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75.その重戦士が見た夢の世界で溺れるわけがない※


 私はセイラ、二十三歳。

 私は今、愛する旦那様のために、手料理を作っている。

 

「バーミリオン、次はちょっと火を弱めて欲しいの。後はじっくり煮込みたくて」


「ガッゴー!」 


 バーミリオンは笑顔で返事をしたあと、口からチョロチョロと火を吹いた。

 バーミリオンの火で料理を作ると、すっごく美味しく出来るんだよね。

 そのまま煮込むこと二十分。


「出来た! 豚の角煮! はい、これはバーミリオンの分ね! 私はボルド様を呼んでくるから、先に食べててもいいよ!」


 バーミリオンの頭を撫でた後、作業場へ向かった。

 

 お仕事中のボルド様は、手の平から火を出し、金属を熱しては、繰り返しハンマーで叩いている。


 汗を拭いながら真剣に作業する姿が、男らしくてかっこいい。

 いつまでも見ていたいところだけど、ご飯が出来るのを待っててくれてるんだもんね。


「ボルド様〜! 夕食が出来ました!」

「おぉ〜! やった〜! もうお腹ペコペコ〜!」


 ボルド様は作業を中断し、抱きついてきた。

 ボルド様の身体はいつもより熱くて、ちょっと汗をかいている。

 けど全然嫌じゃない。むしろボルド様の匂いがして安心する⋯⋯


 あれ? 私って匂いフェチだったっけ?

 積極的に匂いを嗅ごうとしたところ、一度身体を離され頬にキスされる。


「どうしよ〜! セイラちゃんが可愛すぎるから、こっちを先に食べちゃおうか!」


 ボルド様は白い歯を見せて、爽やかに笑う。


「もう! ボルド様ったら!」

 

 こんな小っ恥ずかしいやり取りをしながら、彼の手をひいて、食卓に連れて行った。



「わぁ〜! 豚肉がお口でとろける! 煮卵も味が染み込んで、黄身もトロットロでおいしい〜! 俺って超幸せ者〜!」


 ボルド様は大喜びで料理を食べてくれた。

 こうやって褒めてくれるから、毎日この時間が楽しみになって、ついつい料理にも気合いが入る。


「それにしても、最近は王都からの発注が多いですね」


「もしかしてだけど、そろそろモント様とイザベラ妃の結婚式があるのかもね〜王様の可愛い可愛い一人息子の結婚式だから、ド派手にやるんでしょ。それで警備の強化のために、騎士たちの武器も防具も一新するんじゃない?」

 

 そっか。お二人がご婚約されてから結構経ったし、そろそろ結婚式か。

 当たり前のことなのに何かが引っかかる。

 王太子。一人息子。結婚式⋯⋯


「俺たちも、きっと招待して貰えるだろうし? そのうち答え合わせもできるでしょ」


「王族の結婚式に招待されるなんて、こんな光栄なことはないですね! 楽しみです! とびっきりおめかししなくては!」


「も〜! セイラちゃんは麻袋着てたって、世界一可愛いんだから! あんまりおめかしして目立ったら、逆に失礼だよ?」


 ボルド様は首を傾げながら見つめてくる。


「えーっと、ありがとうございます?」


 麻袋って⋯⋯これはどう反応するのが正解なのか。


「セイラちゃんの一番可愛い姿は、俺だけのものでしょ?」


 ボルド様は甘えるように言った。

 私たちも一年くらい前に、結婚式をしたもんね。


「はい。それはもちろんです」

 

 素直に答えるとボルド様は真剣な表情になった。

 腕を掴まれ、ある場所へと連れて行かれた。



――ポチャン


 あれよあれよと言う間にお風呂場に連れ込まれ、私たちは今、同じ湯船に浸かっている。

 どうしてこんなことに⋯⋯

 なんとかタオルの持ち込みは許可され、身体にぐるぐる巻きつけているものの、当然平常心は保てない。


 幸いなことに、この家のお風呂は少し大きくて、四人くらいなら、余裕で入れそうな広さだから、物理的な距離は離れている。


 縁にもたれて、頭に手ぬぐいを乗せたまま天を仰ぐ旦那様の身体を、チラリと盗み見る。

 

 彫刻みたいに綺麗な身体だな。

 腹筋が六つに割れている。

 いつの間にかガン見してしまっていたのか、彼がこちらを見ていることに気づけなかった。


 目が合った瞬間、ボルド様はこちらに近づいて来た。

 

「失礼しました! 決して、やましい気持ちではなくてですね! 引き締まってるなーと思って、見ていただけで!」

 

「やましい気持ちがないなんて、悲しいこと言わないでよ」


 ボルド様は私の肩に腕を回したかと思ったら、膝の間に座らせ、後ろから抱きしめた。

 肌と肌が触れ合って、とっても心臓に悪い。


「ねぇ、セイラちゃん。どうしてあの時、俺って答えてくれたの? もう一度教えて?」


 耳元で低い声で尋ねられる。

 唇が耳に当たってゾクゾクする。


 あの時と言うのは、私とボルド様が交際に至るきっかけになった出来事だ。

 ある時、モント様、ジェード様、ノワール様、ボルド様の四人の中で、誰がタイプかと尋ねられて、私はボルド様だと答えた。


 彼曰く、それはかなり意外だったそうで、自分が入り込む余地なんて、既にどこにも無いと思い込んでいたのだとか。


「真剣に鉄を打つ熱い眼差しと、逞しい背中に惚れました。あとは、戦闘中に何度も守ってもらって、ときめきました⋯⋯」


 もう顔から火が出て、のぼせそうだ。

 今なら火属性になっている気がする。

 正直に答えたのに沈黙が流れる。


「え? ボルド様?」


 振り返ると、すかさず唇を奪われた。

 強く抱きしめられて、息が止まりそうになる。


「可愛すぎ。もう我慢できない」


 湯船から上がり、ベッドに連れ込まれた。

 私の手を引くボルド様の左手の薬指には、彼が作ってくれたお揃いの指輪が輝いている。


「今夜も燃え上がるような、熱い夜にしようね」


 ボルド様が覆いかぶさってくる。


「はい⋯⋯」


 ドキドキするけど、なんでだろう。

 夫婦である二人が、これから最高のテンションに達しようとしているのに、違和感を覚える。


 恐る恐る、熱源感知と透視のスキルを発動する。


 すると、建物の外から寝室の壁に耳をつける男たちが見えた。


「ボルド様! 曲者です! この部屋は、複数の人間によって盗聴されています! これは犯罪です! 絶対に許しません! いくら出会いが少ないからって、デリカシーがなさ過ぎます!」


「ええ〜! みんな何してんの? あり得ないんだけど! こら! 待て!」


 ボルド様は男たちを捕らえて、説教をしてくれたのだった。

 

 そして今度は黄色い光に包まれた。

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