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83/108

83.七人のイケメンたちのエールが届かないわけがない


 正男と私たち八人を乗せた広場のステージは、空高く浮かび上がった。

 きっとこれが神託にあった、空の異変の続きなんだ。


 正男は、身体から禍々しいオーラを出しながら、私を睨みつける。


「王子を殺し、この世界で生きる意味を無くした愛子を、元の世界に連れ帰ろうと思ったが、失敗に終わった⋯⋯⋯⋯愛子、これが最後のチャンスだ。お前が大人しく俺と一緒に帰るなら、俺はお前を許す。だが、抵抗するようなら、ここにいる男たちを皆殺しにしたあと、この世界の全てを破壊し尽くしてやる」


 正男は恐ろしいことを言った。


「そんなの嫌ですよ! あなたとなんか、帰りたくありません! 私はここで生きていきますから、これ以上、誰も傷付けずに帰ってください!」


「そんな態度でいいのか? お前一人の我が儘のせいで、今からこの世界が滅びるんだぞ? 全部お前のせいだ。みんな、お前を恨むだろうな。勝手にこの世界にやって来て、この世界を壊しやがったんだってな。お前が元いた世界に帰るだけで、この世界を救える。本来あるべき姿に戻るだけだ。愛子、お前は英雄なんだろう?」


 私がこの男の言うことを聞きさえすれば、みんながひどい目に遭わずに済む?

 私さえ我慢すれば、世界を救える?


「セイラ、駄目だ。そんな話に耳を傾ける必要はない」


 ブラン様は私の身体を強く抱きしめた。


「ブランの言う通りだ。彼は君に罪悪感を植え付けようとしているけど、悪いのは彼だ」


「お前を犠牲にして、世界を救うなんて間違っている」


「あの男がそんな約束を守るとは、僕には到底思えない」


 モント殿下、アッシュ様、セルリアン様もそう言ってくれた。

 ジェード様、ノワール様、ボルド様も頷いてくれる。

 

 私の想いを貫き通していいのかな。

 自分を犠牲にして、この場を丸く収めることよりも、自由のために戦うことを選んでもいいのかな。


「正男さん、私は帰らない。悪いのは全てあなたです! この世界に害をなすと言うのなら、私はあなたを許しません!」


 正男を睨み返しながら叫ぶ。


「そうか、残念だな。その選択を必ず後悔させてやる。お前が誰の所有物なのか、力ずくで分からせてやる!」


 正男から溢れる禍々しいオーラは、卵型の球体になって正男を包みこんだ。

 卵は激しくガタガタと揺れ、やがて二つに割れる。


 中から出てきたのは、赤黒いオーラをまとった恐ろしい龍だった。

 ヘビのように長い体は鱗に覆われていて、鉤爪(かぎづめ)がある四本の手足が生えている。


 大きな口を開けると尖った牙があって、目つきは鋭く、長い髭と二本の角が生えている。

 体の周りには、渦巻き状の雲をまとっていて、龍がうねる度に風を巻き起こす。



 みんなで並び、龍を見上げる。


「なんなんだ! あれは!」

「大きすぎ〜!」

「やはり化け物だったか」


 すぐに前衛後衛に分かれて、陣形を組み直す。

 この八人で、あの巨大な龍を倒さないといけない。


 短剣を構えると、突然、私の身体が白く光り出した。

 頭の中で手拍子が鳴り響き、聖歌が聴こえてくる。 

 ルーチェ様から頂いた指輪も猛烈な光を放つ。

 私がやらないといけないと、誰かに言われているのがなんとなくわかる。


「ナーダ様の声が聞こえる⋯⋯セイラさん、君があの龍から、汚れた心を奪うんだ」


 モント殿下は言った。

 なるほど。これがナーダ様のお導きなんだ。


「分かりました。みなさん、フォローして頂けないでしょうか」


「全力で支援するから」

「危ない時は一旦引けよ」

「セイラ⋯⋯絶対に無理はしないでくれ」


 ノワール様、ジェード様、ブラン様は言ってくれた。


 モント殿下、ノワール様、アッシュ様が、私にバフをかけてくれる。

 豪華全部のせ盛々フルコースだ。


「では、行きます!」


 高らかに叫んで前に出る。


「来いよ! 最低暴力男〜!」


 ボルド様が注目のスキルを使うと、龍はボルド様に向かって赤黒い息を吹いた。


「うげ〜! これに触れると腐食するみたい! やばいんですけど〜!」


 ボルド様の盾の一部が汚れたようになっている。

 バーミリオンのウロコで出来た、頑丈な盾が⋯⋯

 早く決着をつけないと。


「ジェード様! セルリアン様! 足場をください!」


 ジェード様が木を生やして、セルリアン様の精霊が成長を促進させてくれる。

 次々と生えてくる木を足場に、一気に龍に近づく。


 パステルとバーミリオンは、連日の移動の疲れが溜まっているから、空中を素早く飛び回る龍に近づくには、この方法しかない。


 龍は私を避けて逃げ回りながら、ボルド様にブレス攻撃をしかける。


 駄目だ。全然追いつけない。

 私の移動速度が遅いからいけないんだ。

 三人がかりでバフをかけてくれてるのに。


 ブラン様は、斬撃で龍の動きを制限してくれている。

 全員が全力でサポートしてくれているから、これ以上の支援は望めない。



「セイラちゃんは〜! そんなもんじゃないだろ〜!」


 ボルド様が大声で叫んだ。

 鼓舞のスキルを使ってくれたんだ。

 心臓がドキドキして苦しくなってくる。

 私なら、なんだって出来そうな気がする。


「はい! まだまだやれます!」


 自分でも自分を鼓舞して、龍に近づく。

 ほんの一瞬でも、かすることさえ出来れば⋯⋯

 今で互角。ブラン様の攻撃とタイミングが合えばチャンスはある。

 けど、それまで、この身体がもつか⋯⋯


「まだ足りないって!? そしたら野郎ども〜! セイラちゃんの好きなとこ、言ってけ〜! 一番ドキドキさせた奴が優勝だ〜!」


「え〜!? なんですかそれ!?」


 突然始まった謎の大会。

 そうか、ドキドキして魔力が瞬間的に上昇すれば、ドワーフにもらったこの宝石の効果で、移動速度が上がるから。


「んじゃ、まず俺から〜! 世界一かわいい〜!」

「はぁ? 宇宙一に決まってんだろ!!」

「まぶしい笑顔に、くぎ付け!」

「ひたむきな姿は、野に咲く花のようだ!」

「君には他者を癒す力がある」

「太陽のように温かい心を持っている!」


 次々と褒め言葉が飛び交う。

 仲間である彼らも、客観的にみると国宝級のイケメン。

 そんな彼らが、私を応援してくれるこの光景は、とにかく贅沢。

 お世辞でも大声で褒められると、恥ずかしさで顔が熱くなる。


「俺はーー! セイラの全てを愛してるーー!」


 よく通る声で叫んだのはブラン様だ。

 その声を聞くと一気に鼓動が速くなる。


「優勝は〜! ブラン〜!! ヒュー! ヒュー!」


 ボルド様が、私たちをはやし立てる声が聞こえる。

 とにかくいたたまれない。

 けど効果は絶大だ。

 光の速さで龍の体を捉えることが出来た。


「躾、躾って、それが必要なのはあなたですよ! 心を入れ替えて反省してください!」


 略奪を使い、掴んだ物を思い切り引っ張る。

 重い。今までとは比べ物にならないくらい、強力に絡みついている。


 龍の体に足をかけて、力ずくで引っ張る。

 強い抵抗感があったあと、ズルリと何かが抜けた。

 まるで川底に生えた、根っこが長い水草を抜くような感触。


 龍の心の何かを略奪すると、その体から泥のようなものが、地面に向かって垂れ流されていく。


「ギャー! 見た目がヤバすぎます!」


 大急ぎで木に飛び移って、みなさんの元に帰る。


 その泥を鑑定スキルで確認するも、名前がついていない。

 なんだろう? マリンちゃんの時やナーダ様の時とは違う⋯⋯


 龍の飛行高度は徐々に下がり、地面にへたり込んだ。

 地面に垂れ流された泥は、山のように積み上がっていて、やがて生き物のように、もぞもぞと動き出す。

 

「え⋯⋯これ、どうにかした方がいいんでしょうか?」


 モント殿下に尋ねる。


「どうだろうね。ナーダ様の声は聞こえないから推測しか出来ないけど、とどめを刺さないといけないのだろうか」


 モント殿下は首を捻った。


 遠巻きに様子を伺っていると、泥はスライムのように、形が無いまま一つの塊になって、龍の体を包み込む。


 うごめく泥はまるで、龍と一体化しようとしているみたい。

 その反応が終わると、龍の姿がヤマタノオロチに変化していた。 

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