめ、精神統一しているみたい。

 カナール様は肩をぐるぐると動かして、身体をほぐしている。


 二人がステージに上がり、いよいよ決勝戦が始まる。


「よーい、はじめ!」


 合図があった瞬間、激しい打ち合いが始まった。

 駆け引きをするかのように、お互いに近距離で打ち込んでは、距離を取って流すを繰り返す。

 重い攻撃で剣同士がぶつかると火花が散る。

 

 先に仕掛けたのはアッシュ様だった。


 カナール様の攻撃を剣で受け止め、弾き返した後、腰を落として一気に距離を縮める。

 片手剣の動きにしてはかなり強気だ。

 これでは背中がガラ空きになる。

 まるで短剣使いみたい。


 しかし、カナール様も弾かれた剣を振りかぶっているので、身体の下の方はガラ空きだった。

 アッシュ様の攻撃は、カナール様の下腹に当たり、カナール様の防具の宝石が輝いた。


「優勝者は、王室騎士団 名誉聖騎士アッシュ!」

 

「アッシュ様! すごいです!」

「あぁ! やってくれたな!」


 会場が歓声に包まれる。   

 

「こんなにも強い騎士たちがおれば、この国も安泰じゃ」

 

 陛下は安心したようにつぶやいた。



 表彰式が始まると、二つの植木鉢にはフランネルフラワーと黄色いバラがそれぞれ咲いた。


「ブラン王太子殿下の盾となり矛となり、命の限り尽くすことを誓います」


 アッシュ様はひざまずき、ブラン様に花を捧げた後、ブラン様の右手を取って、額を近づけるようにした。


「アッシュ、ありがとう。君はもう十分すぎるほどこの国に尽くしてくれている。感謝する」


 ブラン様はアッシュ様の肩に手を置いた。

 続いてアッシュ様は黄色いバラを手に取り、私の前にひざまずいた。


 あれ? またまたデジャヴ?

 

「セイラ王太子妃殿下と、未来を照らす光に」

 

 アッシュ様は私の手を取り、甲にキスした。

 とっても嬉しいけど、良いのかな?

 未来を照らす光というのは、未来の王⋯⋯お世継ぎにってことだから、ここは素直にもらった方が良いよね。


「セイラ、受け取ってやってくれ」


 ブラン様は小声で言ってくれた。


「アッシュ様、お疲れ様でした。あなたは心から尊敬できる騎士です。ありがとうございます」


 バラを受け取り、感謝を伝えると、アッシュ様は微笑んでくれた。



 王宮に帰り、アッシュ様に頂いたお花は、ブラン様のお花と一緒に寝室に飾ってもらった。

 今は私のベッドの上で座ってイチャイチャしながら、夫婦二人でのんびりと寛いでいるところだ。


「セイラは剣術大会を観戦してどう思った?」


 頭を撫でられながら尋ねられる。


「騎士のみなさまの迫力ある戦いを見られて、いい刺激になりました」


「そうか。母上は初めて剣術大会を見た時は、男たちが剣を振り回しているのが怖くて、見ていられなかったと言っていた」


「確かに、元の世界にいた時の私だったら、怖がっていたかもしれません。今は自分が剣を扱う側になったので、自然と動きや戦術を参考にしようという目線で見てましたね」


 戦闘向きの役職じゃなければ、目の前であんな戦いを見たら、まず感じるのは恐怖かもしれない。



「そう言えば、セイラはアッシュの夢の中でも剣術大会を見たと言っていたが、彼はどんな様子だったんだ?」


「そうですね。たしか⋯⋯アカデミーの学内剣術大会で、アッシュ様が連続優勝記録を更新していて、卒業する年にコルク様と戦って、優勝されてました。それと、去年の騎士団剣術大会でルートル様に勝利して、優勝されてましたね。私は観客席でそれを観ていて、お花をもらってプロポー⋯⋯」


 おっと。これ以上は話しすぎかもしれない。

 ブラン様の表情をちらっと見ると、こちらを真っ直ぐ見つめている。

 あれ? もしかしなくても、まずい雰囲気なんじゃ⋯⋯


「確か正男の話では、セイラは彼ら五人とそれぞれ夫婦になり、好き勝手されていたという話だった気がするんだが、具体的には何をされたんだ?」

 

 両肩を優しく掴まれて問い詰められる。


「正直にお答えしたいのは山々なんですが、夢の主のプライバシーに関わると言いますか⋯⋯夢で見る内容って、必ずしも願望だけじゃありませんし、所詮(しょせん)、夢は夢。誰が誰とどうなろうが、全くの自由と言いますか⋯⋯」


 目を逸らし、しどろもどろになりながら答える。

 アッシュ様の子どもまで産んでいたなんて言ったら、大問題に発展しかねない。


「俺だって最初は、たかが夢だと流していたんだ。けれども先ほどセイラは、アッシュの夢は精度も解像度も高いと言っていたし、実際にコルクとルートルのことも、過去の剣術大会でのアッシュの優勝歴も、正しく把握していた。だから夫として、愛する妻が、彼らの夢の中でどんな風に過ごしていたのか、知る義務があるんだ」


 ブラン様は私の顎を持ち上げる。


「いやいや、でも私の口からは言えません」

「言えないようなことをされた?」

「まぁそうですね。夫婦っぽいこと⋯⋯ですね⋯⋯」

 

 とは言え、これって誰を責められるものでもない気が⋯⋯


「では、こういうこともされたのだろうか?」


 ブラン様は私の身体を押し倒し、ネグリジェをたくし上げながら、太ももに触れた。


「彼らと同じことを俺もしないといけない。次はどうされたんだ?」


 優しい声だけど、触れられるラインは攻めている。


「そんなの言えないです⋯⋯けど、私の心と身体はブラン様だけのものです。この世界に来て新しく頂いたこの身体は、ブラン様にしか許していませんから。私は、あなたにだったら、どうされても構いません」


 両手で頬を包み込み、真っ直ぐ目を見つめながら伝え、そのまま自分から口づける。


「セイラ、君という人は全く⋯⋯嫉妬心から少し困らせようと思っただけなのに。これでは感情のやり場がないな」


 ブラン様は困ったように笑いながら、おでこにキスしてくれた。

 けれども、これで終わってもらっては、私が困る。


「ブラン。お願い。私があなたのものだってこと、よくわからせてくれませんか?」


 首の後ろに腕を回し、甘えたように言う。


「くっ⋯⋯君はいったい、いくつ反則技を使うんだ。今日は俺の完敗だ」

 

 ブラン様の嫉妬の炎のおかげか、燃えるような熱い夜を過ごした。

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