48.愛弟子の無事の帰還に涙しないわけがない
王都に無事に帰還した私は、王宮内の新たな部屋へと案内された。
案内された部屋は、最初に与えられた客室と同じくらい広くて、とにかくゴージャス。
天井や壁紙、カーテンやカーペットの色は白地に金色の柄で統一されていている。
部屋の中央の窓際には、ダブルベッドが置いてあって、見るからにフカフカだ。
食事用のテーブルや書き物机、ドレッサーもある。
客室と違うのは、クローゼットなどの収納が充実している所と、プライベートなお風呂が付いている所。
ここで新生活を送るんだ⋯⋯
――コンコン
「はーい!」
ノックの音に返事をする。
入って来たのは⋯⋯
「マロンさん!」
「セイラ様! よくぞご無事で!」
出発前にもお世話になっていた、メイドのマロンさんだ。
ありがたいことに、これからも私のお世話を担当してもらえることになった。
駆け寄って抱き合う。
「長旅お疲れ様でした。なんだかより一層、凛々しくなられて⋯⋯」
マロンさんは背中をポンポンしてくれた。
しばらくお互いの近況報告をしたところで、次の仕事があるからと、マロンさんは部屋を出ていった。
懐かしい顔を見ると、帰って来たっていう実感が湧くな⋯⋯
ブラン様も今頃、大泣きしている陛下と抱き合ってたりして。
モント王太子殿下とも面会できているといいな。
騒ぎになってないということは、病状は変わりなしなのかな。
ナーダ様の影響はもうないはずだけど。
――コンコン
考え事をしている途中、再び聞こえたノックの音。
噂をすればブラン様?
入って来たのは⋯⋯アッシュ様だ。
「アッシュ様! 無事に戻りました! 後でご挨拶に伺おうと思ってたんです!」
師匠の登場に、ハイタッチでもしようかと飛び上がったのに、アッシュ様はそれを躱すかのように、ひざまずいた。
「セイラ様。無事のご帰還、何よりです」
仰々しく私の手を取り、甲にキスをする。
「え〜! いくら私が出世したからって、これからは、そんな調子になっちゃうんですか? ブラン様はともかく、他の四人にも? 嫌ですよ、私は元通りでお願いします!」
アッシュ様は騎士だから、国の要人になった私に対して、態度を改めてしまったんだろうか。
じっと反応を見守っていると、彼は、おもむろに目頭を押さえ始める。
「あれ? もしかして、また泣いてます? ちょっと私も今、涙腺が緩いんで、つられちゃうんですけど⋯⋯」
アッシュ様が私のために泣いてくれている。
このお方は、私がこの世界に来た直後、陛下の前で無実を証明してくれて、稽古をつけてくれて、ペンダントをくれて、旅の途中にも手紙や飴を送ってくれて⋯⋯
いったい、どれだけ支えられてきたことか。
無事に帰って来てくれれば、それ以外は何もいらないなんて言って貰えて、その言葉にどれだけ勇気づけられたか。
「セイラ、無事に帰って来てくれてありがとう」
ガバリと抱きしめられ、感動の再会となった。
「忙しい中、よくマメに手紙を送ってくれたな。セイラからの手紙が、日々待ち遠しかった。いつもありがたく読ませてもらっていた」
「アッシュ様こそ! お返事も下さってありがとうございました! あと、涼しくなる飴も重宝しました! それからそれから⋯⋯」
いったい何から話していいのやら。
積もる話がありすぎて混乱する。
「あ! 何よりこのペンダントですよ! 魔王との戦いで、これに命を救われました! 本当にありがとうございました!」
ナーダ様の事は私の口からは言わずに、ペンダントが私を助けてくれたシーンの話を伝えた。
「そうか。それなら良かった」
アッシュ様は大きな手で頭を撫でてくれる。
「彼らは良くしてくれたか?」
「はい! みなさん初対面では、なかなかクセが強くてびっくりしましたけど、仲良くなれたと思います! アッシュ様がみなさんに、私と仲良くするよう頼んでくださってたからですね!」
今回の旅のパーティーメンバーは、可愛いもの好きの王子様、口の悪いエルフ、お色気担当の神官、ノリが軽い重戦士、女性恐怖症の精霊術師⋯⋯
みなさんキャラがなかなか濃いから、感動屋のアッシュ様が、ある意味一番普通にも見える。
それからも時間が許す限り、お茶を飲みながら旅の思い出話をした。
アッシュ様は私の話を興味深そうに聞いてくれた。
持ち場に戻る時間が近づいて来たと言うことで、アッシュ様は立ち上がった。
部屋の出口まで見送る。
「これからは、セイラの事は俺が守る」
アッシュ様はそう言い残して立ち去って言った。
あまりにも頼もしい様子に、一瞬ドキッとしてしまったけど、騎士として師匠としてってことだよね。
久しぶりにアッシュ様と話せて良かったな。
明日はセピア様にも挨拶しに行こう。
こうして長い一日が終わった。
翌日、パレードと祝賀会の日取りが、二週間後に決まったとの連絡があった。
他の四人には手紙が送られ、王宮から迎えの馬車が行くらしい。
パレードや祝賀会では、たくさんの笑顔が見れたら良いな。
この時の私は浮足立っていた。
すっかり頭から抜け落ちていた、聖の女神ルーチェ様からの試練が、既に水面下では始まっていたことにも全く気づかずに。