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8.王子様なのに初心なわけがない


 あれから私たち三人は魔物狩りを続けた。

 今集中的に狩っているのはハグネズミという魔物だ。

 ハリネズミのように体からトゲが生えているのが特徴で、大きさは人間の赤ちゃん位ある。

 このハグネズミは名前の通りハグされるのが大好きらしいんだけど、まさかまさかのお腹側にもトゲを隠し持っていて、ハグしたとたんお腹側のトゲを突き刺してくるという恐ろしい習性がある。


「ハグネズミの針って何に使えるんですかね?」


「使っている者は見たことがないが、鎧などの装備に取り付ければ、接触攻撃を受けたときに相手にダメージを与えられるようだ。後は毒を塗って毒針にして飛ばすのは盗賊にも出来るかもしれない」


「なるほど。遠隔攻撃の手段がない私にとっては、使い勝手がいいかもしれません! たくさん集めたいですね!」


 アッシュ様のアドバイスを受けて、俄然やる気が出てくる。


「そういえば、ドロップアイテムの数が多い個体もいるんですね? ほとんどのハグネズミは一匹につき針一束ですけど、よく見たらちょっと色が濃いのがいて、それは2倍取れるみたいで⋯⋯」


 同じ難易度なのに報酬が増えるのはお得だ。

 これがただのレベル上げ作業なら、お得個体だけ倒すなんてこともできるかもしれない。


「それは盗賊のステータスが関係しているんだろう。俺の場合はドロップアイテムの数に変化は見られず、色の違いも感じられないからな」


 アッシュ様は答えてくれた。


 なるほど。

 盗賊のステータスは尖っていて、攻撃力・攻撃速度・回避能力に加えて運が高くて、体力・防御力・魔力が極端に低い。

 一方、聖騎士は攻撃力・体力・防御力・魔力は高いけど、回避能力と攻撃速度は低くて運も高くない。

 ブラン様の王のステータスはバランスタイプと言ったところだ。


「じゃあハグネズミに限らず、私が色が濃いのを見つけて積極的に狙いますね! そうしたら良いものがたくさん手に入るかもしれません!」


 盗賊の性能を活かせる場面を見つけることができて嬉しくなる。


「ね! ブラン様!」

 

 さっきから反応がないブラン様を振り返る。


「くっ⋯⋯私はその目に弱いんだ⋯⋯」


 ブラン様は苦しみながらも、なんとか乗り越えて、この可愛い魔物を討伐しているようだった。




 そしてその翌日。

 私たち三人は山小屋の入り口に立っている。


「実際の冒険では、迷宮や遺跡の探索も行わなければなりません。今日はその練習として、この小屋を攻略して頂きます」


 アッシュ様は今日の訓練内容について説明してくれた。


 迷宮や遺跡には試練が用意されていて、それを攻略することで、神からの贈り物⋯⋯つまりお宝が与えられるという。

 贈り物の内容はその時々によって必要なものらしく、魔王の元に辿(たど)り着くまでに、贈り物によって自身を強化することも大切なんだとか。


「どこからどう見ても普通の山小屋ですけど、ここで探索の練習なんてできるんでしょうか?」


 目の前にある山小屋は、木造の平屋で一人で暮らすのもやっとな狭さに見える。


「ブラン様とセイラの練習用に、王室の魔法使いたちが作成したものだ。中には様々な罠や仕掛け、宝箱、ヌシとなる魔物も用意されている。冷静に持てる力を発揮すればそう難しいものではない」


 どうやら結構本格的な代物らしい。


「では私はここで待機しておりますので」


 アッシュ様は一緒に来てくれないんだ。

 ブラン様と顔を見合わせたあと、うなづき合う。


 アッシュ様は山小屋の扉を開けて、私たち二人を中に入れた。



 山小屋の中はいたって普通に見えた。

 部屋の真ん中には木でできたテーブルとイスが置いてあって、本棚と流し台と食器棚がある。


「これが迷宮ですか⋯⋯」


 全くそんなふうには見えないけど。

 棚の扉を開けて中を見たり、テーブルの裏側を見たり色々と物色する。

 罠や仕掛けや宝箱があるって言ってたよね。

 ゲームの定番では⋯⋯


「だいたい本棚の裏に隠し通路があるんですよね⋯⋯」


 何気なく本棚の側面を押すと⋯⋯


――ガラガラガラガラ


 本棚が動いて裏側に扉が現れた。


「ほら! やっぱり!」


 得意げにブラン様を見る。


「あぁ。そうだな」


 ブラン様は微笑みながらも少し困惑気味だ。

 どうしてだろう。


「この扉⋯⋯鍵がかかってますね。あ! 私、わかっちゃいました! こういうのは絵とか花瓶とかが怪しかったりするんです⋯⋯ほら!」


 花瓶を動かすと下に鍵が置いてあった。


「ね? ブラン様! 凄いでしょ?」


 さらに得意げに胸を張る。

 するとブラン様は言いづらそうに口を開いた。


「セイラ、確かに君の推理力には驚かされるんだが、その⋯⋯盗賊の地図作成スキルを使って見取り図を作成し、扉には解錠スキルを使うのが正攻法だと思うんだが⋯⋯」


 ⋯⋯確かにブラン様の言う通りだ。

 盗賊のスキルを完全無視して、転移前のゲームの経験則を頼りに行動してしまっていた。


「あはは〜ほんとですね〜地図作成しま〜す」


 スキルを使うとすぐに見取り図が手元に現れた。

 本棚の裏から下り階段が続いていることも、これを見れば一発でわかる。

 

「では扉もあえてこの鍵を使わずに、開けて見せましょう」

 

 そう宣言して解錠スキルを起動する。

 ふむふむ。

 この角度で、こんなふうに回して、ここにひっかけると⋯⋯


――ガチャ


 無事に鍵を開けることができた。

 このスキルってめちゃくちゃ悪いことにも使えちゃうんじゃ⋯⋯ 


 今後同業者に出くわすことが無いように祈りながら、勢いよく扉を開ける。


「シャー!」


 すると、いきなり小型の魔物が飛びかかってきた。


「ギャー!」


「危ない!」


――シャキン


 ブラン様は即座に剣を抜いて、魔物を倒してくれた。


「油断してました⋯⋯ありがとうございました⋯⋯」

「いや、構わないが、探知のスキルも起動しておいたほうが良さそうだな」


 ここに来て少し突っ走り気味だったかもしれない。

 ブラン様の冷静な指示に従いながら、先に進むことにした。


 

 下り階段の先は明かりが届かなくて真っ暗だけど、暗視スキルを起動すればはっきりよく見えた。


「ブラン様! ここからは私にお任せください!」


 ブラン様の手を取り、安全に降りられるようにエスコートする。


「すまないな。私には何も見えないから助かる」

 

 ブラン様は微笑んでいた。

 もしかして、盗賊のスキルってちゃんと使えば結構有能?

 さっきまではグダグダだったけど、ここで挽回しないと。

 ブラン様の役にちゃんと立てそうな予感に浮足立つ。


「ヌシの魔物ってどんな感じなんでしょうか?」


「どうだろうな。どこかの魔物を生け捕りにして連れて来ているだろうから、先にこちらが見つけて対策を練れば倒せそうなものだが」


「でも、サギウサギやハグネズミより可愛いかったらどうしますか?」


「そうだとしても、私はセイラを守るためなら迷いなく剣を振れる」


 さらりと答えてくれるブラン様の真っ直ぐな瞳があまりにも美しくて、つい見惚れてしまう。

 動揺した私は、階段が終わっていた事に気づかず、踊り場に変な風に足についてしまった。

 バランスを崩して倒れそうになる。


「危ない!」


 ブラン様がこちらに手を伸ばしてくれるけど、彼は何も見えていない状態なわけで⋯⋯

 結局二人とも倒れてしまった。


 仰向けに倒れるブラン様の上に私がのしかかる形になっている。


「すみません! ブラン様、お怪我はありませんか?」


「あぁ。どこも問題ない。セイラ、君も無事か?」


「はい。助かりました。ありがとうございます」


 お互いの無事を確認できたところで、ふと胸に違和感を感じる。

 なんだろう? 恐る恐る確認すると⋯⋯ブラン様の両手が、私の両胸を優しく鷲掴みにしていた。


「ええ! ちょっと! ブラン様! なにさりげなく胸揉んでくれちゃってるんですか!?」


 文句を言いながら勢いよく飛び退く。


「これはそうだったのか!? すまない! 腕だと思って支えていただけだ! わざとじゃないんだ! 信じてくれ!」


 ブラン様は顔を赤くしながら言い訳し始める。


「いくら真っ暗だからって、腕と胸を間違える人なんていないでしょう! 目をつぶってても普通、感触でわかりますから!」


「⋯⋯⋯⋯初めてだったんだ」


「⋯⋯⋯⋯え?」 


 ブラン様の顔はさらに真っ赤になった。

 なんともいたたまれない気持ちになる。

 

「いやなんか、初めてがこんな粗末な身体ですみません⋯⋯」


「粗末だなんてとんでもない。意外と⋯⋯」


「んなあーーー! だめです! お世辞でもそれ以上言ってはいけません! あなた、キラッキラの王子様なんですよ? それに、絶対に空気がおかしくなりますから! 事故として処理しましょう。そして、このことはこの迷宮の闇に葬りましょう」


 どうやらこの王子様はとんでもなくピュアらしい。

 王子様なら教育の一環とかなんとかで、そういうご経験もおありなのかと思っていたけど、どうやら勘違いだったみたいだ。


「⋯⋯⋯⋯私が責任をとろう」


「へ?」


「セイラ。君のことは私が責任をとると言ったんだ。この事故のせいで君に貰い手がつかなければ困るだろう。様々な手順を踏まなければならないが、きっと苦労はさせない。私が必ず君を幸せにするから⋯⋯」


 ブラン様は何かに追い込まれたのか、頭のネジが外れたのか、プロポーズまがいのことを言い出した。


「そこまでするほどのことじゃないですよ? 大丈夫ですから。よくあるハプニングです」


「大丈夫なはずがないだろう。それに、こんなことは起こり得ないと君が最初に言ったんだ。私が君の身体の神聖な部分に触れてしまったことは事実。それが女性にとってどれだけ大切なことかも理解しているつもりだ。やはり戻り次第、婚約を⋯⋯」


「ブラン様、動揺しすぎです! もう口を開かないでください!」


 この王子様はピュアで真面目で、ちょっぴり思い込みが激しくて、強引で⋯⋯

 頼りになるのかならないのか、なんとも不思議なお方だと思った。


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