49.英雄たちの凱旋パレードが華やかじゃないわけがない
二週間後。
いよいよ凱旋パレードの日がやって来た。
今日のパレードは、王都の大通りをぐるりと一周まわるもので、私たちは屋根のない馬車に乗って、人々に手を振ると聞いた。
ブラン様たち王族も、建国記念日にはパレードをしているそうだけど、残念ながら私は見たことが無いので、イメージがつかないまま、ぶっつけ本番だ。
この日のために城下町には、国旗が飾られ、お店は気合いを入れて開店準備をしているそう。
こんなイベントは数百年に一度だからと、他の街の人も見に来ると言うのだから、緊張してくる。
私はと言うと、いつもの盗賊の服装ではなく、騎士団の正装に似た、アイボリーのショート丈のジャケットに同色のシャツとズボンと黒いブーツを着用している。
マロンさんたちメイドのみなさんからは、フリフリの可愛いドレスも勧められたけど、なんとなく気が進まず、パンツスタイルを選んだ。
襟回りなんかに金色の装飾が、さりげ無く入っているのが気に入った。
髪は後ろの低い位置でまとめ髪にしてもらって、上品で華やかな雰囲気だ。
城内の広場で馬車に乗り、スタートするとのことで、騎士に案内された場所で待機する。
みなさんはまだ来ていないみたい。
代わりにというか、四人ほど見知らぬイケメンがいて、談笑している。
その内の一人と目が合ったので、軽く会釈する。
「お前さぁ。久しぶりの再会だってのに、ずいぶんと他人行儀だよな」
それは、聞き慣れた声だった。
「え? ジェード様?」
声も話し方も確かにジェード様だ。
しかし、今、私の目の前にいるのは、神秘的なイケメンのエルフ。
前髪を上げ、ライムグリーンのジャケットとズボンを着用し、胸元にはフリフリのクラバットを巻いている。
いつもの魔法使いのローブ姿とは、大きく印象が異なる。
「え? 王子様? ジェード様? どちら様ですか?」
目と耳からの情報と、脳内の記憶が結びつかず、エラーを起こす。
「はぁ? 呆けてんのか?」
どうやらこのお方は、間違いなくジェード様らしい。
「ええ!? それに、ノワール様とボルド様とセルリアン様? いやいや、ノワール様とセルリアン様を最初に見つけていたら、まだ気づいた可能性がありますが、ボルド様も、どこのイケメン貴公子かと思いました!」
ノワール様は前髪を上げて、ブラックの正装を着ていて、ボルド様は髪のハネを押さえて七三分けにし、暗赤色の正装を、セルリアン様は前髪にウェーブを当てて横に流し、アイスブルーの正装を着ている。
これは完全に別人だ⋯⋯
「セイラちゃん、それって褒め言葉だよね〜?」
「そりゃもう褒め言葉ですよ!」
「セイラちゃんも、いつもと印象が違う。それはそれで可愛い」
「今日の装いは品がありながら、君らしさもある。悪くない」
ノワール様とセルリアン様は褒めてくれた。
五人で談笑していると今日の主役がやって来た。
「皆、待たせた。再び招集に応じてくれてありがとう」
笑顔で手を振りながら、こちらに歩いてくるブラン様。
その姿は初めて会った時と同じ、金髪金眼の麗しい王子様だった。
同じ正装でも格が違う。眩しいくらい真っ白で、装飾も煌びやかで神々しい⋯⋯
ブラン様と会うのは、パステルに乗って王都に帰って来たあの日以来。
きっとナーダ様に関する報告や、何ヶ月も留守にしていた分のお仕事なんかで、忙しかったんだろうな。
「では、行こう。国民の皆が待っている」
馬車に乗り込む際には、ブラン様がエスコートしてくれた。
差し出された手の上に、自分の手を乗せた瞬間、少しだけ力を入れてぎゅっと握られた。
ブラン様の顔を見上げると、何故だろう。一瞬悲しげに見えた。
パレードの先頭を務めるのは、なんとアッシュ様だった。
こちらに一礼した後、慣れた様子で馬の背にまたがる。
定刻となり、パレードの始まりを告げるファンファーレが鳴り響いた。
騎士たちで構成された楽団が、ラッパや横笛、太鼓など様々な楽器を奏でる。
それを合図に先頭のアッシュ様が右手を前にかざした。
すると手元から、パチパチと火花を散らす黄色い光が現れる。
光の玉が徐々に大きくなっていき、アッシュ様がその手を天に向けると、花火のように打ち上がり、空で美しく花開いた。
「すごい! 素敵です!」
アッシュ様は花火を打ち上げた後、馬を進めた。
続いてゆっくりと私たちを乗せた馬車も動き出す。
大通りの両端には人々が、ところ狭しと並んでいる。
手に持った国旗を振りながら、笑顔で声をかけてくれる。
「この国を守って頂きありがとうございました〜!」
「かっこいいな! ボクも大きくなったら英雄になる!」
「これで家族みんなで、平和に暮らせます」
お年寄りから小さな子供まで、たくさんの人が喜んでくれている。
嬉しいな。
私たちの努力は報われたんだ。
街の人からの声援に、私たちも笑顔で手を振り返して応えた。
「こういうのいいね〜」
「やりきったって感じがすんな」
ボルド様とジェード様も嬉しそうにしている。
「よし! んじゃあ、もういっちょやってやっか! 今、この世に一人しか存在しない、伝説級魔法使い様の魔法だ!」
ジェード様は気合いを入れると、進行方向の斜め上に向かって手をかざす。
すると、色とりどりの花びらが勢いよく吹き出した。
「すごいです! フラワーシャワーみたいです!」
街の人々からも大きな歓声が上がる。
杖が無くてもこんなにすごい量の花を出せるとは、さすが伝説級魔法使い。
「ジェード、それを絶対に僕に向けるなよ」
セルリアン様は縮み上がっている。
そっか、木属性はセルリアン様の弱点だから。
ジェード様は街の人にも当たらないように、正面に向かって撃ったらしい。
アッシュ様は聖属性だから、万が一当たっても大丈夫と。
「じゃあ、俺も〜」
今度はボルド様が指を銃のようにして構えた。
するとクラッカーのような音がなって、ボルド様の人差し指から火花が散った。
「ええ! そんなの出来たんですか!? ちょっとうらやましいです!」
「おい! あっち向いてやれよ!」
ジェード様は、笑顔のボルド様に人差し指を向けられて、怒っている。
「ならば僕も何かした方がいいだろう」
セルリアン様が精霊たちと交信し始めると、綺麗な水色の球体が馬車の周りに集まって来た。
それだけでも十分綺麗だけど、セルリアン様の合図で、精霊たちが細かい水しぶきを吹き上げる。
シャボン玉を作って飛ばしている精霊もいて、まるで夏の遊園地のショーみたいだ。
セルリアン様にもらったブレスレットに反応しているのか、精霊たちが私の周りにも遊びに来てくれる。
「きれいですね!」
「うわ〜! 怖い怖い!」
今度はボルド様が慌てていた。
この三属性は、なかなか共存が難しいみたいだ。
「俺も何かしたい」
ノワール様は真剣な表情で考え込んでいる。
闇の塊を投げるつもりなら、今度は私が逃げる番だ。
「みんなとは、ちょっと違うけど」
ノワール様が使った魔法は能力上昇魔法だった。
私たち六人の身体が黒く光り出す。
「おお! これなら遠くからでも、よく目立ちますね!」
みなさんサービス精神旺盛みたいだ。
私もロマンチックな技があればいいのに。
ブラン様は、そんなみなさんの様子を嬉しそうに眺めていた。
楽しいパレードはあっという間に終わり、夜からの祝賀会で再び運命が動き出すことになる。