表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/108

61.王子様のプロポーズに感動しないわけがない

 

 ここ最近、私とブラン様は、結婚式の準備に大忙しだった。

 

 私たちの結婚式は大きく分けて三つの行程に分けられる。

 まず最初は王都にある教会にて行う挙式。

 その次に、教会からお城まで移動の際に、国民のみなさまへのご挨拶をするためのパレード。

 最後に、お城のホールで行われる、レセプションパーティーだ。


 すでに招待客への招待状の送付は完了し、続々と返事が届いている。


 貴族や大神殿の関係者、英雄のみなさんなど、国内の要人だけではなく、地底の国トープ王国のオーカー王、天空の国セレスト王国のゼニス陛下、海の国アズール王国のシアン女王までご出席頂けることになった。

 この件に関しては、ブラン様の執事たちが対応してくれているそう。


 国民への結婚式の日取りの公表も完了している。


 

 挙式の方の進行は、教皇聖下にお任せするとして、レセプションパーティーの進行、演奏曲、料理に引出物、警備の配置まで考えなくてはならない。


 それはブラン様が、慣例に従って決めてくれるらしいので、私が頑張らないといけないのは、ドレス選びとダンスの練習だ。


 この後、ドレスショップの外商員さんが来てくれて、カタログを見ながら好みのドレスを選び、後日、完成品を試着する流れになっている。


 問題なのはダンスだ。

 レセプションパーティーでは、ファーストダンスと言って、新郎新婦が招待客に見守られる中、夫婦になってから初めてのダンスを踊るというものがある。

 これはパーティーの最初と最後に踊るらしい。

 


 まずは約束の時間になったので、ドレス選びをすることになった。


「セイラ妃殿下は大変お美しいので、どんなドレスでもお似合いになるでしょうね。ですからこれはもう、妃殿下のお好みのドレスをお選びになるのがよろしいかと。慣例ではウエディングドレスが二着と、カラードレスが一着でございますね。カラードレスは、ブラン殿下とお色を揃えて頂きます」


 外商員さんは説明してくれた。


「え? ウエディングドレスだけで、二着ですか?」


「はい。ルーナ王妃殿下も、挙式とレセプションパーティーとそれぞれ一着ずつ、お召になっていましたから」


 一つ選ぶだけでも大変なのに、白だけで二つも選ぶとは。


 気合を入れてカタログを開いたものの、運命のドレスというのは本当に存在するらしく、一目惚れで二着を選ぶことが出来た。

 カラードレスは、後日、ブラン様と相談しながら決めることになった。


 

 というわけで、それまでの期間は、徹底的にダンスに打ち込むことになった。


「セイラ様! 肩が上がっていて不格好です。それと、足の向きについて意識することをお忘れですか? 表情が硬いですよ」


 指導役は、もちろんセピア様だ。


「ファーストダンスは、通常のダンスとは違い、招待客全員の前で披露するものです。当然、その間は他の皆様は、踊らずにお二人に注目されるわけですから、少しのミスも許されません。ブラン様のお顔に泥を塗らぬよう、くれぐれもお気をつけください」


「はい。もうビシバシ、しごいてください⋯⋯」


 全身の筋肉が痛む中、ダンスレッスンは続いた。



 そんな日が続いた頃。

 夜、ベッドに寝転がり、疲れた筋肉をほぐしていると、ブラン様が来てくれた。


「ブラン様!」

「セイラ、セピアから聞いたぞ。頑張っているそうだな」


 ブラン様はベッドに腰かけ、頭を撫でてくれる。


「ドレスはどんなものを選んだんだ?」


「ブラン様、それは内緒のお約束ですから。当日を楽しみにしていてください! と言っても、そんなもったいつけるようなことでも、ないかもしれませんが⋯⋯」 


「そうか。どんなドレスだって、君が世界一可愛くて、美しいことには変わりないが、楽しみだ」


 ブラン様は私の頬を撫でながら、それはそれは美しいものを見るかのように微笑んだ。

 そんな。世界一美しいのはブラン様なのに⋯⋯


「ところでセイラ。私たちはまだ大切な手順を踏めていないんだ。だからというわけではないが、今度、私と一緒に出かけては貰えないだろうか」


「はい。どこへ行くのでしょう?」


「そうだな。二人きりになれる静かな場所がいいだろうな。後はロマンチックな場所でないといけない」


 ブラン様は嬉しそうに笑った。


 

 そして迎えたお出かけ当日。

 日没の少し前、私とブラン様はパステルの背中に乗せてもらい、西を目指していた。

 ブラン様の案内でたどり着いたのは⋯⋯草原だった。

 見晴らしのいい、周囲には何一つ見えない原っぱ。

 ブラン様は、そこに、レジャーシートのようなものを広げてくれた。 

 ブラン様に手を支えられて、シートの上に座る。

 

「最近は夜になると、少し冷えるようになってきたな。寒くないか?」


「はい。大丈夫です。こういうドレスって、結構暖かいみたいです」


「そうか」


 ブラン様は安心したように微笑んだ。

 

 

 二人並んで地平線を眺めていると、日が完全に沈み、辺りは暗くなった。

 真っ暗になった空を見上げると、そこには数え切れないほどの星が瞬いていた。


「あんなにたくさん星が見えます! 素敵ですね! ブラン様!」


「この景色を二人で見たかったんだ。待っててごらん。もっと素敵なものが見られるから」


 ブラン様はそう言うとシートに横になった。

 私を見ながら隣をポンポンと叩いている。

 私もそこに横になって、満天の星空を見上げた。


「こうやって見ると、さっきよりも空が近く感じますね。夜空に包みこまれているような、不思議な感覚がします」


 そのまま星空を眺めていると、流れ星が一つ流れた。


「あ! 今、流れ星が見えました! あ! 二つも! すごいです!」

 

 一つ目の流れ星が見えたかと思ったら、次々と流れ星が流れていく。


「これだけ流れていたら、願い事も言いそびれないですね!」


 顔の前で手を組んで目を閉じる。

 私の願いは⋯⋯ブラン様とずっと幸せに暮らせますように。この世界が平和でありますように。


 三回繰り返した後、静かに目を開ける。

 隣のブラン様を見ると、愛おしそうに見つめられていた。


「願いは叶いそうか?」

「はい。大丈夫そうです」


 ブラン様は頷いた後、目線を空に戻した。


「セイラ、見ていてくれ。君のために、今からあの流れ星を捕まえるから」


「え!? そんなことできるんですか!?」


 ブラン様は優しい目でチラッと私を見た後、星空に向かって手を伸ばす。

 流れ星が手に覆われた瞬間、急いで握った。


「ほら。捕まえた」


「え! ブラン様、すごいです! まさか星を捕まえてしまうとは!」


 急いで飛び起きて、握られた手の中身を見せてもらおうと見つめる。


 ブラン様は、いたずらが成功した子どもみたいにクスクス笑いながら、ゆっくりと身体を起こして、私の左手を取った。


「これを君に贈りたい」

 

 ブラン様は私の左手の薬指に指輪をはめてくれた。

 一瞬冷たい金属の感触がしたあと、ゆっくりと体温に馴染んでいく。

 

 その指輪は、宝石の部分が小さなガラスドームになっていて、中に星のような形の小さな白い花が咲いている。

 花の周りには聖属性の魔法だろうか?

 黄色く輝く光がキラキラと飛び回っている。

 

「素敵です⋯⋯」

 

 先ほどのは、ブラン様からのロマンチックな演出のプレゼントだったらしい。

 そしてこれが本命のプレゼント⋯⋯


「これがアラバストロ家の婚約指輪なんだ。魔王を討ち取り王都へ帰還した日、なぜ君にこの想いを伝えるのをもったいつけたかというと、これの手配をしたかったんだ」


 ブラン様は少し照れたように笑った。

 指輪の中に咲いている、星のようなこの花はフランネルフラワーと言って、ブラン様を象徴する花だそう。

 花言葉は高潔と誠実。ブラン様にピッタリの花だ。


「王族には一人一人を象徴する花がある。セイラ、君の花は私が選ばせてもらった。男は妻の象徴の花を指輪ではなく、ネックレスにして身につけるんだ」


 ブラン様は、身につけていたネックレスを外して見せてくれた。

 中に咲いていたのは、ピンク色のチューリップだ。

 花の周りには、白い魔法がキラキラと光っている。


「花言葉は『博愛・思いやり』だ」


 ブラン様は、ガラスドームを愛おしそうに撫でたあと、ネックレスを首にかけて、服の内側にしまった。

 

「セイラ」


 名前を呼ばれ、両手を握られる。

 

「愛してる。必ず幸せにする。君のことは俺が一生守る。だからずっと側にいて欲しい。家族になろう。この国の未来を共に創ろう」


 ブラン様は、真っ直ぐに目を見ながら言ってくれた。


「ブラン様、ありがとうございます。私もあなたのことを愛しています。ずっと側にいさせてください。あなたを一生支えます」

 

 返事をすると抱きしめられ、優しくキスされた。

 

「ありがとう。セイラ」


 見つめ合う私たちの頭上には、無数の流れ星が流れている。

 けれども、目の前の愛しい人から目が離せない。

 

「セイラ、これからは名前で呼んでくれないか?」


 ブラン様は甘えるように言った。


「名前というのは、様づけをしないということでしょうか⋯⋯?」

「そうだ」


 ブラン様は期待したような目で私を見ている。


「⋯⋯⋯⋯ブラン」

 

 なんとか声を絞り出す。

 恥ずかしさで顔から火が出そうだ。

 

「もう一度」

「えぇ⋯⋯はい⋯⋯ブラン」

「ありがとう」

 

 ブラン様は、私の頬に手を添えて、親指で唇をなぞった。


「この可愛らしい唇で名前を呼ばれると、こんなにも甘く、胸をくすぐられるんだな」


 ブラン様は心底嬉しそうに笑ってくれた。

 

 星空の下、私たちは未来を誓い合い、正式な婚約者となった。



 

 【第二部 王宮ロマンス編 完】




ここまでお読み頂きありがとうございます!

ぜひ、評価、ご感想、レビュー、リアクション(下↓の『☻+』のボタン)等を頂けると、とっても嬉しいです!


第三部は再び冒険パートとなります。

英雄たちの愛を、ひしひしと感じられる展開となりますので、どうぞお楽しみください!


ぜひ『ブックマークに追加』&『更新通知ON』で、お願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ