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3.盗賊なのに聖属性なわけがない


 「私はずっと君を探していたんだ! 私のパートナーになってくれ!」


 王子様はひざまずき、私の手をとり、キスをした。

 真剣な表情で私を見上げている。


 パートナーってことは、まさかまさかのいきなりプロポーズ!?

 いくら異性を惹きつける才能があるからって、王子様に求婚されるなんて、運が良すぎるのでは?


 キリリの話によれば私は元の世界に戻っても、あの男に探し出されて命を奪われる運命だから、長生きしたければこの世界で暮らすしかない。


 正直この国のことも、この人のことも、今は何も知らないけど、このお方の見た目はカッコいいし、王子様と一緒に暮らせば普通なら生活に不自由しないはず。

 今みたいによくわからないまま追われるなんてこともないなら、この話に乗らない手はないか⋯⋯


 考え込んでいると、王子様は私の手を両手で握った。

 

「とにかく一緒に来てくれ! じっくり話をしよう!」


 こうしてあれよあれよという間に、城へと向かう馬車に連れ込まれた。



 馬車を引いているのは真っ白な馬たちだ。

 馬車の内装は、窓を覆うカーテンから、ふかふかのソファまでロイヤルブルーで統一されている。


 私は王子様と向かい合わせに座っているんだけど、王子様は先ほどから私の顔を真剣な表情で見つめている。

 それと存在が気になるのか、キリリとキララをチラチラと見ているみたい。


「まさか本当に見つかるとは思わなかった。君はいったい何者なんだ? 盗賊(シーフ)なのに聖属性だとは⋯⋯」


 王子様は深刻そうに尋ねて来た。

 何者かって聞かれても困るし、聖属性というのもよくわからない。

 キリリとキララを見ると頷いてくれたので、私は自分が転移者であることを正直に話した。

 王子様は少し驚きながらも、この話をすんなり受け入れてくれた。


「というわけで、私は本当についさっきこの世界に来たばかりで何も分からないんです。えっと、王子様⋯⋯ブラン王子殿下は、聖属性の盗賊を探しておられたということでしょうか?」


 どうやら先ほどのはプロポーズではなかったらしい。


「そうだ。私はずっと探していたんだ。神託にあった、聖属性の盗賊という存在を。この世界のことを何も知らないのならば、順に説明せねばなるまい。あれは二ヶ月前の出来事だ⋯⋯」


 ブラン殿下は語り始めた。



※ ※ ※



 二ヶ月前。

 王の間にて、この国の王ヴァイスと王妃ルーナは玉座に腰かけ、気難しい表情でブランを見下ろしていた。

 王の間は広く天井が高い空間で、十段ほど階段を登った先に両陛下の玉座が並んでいる。

 ステンドグラスに描かれているのは、この世界を創造した五柱の神だ。

 

「父上! 魔王がこの世界に現れてからというもの、街の外には魔物が溢れ、これ以上は民の安全を守る事すらかないません! 早急に魔王討伐に向かうべきです!」


 ひざまずいているブランは王の説得を試みていた。


「ならん。神託が下らぬ以上、時はまだ満ちておらんのじゃ」


「しかし、魔王の根城の監視と浄化にあたっている精霊術師セルリアンからも、溢れ出る瘴気(しょうき)は勢いを増すばかりとの報告が上がっております! 今我々が動かなければ、この世界はさらに魔物で溢れ、破滅へと向かうのみです!」


 ブランは必死の形相で訴えかける。

 しかし、王は首を横に振るだけだ。


「魔王の討伐は、我々一族が神から与えられた使命。それを全うしてきたからこそ、民は我々を(した)い、このような暮らしを享受(きょうじゅ)することができているのです。兄上のご体調を思えば、その使命を果たせるのは私しかおりません。いつでも覚悟は出来ております。どうか、お許しください⋯⋯」


 ブランはひざまずいたまま、さらに頭を下げる。


「ブラン。お前に覚悟があることは分かっておる。気がはやるのも理解できる。しかし、誰になんと言われようとも神託が下らん事には許可出来ぬ。もう下がれ」


 王は複雑そうな表情を浮かべながら、ブランを下がらせた。



 そしてその三週間後。


「父上! 大神殿から伝令があったというのは本当でしょうか! とうとう神託が下ったと!」


 ブランは王の間に早足で入って行く。


「なんだ騒々しい。確かに神託は下った。しかし、内容の信憑性(しんぴょうせい)が低いことから教皇も首を(ひね)っておる」


 王が目配せをすると側近は、神託が記された文書を乗せた台座をブランに差し出した。

 ブランは文書を手に取り内容に目を通す。


「無の一族の御子、春の日に旅立ち、五人の従者とともに、諸悪の根源を清め、世に平和をもたらす。か⋯⋯そして従者というのが、木属性の魔法使い、闇属性の神官(プリースト)、火属性の重戦士、水属性の精霊術師⋯⋯というのは恐らく彼らのことだ。そして、聖属性の盗賊(シーフ)⋯⋯聖属性の盗賊!?」

 

 驚いたブランは文書を何度も読み直す。


「お前も知っての通り、聖の女神様は聖職者の適性を持つ者のみに祝福を贈られる。故に聖属性の盗賊は存在しない。残念ながら、何かの間違いじゃ」


 王は溜め息をつきながら玉座にもたれた。


「お言葉ですが、かつて神託に誤りがあったことは一度もございません。この世界の何処かに聖属性の盗賊がいるはずです。その者を見つけ出すことができれば魔王討伐に向かうことが出来ます。必ずやここに連れて参ります」


 ブランは臣下たちに、聖属性の盗賊を探すように指示を出し、自らも捜索に向かったのだった。



※ ※ ※



「というわけで一ヶ月以上捜索を続けていた所、やっと君に出会えたというわけだ。やはり神託は間違っていなかった」


 ブラン殿下は再び私の手を両手で握って、嬉しそうに微笑んだ。



 質問をしながらブラン殿下の話を理解しようすると⋯⋯

 この世界にある日突然魔王が出現し、魔王が放つ瘴気の影響で危険な魔物が増えて、民が困っている。

 瘴気を(まと)った魔物は、適性のある役職の者にしか討伐出来ないそうで、生産者や技術職の者が触れると身体に毒なんだそう。


 そこで元来より魔王討伐の役割を担って来た王族を代表して、ブラン殿下がこれから魔王の根城に向かう。

 

 神託にあった従者のうち四人には既に心当たりがあるので、聖属性の盗賊の私をパーティーに勧誘し、全て丸く収まったと。

 

 私からしたら何も丸く収まっていないんだけど⋯⋯

 

 属性という概念についても教えてもらえた。

 この世界は五柱の神――火・水・木を司る三柱の男神様、聖・闇を司る二柱の女神様によって創られた。

 この世界に生を受ける人びとは、生まれる時に五柱の神の誰かから祝福を受け、必ずいずれかの属性が発現する。


 ただし王族だけは例外だ。

 五柱の神はその昔、この世界を創ったあと、ある一族にこの世界を託し、次の世界へと旅立っていった。

 それがブラン殿下たちアラバストロ家で、全てに中立な無属性なのだという。


「今から私は父上に、君を見つけ出したことを報告し、準備を整え、神託に従い春にはここを旅立つ。君にはこれから苦労をかけるがこの通り、よろしく頼みたい」


 ブラン殿下は頭を下げた。


「ちょっと、ちょっと! そんな! 頭を上げてくださいよ!」


 王子様に頼み込まれて動揺してしまう。

 何だか断れる雰囲気ではない。

 どうしよう⋯⋯


 けど元々毎晩ゲームではファンタジーRPGをやって来たし、ちょっと楽しそうかも?

 キリリとキララをちらっと見ると二人とも困った顔をしていた。


 

 そうこうしているうちに、お城に到着したみたい。

 見上げれば首がもげそうなくらい、大きくて立派なお城だ。


 騎士たちに囲まれながらブラン殿下の後ろを歩く。

 真っ赤なカーペットが敷かれている長い廊下を進むと王の間にたどり着いた。


 国王陛下は金髪の頭の上には王冠を被り、赤い毛皮のマントを羽織っている。

 鼻の下と顎には金色の髭をたくわえていて、荘厳な顔つきをしている。


 前を歩くブラン殿下が静かにひざまずいたので、その後ろの方で同じようにひざまずく。


「父上、聖属性の盗賊を見つけて参りました。これで神託の通り春には魔王討伐に()つことが出来ます」


 ブラン殿下はひざまずきながら陛下に報告した。


 陛下は喜んでくれるのかと思いきや⋯⋯

 鋭い目で私を睨みつけていた。


 

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