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47.旅の終わりに涙しないわけがない


 ナーダ様が天に昇っていくのを、私たちは最後まで見守った。


「終わったのか?」

「皆、ありがとう。ご苦労だった」

「ふぅ〜みんな、お疲れ様!」


 口々に互いを労う言葉が飛び交う。

 それにしても本当に疲れた。


 けど、全員が生きたまま、この役目を終えることができてよかった。

 体力も気力も限界だった私たちは、リヴィエーラに戻り、各自休んだ。


 

 翌日。

 私たち六人はセルリアン様のお部屋で、お疲れ会をしていた。


 ちなみに、この後の予定は、それぞれ一旦、各街の自宅に戻り、王都での凱旋パレード及び祝賀会の準備が整い次第、再び集結するという流れになっている。


 私たち六人は今回の経験を経て、全員の等級が『伝説級』という未知の等級に昇格した。

 

 魔王討伐という偉業を成し遂げ、王都でも、そこらの街でも、英雄扱いは間違いないそう。


 これから騒ぎになる前に、まずは六人だけでお祝いをしようという話になり、現在に至る。

 


 目の前にずらりと並んでいるのは、セルリアン様と精霊たちの手料理。

 ベーコンやトマトが乗ったピザ、アスパラと鶏肉のレモンクリームスパゲッティ、緑黄色野菜の蒸し料理、そして⋯⋯水玉模様のキノコ。

 

「このキノコは本当にハバタケで合ってますか?」


 クライムでの事件の記憶がよみがえる。


「湿原で採れた新鮮なハバタケだ。それ以外に何があると言うんだ」

 

 セルリアン様は不思議そうな顔で私を見た。


「失礼しました! セルリアン様が言うなら間違いありませんね! いただきます!」


 ちょっと怖いのが本音だけど、もう役目も終わったし、気楽な気持ちで食べることにした。


「美味しい! どれもすごく美味しいです! セルリアン様は料理がお上手なんですね!」


「水にこだわれば、これくらい誰でも作れる。興味があればレシピを授けよう」


「良いんですか! ぜひお願いします!」


 私が答えると、セルリアン様は照れたように頷いた。


 

「それにしても、まさか神様が六柱だったなんてね〜」


 ボルド様はノワール様に話を振った。


「そのことについて、どう公表する? 魔王の正体が忘れ去られた女神様だったなんて、国民の混乱は避けられないと思う」


 ノワール様はブラン様の意見を聞いた。


「最終的には、父上と教皇が判断を下されるだろうが、魔王の正体は伏せて、ナーダ様の存在を公表することになるのだろうか⋯⋯」


「ではいずれ、イーリスの広場に、ナーダ様の石像も建つことになりますね」


 ナーダ様の存在が国民に周知されて、報われる日が来ればいいな。



「それにしても、どうしてセイラは、魔王がナーダ様だって、あの段階でわかったんだ? 操られてる時になんか言われたのか?」


 ジェード様に尋ねられる。


「そうですね⋯⋯会話の内容もそうですし、元々シンボルが六芒星なのが、ずっと引っかかっていたんですよね」


 初めてアッシュ様からペンダントを頂いた時、神話の時代からの印だと聞いた。

 そのあと、ブラン様から祝福を受けた時に、違和感があったんだよね。

 それはどうしてかと考えてみる⋯⋯


「分かりました! おそらく魔法少女です! 私のいた世界では、十代前半くらいの女の子が複数人でチームを組んで、悪と戦うという物語が流行っていてですね。だいたい一人一人にイメージカラーがあって、服装から武器まで、その色の物を身につけるんです。そして、みんなで力を合わせようという展開になると、それぞれの色が混ざり合うような演出が入るんですよ! だから六芒星で宝石も六つなのに、神様は五柱?って思ったんだと思います!」  


「そっか。セイラの世界では、ガキの魔法使いも戦ってんだな」

「いたいけな子どもたちが悪に立ち向かう⋯⋯そこに救いはあるのだろうか?」


 物語だと言っているのに、ジェード様とブラン様は、少し酔いが回っているみたいだ。

 

 ちなみにセルリアン様は、お酒を飲まないそうなので、今は残りの五人でブドウ酒を頂いている。

 そして、お酒と言えば⋯⋯


「ボルド様とセルリアン様は、ノワール様の秘密をご存知ですか?」


「え〜! なにそれ〜!? ちょっと刺激的な秘密?」

「低俗な会話なら僕は参加しない」


「刺激的ですけど、低俗ではないと思いますよ。ね? ノワール様?」


 いい感じに出来上がってきたノワール様に、話しかける。


「神に選ばれた俺たちに、不可能はない」


 来た〜! 心の中でガッツポーズをする。

 ノワール様は大真面目な顔で発言している。


「そうですね! それからそれから?」


「今から俺たちが見るのは、その道を極め、上り詰めた者だけが見られる景色。新たな歴史の向こう側」


 なんとか笑いを堪えながら、ボルド様とセルリアン様を見る。


「マジで? 最高じゃん! 毎日飲まそ〜!」

「彼の新たな一面を見られるとは。悪くないな」


 二人は温かい目でノワール様を見守っていた。



 そして翌日。

 セルリアン様とは一度ここで別れて、ノワール様はボルド様とバーミリオンに、ジェード様はブラン様と私とパステルに乗ってそれぞれ帰宅する。


 またすぐ会えるのに、ちょっと寂しいな。


「では皆、一連の行事については確認が取れ次第、すぐに知らせを送る。本当にありがとう」


 ブラン様はみなさんに頭を下げた。


「王都では派手なお祝いを期待してるからね〜」

「じゃあ、またね」


 笑顔の二人を乗せたバーミリオンは、飛び立って行った。


「では、私たちも行きましょうか。セルリアン様、ありがとうございました!」


「セイラ君、少し待ってくれ」


 セルリアン様は懐から何かを取り出した。


「これを君に」


 それはセルリアン様が持っている数珠と同じ宝石が一粒、銀色のチェーンに通された物だった。

 セルリアン様は、私の右手に、そのブレスレットをつけてくれた。


「君には、あのクマたち以外の精霊と交信する力は無いだろう。しかし、その石を持っていれば、僕と契約している精霊たちが、きっと良くしてくれるはずだ。王都に住む精霊たちもいる。これからの君の役に立てばと思う」


 セルリアン様は、はにかんだ様な笑顔で手を差し出してくれた。


「ありがとうございます。セルリアン様」


 私も笑顔で、その手を握り返した。



「セイラさん! ありがとうございました〜!」

「お元気で〜! 本当にありがとうございました〜!」


 スマルトくんとマリンちゃんにも見送ってもらい、秘境リヴィエーラを後にした。



 ヴェールの森に寄って、ジェード様と別れる。


 グランアルブを見るのも、久しぶりな気がする。

 ここで初めてジェード様と出会って、一緒に旅をして⋯⋯

 このお方とは特に長く一緒にいたから、ちょっと涙腺が⋯⋯


「おい⋯⋯泣くなよ。ひと月もしない内に、また会えるだろ? な?」


 ジェード様は私の肩をポンポンと叩いてくれた。

 けど、そんなジェード様の表情も、どこか寂しそうに見える。


「そうですよね。なんだか色々と想いが溢れてしまいまして⋯⋯あぁ、旅が終わったんだなと実感します⋯⋯でも、また会えますもんね!」


 涙を適当に手で拭って、笑顔でジェード様と握手を交わした。


 

 ブラン様と共にパステルに乗り、王都へ戻る。

 懐かしいライズの街が見える。

 この道をラセットに引いてもらう馬車に乗って、二人きりで旅をして⋯⋯

 

「ようやく肩の荷が下りた思いだが、旅の終わりも切ないものだな」

 

 ブラン様は安心したような、それでいて寂しそうな表情をしている。


「本当にそうですね。寂しいですけど、この思い出は宝物です。それに、これからの王都での暮らしも、きっと楽しいものになりますよね」


 これからも私は、王宮に住まわせてもらえることになっている。

 それは私に限ったことではなく、他の四人も含めて王国の要人として、王宮への居住権を与えられた。

 その代わり、これから、次世代の教育や防衛など、王国の発展と平和のために尽くすことになる。

 住み込みの使用人の最上級みたいなイメージだ。



 いよいよ旅の終着点である王都が近づいて来た。

 空から見るお城と城下町は、どの街よりも煌びやかだ。


 今日、空から見てきたのは、私たちが守った世界⋯⋯



「セイラ、君に伝えたいことがあると言ったのを覚えているか? 王宮に戻れば、今まで通りとは行かなくなるだろうが、必ず時間を見つけて会いに行く。その時に俺の想いを聞いて欲しい」


 ブラン様は真剣な表情で言った。


「はい。お待ちしてます」


 ブラン様の想い⋯⋯

 私のことをどう思ってくれているのか、目を見て言ってもらえるって、そう期待していいのかな。



 お城に近づくと騎士団がずらりと整列しているのが見えた。

 ブラン様の指示で、パステルには、お城の前に着陸してもらう。

 パステルから下りると、騎士たちは一斉にひざまずいた。


 国王陛下と王妃殿下がお城から現れ、出迎えてくださる。

 私とブラン様も両陛下の前にひざまずく。


「ブラン、セイラ、大儀であった」


 陛下は私たちを労ってくださった。

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