84.この国を背負う王子たちに救えないものがあるわけがない
龍になった正男は、私のスキル、略奪(心)を使用された結果、妖怪ヤマタノオロチへと姿を変えた。
八つの頭と八つの尾を持つ巨大なヘビだ。
これはいわゆる、第二形態というやつなんだろうか。
「まだ駄目なのか⋯⋯」
「先ほどよりも強化されているように見えるね」
ブラン様とモント殿下は、目を見開き絶望している。
ヤマタノオロチは、八つの頭を持ち上げて、言葉を発した。
「セイラ」
「ブラン」
「モント」
「アッシュ」
「ジェード」
「ノワール」
「ボルド」
「セルリアン」
八つの顔がそれぞれ一人ずつ、私たち八人の名前を呼んでる。
「おい、なんだよあれは! 俺の名前を呼びやがった!」
「え、なんで知ってるんだろ」
「やだ〜! 怖い〜!」
ジェード様、ノワール様、ボルド様はドン引きしたご様子。
「見てください! それぞれの頭が光っています! 私たちの属性の色ですよ!」
八つの頭は順番に、黄、白、白、黄、緑、黒、赤、青の色に光っている。
これはいったい⋯⋯
分析していると、私たち八人の身体が白く光り出した。
ナーダ様だ。
「頭の中に音が流れ込んで来た」
「どうやら幻聴では無いらしい」
アッシュ様とセルリアン様にも、聴こえてるんだ。
「一人一つずつ、自分の担当の頭を倒す。それがあの妖怪を止める方法だそうだ」
モント殿下が、ナーダ様のお言葉を、私たちにも伝えてくれる。
「一つずつ確実に仕留めましょう。後衛職から攻撃をし、周囲はフォローに徹すること」
ブラン様の作戦に全員頷いた。
「んじゃ、俺から行かせてもらうぞ」
ジェード様は陣形の中央に出た。
前衛職はバフをかけてもらい、守りを固める。
「ジェード〜!」
緑色の頭は、ジェード様に向かって突進して来た。
そこをボルド様が盾で防ぎ、ブラン様が斬撃で牽制する。
詠唱を終えたジェード様は、大きな葉っぱのブーメランを飛ばした。
ブーメランが直撃し、スパッと切断された首は、地面に落ちた後、塵になって消えていった。
「次は俺」
ノワール様が魔法を使うと、黒く光る球体が現れた。
その周りは電気が走ったみたいに、チカチカしている。
黒い頭はその光に魅せられたのか、自らその魔法に首を突っ込み、混乱したように頭を地面に打ち付けて、のたうち回った後、動かなくなった。
「ノワール、君を怒らせると恐ろしい。では僕も行くとしよう」
セルリアン様は、四体の球体タイプの精霊を呼び出した。
精霊たちは、青い頭を囲うように飛び回り、それぞれレーザー光線のようなものを放ち、隣の精霊と結びついて、四角い形を作る。
その四角は徐々に狭まり、最後は首に巻き付いた。
青い頭は、そのまま固まったように動かなくなった。
「私に行かせてくれ」
モント殿下は、白く光る魔法の矢を放ち、素早く逃げ回る白い頭を攻撃する。
矢が当たったヤマタノオロチの体は、その部分が消滅して、穴が空いたようになる。
この攻撃で、ヤマタノオロチ全体が弱体化したらしい。
モント殿下の矢は白い頭を貫き、頭も消えて無くなった。
「俺も後衛として行かせてもらう」
アッシュ様はアズール王国でも使っていた、光線のような魔法を使った。
先ほどのモント殿下の攻撃で、動きが鈍ったヤマタノオロチは、光速の攻撃を避けきれず、黄色い頭は撃ち抜かれた。
これで後衛は終わりだ。
あとは近接攻撃が必要な、ボルド様、ブラン様、そして私。
「こんだけ頭が減ったなら、俺でも近づけるかな〜?」
ボルド様は重い盾を背中に背負い、走り出した。
右手に持った武器を大きな斧に変形させる。
神官の二人は、ボルド様に防御と移動速度上昇のバフをかけ、アッシュ様が剣と盾を構えて、前に出て来てくれる。
私とブラン様は、自分の頭を退けるのに必死だから、フォローに入って貰えると助かる。
「さぁ! 来い!」
ボルド様が注目のスキルを使うと、赤い頭はボルド様に噛みつこうと顔を近づけた。
ボルド様は、飛び上がりながら頭を避けたあと、身体を水平にしながら横回転して、斧で首を斬り落とした。
「次は私です!」
攻撃力上昇のバフをかけてもらって、黄色い頭に近づく。
この大きくて硬そうな頭を、短剣でやらないといけないから、狙うは急所。
ぴょんぴょんと逃げ回り、体側からよじ登って、急所の後頭部に毒入りの短剣を突き刺すと、一撃必殺が成功した。
「最後は私だ」
ブラン様は白い頭の元へと歩いて行った。
白い頭は一人になって動揺しているのか、激しくブラン様を威嚇する。
けれども、ブラン様は顔色一つ変えずに、剣を真一文字に静かに振り抜き、首をはねた。
八つの頭全てを倒されたヤマタノオロチは、塵になって消えていった。
全ての塵が空気に溶けて行ったあと、残されたのは禍々しい赤黒い球体。
これは、実体を無くした正男?
今度は、ブラン様とモント殿下の身体が白く光出した。
「私が祈りを捧げ、ブランが新生の剣で斬る。それで終わりだそうだ」
モント殿下は球体の前にひざまずき、祈りを捧げた。
ブラン様は剣を抜き、球体を一太刀で斬り裂いく。
すると空から雪が降ってきた。
白い雪とともに舞い降りて来たのは、神々しい少女。ナーダ様だ。
ブラン様が斬り裂いた球体は、いつの間にか人間の赤子に姿を変えていた。
ナーダ様は赤子を抱きかかえ、私たちに向き直る。
「彼がこの世界に送り込まれることを防げずに、申し訳ありませんでした。彼は、元いた世界で生きていた頃、心の中では何度も反省し、次こそは更生しようと誓っていました。けれどもそれは叶わず、最後は、欲望を満たすために、この世界を滅ぼそうとする、恐ろしい存在へと姿を変えてしまいました。私は、この子の更生したいという願いを叶えるため、人生を初めからやり直す姿を見守りたいと思います。この世界と交わることがない遠い世界に連れていきますので、皆さんご安心を。この子を止めてくれて、世界を救ってくれて、ありがとう⋯⋯」
ナーダ様は赤子を抱きかかえて、天に昇って行った。
空中に浮かび上がったステージは、ゆっくりと地上に降りていく。
「終わったみたいだね」
「はい、兄上。ありがとうございました。皆もよくやってくれた。ありがとう」
ブラン様は、みなさんに向かって頭を下げた。
それに引き続き、私は石畳の上に正座する。
「みなさん。この度は、ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。元はと言えば、私があんな男と関わってしまったばっかりに⋯⋯」
深々と頭を下げて、謝罪する。
「セイラさん、君が悪いわけではないと言っただろう? 妖怪を送り込んで来たのも、彼を山で保護した人間だと分かったし、その件はナーダ様がなんとかしてくださるようだ。全て丸く収まったんだ」
「兄上のおっしゃる通りだ。複雑な心境ではあるが、彼がいなければ、セイラはここにいなかったんだ。それ自体も無かったことにしたいなんて言う者は、誰もいないだろう?」
ブラン様は私の手を引いて、立ち上がらせてくれた。
みなさんも、ブラン様の言葉に頷いてくれている。
「ありがとうございます。これからも、ここにいられるなんて、夢みたいです。本当にありがとうございました!」
私は心からの笑顔で、みなさんにお礼を言った。
その後、私たち八人は王都に帰還し、国王陛下に事の次第を報告した。
それ以降、他の地域での異常は確認されず、事態は収束したと判断された。
一連の事件については、各地域の記者たちが記録に残し、後日それをまとめた物が出版されることになった。
けれども、イーリスでの正男との戦闘に関しては目撃者がいないため、こちらの都合の良い内容で公表されることになった。
つまり、正男が私を狙って、こちらに来て暴れたことや、私がいた世界から妖怪が送り込まれて来たことは国民には伏せられる。
これは私の立場が不必要に脅かされないように、ブラン様が配慮して手を打ってくれた結果だ。
今回の事件を経て、モント殿下とアッシュ様は伝説級に昇格し、英雄の称号を得た。
私とブラン様とセルリアン様は、なんと、神話級という、またもや未知の等級に昇格した。
【第三部 異世界からの脅威編 完結】
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最終パートである第四部は、夫婦となった二人の愛と新たな家族の誕生の物語です。(もちろん英雄たちも活躍します)
108話で完結となりますので、『ブックマークに追加』&『更新通知ON』で、最後まで見届けて頂けますと幸いです!