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45/108

45.裏切り者を信じる人なんているわけがない


 魔王城の二階に上がった私たちは、二択を迫られていた。


「本来なら優先すべきは結界だろう。しかし、明らかにこの先の大部屋からは、尋常じゃない瘴気が溢れ出ている」


 セルリアン様は瘴気を浄化しながら言った。


「この大部屋の反応は、魔物とも違いますし、熱源感知も反応しません。なんとも判断し辛い所です。この部屋とは別の中サイズの部屋には、明らかに魔物の反応があります」


「先に中サイズの部屋の魔物を討伐してから、大部屋に挑むのが安全策か⋯⋯」


 ブラン様は考え込んでいる。


 私がよく遊んでいたファンタジーRPGでは、中ボスを無視してラスボスに挑むと、中ボスが乱入してきて、攻略が難しくなるのが定番だったけど⋯⋯


「皆はどう思う? 多数決で決めたい」


 結果、全員の意見が一致し、先に中サイズの部屋に行くことに決まった。



 その部屋は天井が高い書物庫だった。

 扉を開けると、ホコリと古い本の臭いが漂ってくる。

 あと異様なのは、尋常じゃない数と大きさの蜘蛛の巣が張っていること。

 

 耳を澄ませていると、カサコソと不快な音が聞こえてくる。


 恐る恐る、天井を見上げると⋯⋯アラクネがいた。


 上半身は人間の女性の姿で、下半身は蜘蛛の形をしている。

 黒色の長い髪に、セアカゴケグモのような黒くて細長い脚⋯⋯⋯⋯


「出たー!! 怖すぎますー!!」


 大慌てで飛び退いて、距離を取る。


「どうして女体の魔物ばかりなんだ!⋯⋯⋯⋯しかし、意外と大丈夫かもしれない。それは、やはり奴らが魔物だからか⋯⋯」

「セルリアンは、好みの女の子にしか、過剰反応しないんじゃないかな〜」

 

 これから戦闘が始まると言うのに、セルリアン様とボルド様は、なんとも間の抜けた会話をしている。


 アラクネは、部屋中に張り巡らされた蜘蛛の巣を、ものすごい速さで這い回る。

 お尻から糸を出して、こちらに飛ばしてくる。

 盗賊の私は避けられるけど⋯⋯


「うわぁ! 踏んじまった! 動けない!」

 

 ジェード様の脚に、ネバネバの糸が絡まってしまった。

 すぐにブラン様がフォローに回る。



 アラクネは、今度はノワール様とセルリアン様の方へ向かった。

 まずい。後衛職ばっかり狙ってる。


「お〜い! こっちだ〜!」


 ボルド様が注目のスキルを使ってくれた。

 とは言え、ボルド様は、この中で一番移動速度が遅いから、盾で攻撃を防いでいるけど、糸の量が多すぎて動きが封じられつつある。


 ブラン様は、引き続きジェード様を救出しようとしてる。

 ノワール様も、ボルド様をフォローするために魔法攻撃をしている。

 セルリアン様は、ここでは温存しないといけない。

 となると、私が⋯⋯


――パン

「わあ〜っ!」

 

 急いでアラクネに近づいた私は、顔の前で手を叩き大声を出す。

 あまり使ったことがない、騙し討ちのスキルだ。

 アラクネは一瞬(ひる)んだあと、ターゲットを私に切り替えた。

 

 このまま私が引きつけて、走り続ければ、みなさんが攻撃してくれるはず。

 

 そうこうしている内に、ブラン様のおかげでジェード様が解放された。

 ブラン様が斬撃を、ジェード様が木の葉のブーメランを飛ばして、部屋中に張り巡らされた蜘蛛の糸を切る。


 徐々にアラクネは足場を無くす。

 

「キィヤァー!」


 追い詰められたアラクネは、突然奇声を上げた。

 すると、アラクネのお腹の中から、小さい蜘蛛が大量に出てきた。


「いやー! ムリムリ! ムリムリ〜!」


 目の前の恐ろしい光景に、身体が拒絶反応を起こす。


 しかし、そんなことは言ってられない。

 気合を入れて、アラクネ本体の注意を引きながら、なんとか逃げ回る。

 その隙にボルド様は大剣を振り、ノワール様は攻撃魔法を使い、子蜘蛛を倒していく。


 子蜘蛛を倒しきったら、全員でアラクネを叩いて終わりのはずだ。


 しかし、先ほどのラミア戦での疲労もあったのか、とうとう私の移動速度も落ちてきた。

 糸が腕に絡まり、捕らえられてしまう。


 アラクネは口を大きく開けると、鋭い牙を見せた。

 あれに噛まれたら毒を入れられてしまう。

 もうだめだ、間に合わない⋯⋯



――キィン


 突然、真一文字に光が走り、アラクネの体が真っ二つに分かれた。

 横からふわっと抱きかかえられる。

 これはお姫様抱っこだ。 


「セイラ、怪我はないか? よくここまで耐えてくれたな」

 

 ブラン様は私の顔を見て、安堵(あんど)したようにため息をついた。

  

「大丈夫です。助かりました⋯⋯」

 

 あぁ、怖かった。

 そっと床に下ろされると、一気に緊張が緩んで腰が抜ける。

 ブラン様は優しく背中を撫でてくれた。


「ごめんね、セイラちゃん! ずっとヘイトを買ってもらっちゃって!」

 

 ボルド様は両手を顔の前で合わせる。

 そんな彼も、糸まみれでボロボロに見える。


「猛毒だったら回復も間に合わないかと思って焦った」


 ノワール様は私に近づいて、回復魔法をかけてくれた。

 消耗していた体力がぐんぐん回復していく。

 これなら次の大部屋でも動けそう。

 

「ありがとうございます」


 お礼を言って立ち上がろうとすると、再び不思議な声が聞こえてきた。

 

「あなたばっかり⋯⋯ずるい⋯⋯私だって⋯⋯愛されたい⋯⋯」


 まただ。やっぱり勘違いじゃない。

 はっきりと聞こえる。誰の声だろう。

 

「欲しい⋯⋯代わって⋯⋯私に⋯⋯頂戴⋯⋯」



 言葉の意味が理解出来たと同時に、身体の自由が奪われた。

 手が勝手に、腰に収めてある短剣へと伸びていく。


 何をするつもり? みんなを傷つけるの?

 逃げてと言いたいのに、声も封じられている。

 

 そしてあろうことか、私は、背中を擦ってくれているブラン様に斬りかかってしまった。

 彼の左脚に毒が入る。

 

「くっ⋯⋯」


 ブラン様は痛そうに脚を押さえている。


「おい! どうなってんだよ!」

「セイラ君! 何をしているんだ!」


 ジェード様とセルリアン様も駆け寄ってきた。

 

 ノワール様はブラン様を抱えて、私から距離をとり、回復魔法をかけはじめた。


 どうしよう。ブラン様を傷つけてしまった。

 罪悪感と不安で鼓動が速くなって、手が震えて、冷や汗が出る。

 

「ねぇ、どうしちゃったの?⋯⋯⋯⋯セイラちゃん?」


 ボルド様は不安そうな目で私を見つめながら、みなさんを後ろに庇うように盾を構えた。

 

「見て分からない!? 私はあなたたちの仲間でもなんでもないわ! 私はずっと機会を伺っていただけ! アラバストロ! 恩知らずの裏切り者の穢れた一族が! お前たちだけは絶対に許さない! 全員呪い殺してやる!!」


 ひとりでに声が出た。

 自分の声だけど、聞いたこともないくらい、憎しみがこもった声だった。


「お前、何言ってんだ? 俺たちは仲間だろ?」

「けど間違いなくセイラちゃんが、ブランを斬りつけたように見えた⋯⋯よね⋯⋯?」

「ずっと俺たちと一緒に旅して来たセイラちゃんが、王族を恨んでるって? そんな訳ある?」

「まさか、これが君の本性だと言うのか」


 ジェード様、ボルド様、ノワール様、セルリアン様は戸惑っている。

 

「そう、これが私の本性よ。あなたたちが魔王と呼ぶ存在。私を忘れ去り、無かった事にしたこの世界を、私は許さない! 全て壊してやる!」


 次の瞬間、身体から禍々しい瘴気が溢れ出て来た。

 身体が宙に浮いていく。


 そうか、私の身体は魔王に乗っ取られているんだ。

 魔王はブラン様たち王族を恨んでいて、復讐のために、世界を壊そうとしてる?


「冗談だろ? なぁ?」

「こんなの悲しすぎるよ⋯⋯」 

「傷つけずに動きを止めて。話はそれから」

「そんな甘いことで大丈夫なんだろうな?」


 ブラン様を治療しているノワール様以外の三人が、武器を構えた。


 ブラン様は苦しそうに脚を押さえている。

 毒が回ってしまったみたい。


 嫌だな。

 みなさんを傷つけたくないし、傷つけられたくもない。

 イーリスの妖魔の時と同じだ。

 仲間同士で争うなんて。

 お願い。私を止めて⋯⋯



「みなさん! 遅くなってしまい、申し訳ありませんでした!」


 鈴を転がしたような、可愛らしい声のする方を見ると、神々しい姿の少女が立っていた。

 真っ白な長髪に黒色の瞳、真っ白なワンピースを着て、頭にベールを被っている。


 みなさんも少女を振り返る。

 

「私こそが神託に選ばれた六人目⋯⋯神を欺いたこの魔王を封印する聖女です。さぁみなさん、早くあの者の動きを封じるのです!」

  

 聖女様は、私のことを凛々しい表情で見上げていた。

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