61.王子様のプロポーズに感動しないわけがない
ここ最近、私とブラン様は、結婚式の準備に大忙しだった。
私たちの結婚式は大きく分けて三つの行程に分けられる。
まず最初は王都にある教会にて行う挙式。
その次に、教会からお城まで移動の際に、国民のみなさまへのご挨拶をするためのパレード。
最後に、お城のホールで行われる、レセプションパーティーだ。
すでに招待客への招待状の送付は完了し、続々と返事が届いている。
貴族や大神殿の関係者、英雄のみなさんなど、国内の要人だけではなく、地底の国トープ王国のオーカー王、天空の国セレスト王国のゼニス陛下、海の国アズール王国のシアン女王までご出席頂けることになった。
この件に関しては、ブラン様の執事たちが対応してくれているそう。
国民への結婚式の日取りの公表も完了している。
挙式の方の進行は、教皇聖下にお任せするとして、レセプションパーティーの進行、演奏曲、料理に引出物、警備の配置まで考えなくてはならない。
それはブラン様が、慣例に従って決めてくれるらしいので、私が頑張らないといけないのは、ドレス選びとダンスの練習だ。
この後、ドレスショップの外商員さんが来てくれて、カタログを見ながら好みのドレスを選び、後日、完成品を試着する流れになっている。
問題なのはダンスだ。
レセプションパーティーでは、ファーストダンスと言って、新郎新婦が招待客に見守られる中、夫婦になってから初めてのダンスを踊るというものがある。
これはパーティーの最初と最後に踊るらしい。
まずは約束の時間になったので、ドレス選びをすることになった。
「セイラ妃殿下は大変お美しいので、どんなドレスでもお似合いになるでしょうね。ですからこれはもう、妃殿下のお好みのドレスをお選びになるのがよろしいかと。慣例ではウエディングドレスが二着と、カラードレスが一着でございますね。カラードレスは、ブラン殿下とお色を揃えて頂きます」
外商員さんは説明してくれた。
「え? ウエディングドレスだけで、二着ですか?」
「はい。ルーナ王妃殿下も、挙式とレセプションパーティーとそれぞれ一着ずつ、お召になっていましたから」
一つ選ぶだけでも大変なのに、白だけで二つも選ぶとは。
気合を入れてカタログを開いたものの、運命のドレスというのは本当に存在するらしく、一目惚れで二着を選ぶことが出来た。
カラードレスは、後日、ブラン様と相談しながら決めることになった。
というわけで、それまでの期間は、徹底的にダンスに打ち込むことになった。
「セイラ様! 肩が上がっていて不格好です。それと、足の向きについて意識することをお忘れですか? 表情が硬いですよ」
指導役は、もちろんセピア様だ。
「ファーストダンスは、通常のダンスとは違い、招待客全員の前で披露するものです。当然、その間は他の皆様は、踊らずにお二人に注目されるわけですから、少しのミスも許されません。ブラン様のお顔に泥を塗らぬよう、くれぐれもお気をつけください」
「はい。もうビシバシ、しごいてください⋯⋯」
全身の筋肉が痛む中、ダンスレッスンは続いた。
そんな日が続いた頃。
夜、ベッドに寝転がり、疲れた筋肉をほぐしていると、ブラン様が来てくれた。
「ブラン様!」
「セイラ、セピアから聞いたぞ。頑張っているそうだな」
ブラン様はベッドに腰かけ、頭を撫でてくれる。
「ドレスはどんなものを選んだんだ?」
「ブラン様、それは内緒のお約束ですから。当日を楽しみにしていてください! と言っても、そんなもったいつけるようなことでも、ないかもしれませんが⋯⋯」
「そうか。どんなドレスだって、君が世界一可愛くて、美しいことには変わりないが、楽しみだ」
ブラン様は私の頬を撫でながら、それはそれは美しいものを見るかのように微笑んだ。
そんな。世界一美しいのはブラン様なのに⋯⋯
「ところでセイラ。私たちはまだ大切な手順を踏めていないんだ。だからというわけではないが、今度、私と一緒に出かけては貰えないだろうか」
「はい。どこへ行くのでしょう?」
「そうだな。二人きりになれる静かな場所がいいだろうな。後はロマンチックな場所でないといけない」
ブラン様は嬉しそうに笑った。
そして迎えたお出かけ当日。
日没の少し前、私とブラン様はパステルの背中に乗せてもらい、西を目指していた。
ブラン様の案内でたどり着いたのは⋯⋯草原だった。
見晴らしのいい、周囲には何一つ見えない原っぱ。
ブラン様は、そこに、レジャーシートのようなものを広げてくれた。
ブラン様に手を支えられて、シートの上に座る。
「最近は夜になると、少し冷えるようになってきたな。寒くないか?」
「はい。大丈夫です。こういうドレスって、結構暖かいみたいです」
「そうか」
ブラン様は安心したように微笑んだ。
二人並んで地平線を眺めていると、日が完全に沈み、辺りは暗くなった。
真っ暗になった空を見上げると、そこには数え切れないほどの星が瞬いていた。
「あんなにたくさん星が見えます! 素敵ですね! ブラン様!」
「この景色を二人で見たかったんだ。待っててごらん。もっと素敵なものが見られるから」
ブラン様はそう言うとシートに横になった。
私を見ながら隣をポンポンと叩いている。
私もそこに横になって、満天の星空を見上げた。
「こうやって見ると、さっきよりも空が近く感じますね。夜空に包みこまれているような、不思議な感覚がします」
そのまま星空を眺めていると、流れ星が一つ流れた。
「あ! 今、流れ星が見えました! あ! 二つも! すごいです!」
一つ目の流れ星が見えたかと思ったら、次々と流れ星が流れていく。
「これだけ流れていたら、願い事も言いそびれないですね!」
顔の前で手を組んで目を閉じる。
私の願いは⋯⋯ブラン様とずっと幸せに暮らせますように。この世界が平和でありますように。
三回繰り返した後、静かに目を開ける。
隣のブラン様を見ると、愛おしそうに見つめられていた。
「願いは叶いそうか?」
「はい。大丈夫そうです」
ブラン様は頷いた後、目線を空に戻した。
「セイラ、見ていてくれ。君のために、今からあの流れ星を捕まえるから」
「え!? そんなことできるんですか!?」
ブラン様は優しい目でチラッと私を見た後、星空に向かって手を伸ばす。
流れ星が手に覆われた瞬間、急いで握った。
「ほら。捕まえた」
「え! ブラン様、すごいです! まさか星を捕まえてしまうとは!」
急いで飛び起きて、握られた手の中身を見せてもらおうと見つめる。
ブラン様は、いたずらが成功した子どもみたいにクスクス笑いながら、ゆっくりと身体を起こして、私の左手を取った。
「これを君に贈りたい」
ブラン様は私の左手の薬指に指輪をはめてくれた。
一瞬冷たい金属の感触がしたあと、ゆっくりと体温に馴染んでいく。
その指輪は、宝石の部分が小さなガラスドームになっていて、中に星のような形の小さな白い花が咲いている。
花の周りには聖属性の魔法だろうか?
黄色く輝く光がキラキラと飛び回っている。
「素敵です⋯⋯」
先ほどのは、ブラン様からのロマンチックな演出のプレゼントだったらしい。
そしてこれが本命のプレゼント⋯⋯
「これがアラバストロ家の婚約指輪なんだ。魔王を討ち取り王都へ帰還した日、なぜ君にこの想いを伝えるのをもったいつけたかというと、これの手配をしたかったんだ」
ブラン様は少し照れたように笑った。
指輪の中に咲いている、星のようなこの花はフランネルフラワーと言って、ブラン様を象徴する花だそう。
花言葉は高潔と誠実。ブラン様にピッタリの花だ。
「王族には一人一人を象徴する花がある。セイラ、君の花は私が選ばせてもらった。男は妻の象徴の花を指輪ではなく、ネックレスにして身につけるんだ」
ブラン様は、身につけていたネックレスを外して見せてくれた。
中に咲いていたのは、ピンク色のチューリップだ。
花の周りには、白い魔法がキラキラと光っている。
「花言葉は『博愛・思いやり』だ」
ブラン様は、ガラスドームを愛おしそうに撫でたあと、ネックレスを首にかけて、服の内側にしまった。
「セイラ」
名前を呼ばれ、両手を握られる。
「愛してる。必ず幸せにする。君のことは俺が一生守る。だからずっと側にいて欲しい。家族になろう。この国の未来を共に創ろう」
ブラン様は、真っ直ぐに目を見ながら言ってくれた。
「ブラン様、ありがとうございます。私もあなたのことを愛しています。ずっと側にいさせてください。あなたを一生支えます」
返事をすると抱きしめられ、優しくキスされた。
「ありがとう。セイラ」
見つめ合う私たちの頭上には、無数の流れ星が流れている。
けれども、目の前の愛しい人から目が離せない。
「セイラ、これからは名前で呼んでくれないか?」
ブラン様は甘えるように言った。
「名前というのは、様づけをしないということでしょうか⋯⋯?」
「そうだ」
ブラン様は期待したような目で私を見ている。
「⋯⋯⋯⋯ブラン」
なんとか声を絞り出す。
恥ずかしさで顔から火が出そうだ。
「もう一度」
「えぇ⋯⋯はい⋯⋯ブラン」
「ありがとう」
ブラン様は、私の頬に手を添えて、親指で唇をなぞった。
「この可愛らしい唇で名前を呼ばれると、こんなにも甘く、胸をくすぐられるんだな」
ブラン様は心底嬉しそうに笑ってくれた。
星空の下、私たちは未来を誓い合い、正式な婚約者となった。
【第二部 王宮ロマンス編 完】
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第三部は再び冒険パートとなります。
英雄たちの愛を、ひしひしと感じられる展開となりますので、どうぞお楽しみください!
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