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15.神秘的じゃないエルフがいるわけがない


 木属性の魔法使い、エルフ族のジェード様は神秘的なお姿をしていた。

 ゆっくりと振り返るジェード様の元に、ブラン様は近づいていく。 


「ジェード、大変な状況だな」


 ブラン様の言葉にジェード様は悲しげに微笑んだ。


「ブラン、こんな所まで悪かったな。まさかグランアルブがこんな事になるなんて思わなかった。何度も水質を確認して浄化しても、一切手がかりなしだ⋯⋯」


 ジェード様はしゃがみ込み、泉の水を手ですくう。

 その仕草はまさしく妖精らしかった。



「ジェード、まずは紹介しておきたい。こちらがこれから一緒に旅をする、仲間のセイラだ」


「はじめまして。セイラと申します。よろしくお願いいたします。グランアルブのこと、何かお力になれると良いのですが」


 ジェード様に向かって挨拶をする。

 初対面だからだろうか、一気に緊張感が漂い始める。


「⋯⋯⋯⋯」


 ジェード様は険しい表情で私のことを見つめている。

 あれ? もしかして、警戒されてる?

 エルフ族は排他的だと、元いた世界の本で読んだことがあるけど、さっき私たちを案内してくれたアイビーさんは普通だったよね。


「決して怪しい者じゃありませんので⋯⋯」


 誤解を解こうとするも、ジェード様は表情を変えない。

 それどころか⋯⋯


「⋯⋯いや、怪しさ満点だろ。じゃあ、お前が聖属性の盗賊? 本当、ブランもよくこんな珍獣を見つけ出して来たよなー。とにかく、俺はブランみたいに甘くないからな」


 ジェード様は腕を組みながら私を見下ろしている。


「⋯⋯⋯⋯え?」


 目の前にいるのは、エルフ族⋯⋯神秘的な⋯⋯妖精⋯⋯じゃなかったっけ?


「え? じゃねぇよ。最初にブランから神託の事で手紙をもらった時は正直驚いた。木属性の魔法使い、闇属性の神官、火属性の重戦士、水属性の精霊術師と来て、聖属性の⋯⋯って普通は聖騎士のアッシュだと思うじゃん? いや、盗賊って! 盗賊って! って二度見じゃ済まないくらい確認したからな。しかもお前、初級のひよっこなんだろ? 本当に使い物になんの?」


 神秘的なエルフだと思っていたジェード様は、どうやら口が悪いお方のようだ。

 もしくは二重人格。


 ジェード様との初顔合わせは、不安な滑り出しとなった。


 


 ジェード様と合流できた私たちは、再びグランアルブの根元に向かって歩き始めた。


「ジェード。女性に対して、しかも初対面なのにそういう粗暴な態度は良くないぞ?」


 ブラン様がジェード様をたしなめる。


「俺はブランと違って育ちが良くないからな。女だからって容赦はしない。まず! お前の格好はこの神聖な森に相応しくない。まさか、変態なのか?」


「いやいや、私だって好きでこんな格好をしてるんじゃないですよ? この前までは寒いのだってずっと我慢してたんですから。残念ながらこれが盗賊の標準スタイルなんです。気に障ったのなら申し訳ありません!」


 まぁ確かにジェード様の言い分はごもっともだ。

 今の私は太ももとお腹なんかは素肌が見えている。

 けど、断じて好きで見せびらかしているわけではない。


「それは気の毒なこった。変態じゃないなら、そんなもん見せんな」


 そう言ってジェード様は自分が着ていたローブを脱いで、こちらに投げてよこした。

 ジェード様は、ローブの下には深緑色の無地のくるぶし丈のワンピースを着ている。


「お気遣い頂き、ありがとうございます! ジェード様って、とっても紳士的なんですね!?」


「ジェード。さっきから失礼だぞ? それにセイラは気の毒なんかじゃない。むしろ目の毒⋯⋯」 


「ブラン様! フォローしていただけるのはありがたいですけど、ややこしくなるので黙っててください!」


 

 がやがやと話しながらグランアルブの根元にたどり着いた私たちは、再びこの巨大な木を見上げた。


「ジャスパーの行き先の手がかりはないのか?」


「ジジイは蝶が現れる前日、夜中の内に行方が分からなくなった。そう言えば最初に臭いに気付いたのもジジイだったな。何処から臭いが出てるのか、俺にはさっぱりだけど。ジジイは木が枯れるのは根っこが悪くなったからだって言って、毎日森の中を歩き回ってた。それで俺も原因は水じゃないかと思って泉を調べてたんだ」


 四日前から臭いがし始めて、その日の夜中に族長が失踪。

 三日前から蝶がやってきて、一部のエルフと騎士たちが眠らされた⋯⋯


 グランアルブが枯れた原因は結局分からず仕舞い。

 根っこも水も、分かる範囲では大きな異常は見当たらない⋯⋯

 けど、木が腐っているならまだしも、枯れただけでこんな臭いがするのかな⋯⋯


「すみません。グランアルブの中ってどうなってるんですか?」


「中? それは見たことねぇな。ところどころ元々表面に穴が空いてたところは、寝床にしたり、ガキんちょが『秘密基地だ!』とか言って遊び場にしたりしてるけどな」

 

 ジェード様が指さした先には、子どものエルフが数人入れるような穴が空いていた。


「ちょっと試してみたいことがあるんですけど。あの穴に入ってみてもいいですか?」


「別に良いけど。お前、あんなとこまで登れんのか?」


 問題の穴はマンションで言うところの、六階くらいの高さだろうか。


「登れないのでジェード様が、チョチョイと出来たりしません?」


「あ? まぁ⋯⋯絶対に傷つけんなよ」


 ジェード様は念押ししたあと、魔法を使ってくれた。


 ジェード様が魔法を発動させるために詠唱を始めると、杖の先の宝石が光り出す。

 私たち三人を包むように風が起こったかと思ったら、一瞬で穴の近くの太い枝の上に移動していた。

 先ほどまで自分たちがいた場所を、上から見下ろしている。


「すごい! すごいですね! ジェード様!」


「こんくらい誰でも出来んだろ。で、試すって何を?」


「地図作成です! 出来るでしょうか?」


 子どもエルフたちに場所を譲ってもらい、穴の中に入る。

 その状態で地図作成スキルを使うと⋯⋯


「見てください。結構穴だらけみたいです」


 作られたグランアルブの内部の地図によると、遺跡と違って何階とかっていう表現ではないけど、あちこちに小部屋くらいの大きさの穴が空いているのが分かった。


「なんだ、この穴。これが枯れた原因ってか?」

「一応探知も使ってみます⋯⋯⋯⋯あ。ここに反応がありますね」


 木の遥か上の方に何者かの反応が示された。


「そこはいつもジジイが休んでる辺りだな。まさか⋯⋯」


 ジェード様はもう一度魔法を使って、問題の場所に私たちを連れて行ってくれた。


 その場所は表面に大きな穴があった。

 中はスペースがあって、毛布など族長がくつろいでいた形跡がある。

 穴の奥は植物のツルが複雑に絡まりあって、行き止まりみたいになっているけど、地図上では先があるみたいだ。


 ツルをかき分け、暗視で中を覗いてみるも何も見えない。

 

「ほふく前進でなんとか通れる位の大きさか。このまま進むのは危険だ。他にこの反応の正体を探る方法は無いものだろうか⋯⋯」


 ブラン様は考え込んでいる。


「んー。俺たちの魔法はグランアルブには弾かれて効かないから、このツルを操作するっていうのも出来ないし、あとは精霊に頼む方法もあるけど、精霊術師は眠らされてるしな」


「じゃあ、キリリとキララにお願いしてみますか? 二人とも、どうかな?」


 左手のバングルに話しかけると、二人はテディベアの状態で姿を現してくれた。


「うわ! コイツらも精霊なのかよ!?」


 ジェード様は驚いたように声を上げた。


 二人はジェード様に挨拶した後、穴に入ってくれることになった。

 明かりはキリリの身体に小型のランタンをくくりつけることにした。

 

「やだ⋯⋯臭いし怖い⋯⋯」

「セイラのためだ、我慢しよう」


 キララとキリリの辛そうな声が聞こえてくる。

 後でしっかり二人を労わないと。


 キリリにくくりつけた明かりがこちらからは見えなくなった頃。


「うわ!! 出たー!!」

「い〜や〜! お兄ちゃん! 逃げよう!」


 二人の悲鳴が聞こえたかと思ったら、大慌てで穴から出てきた。

 怯える二人を抱きしめると汗をかいて、身体が震えている。

 

「怖いことを頼んでごめんね。それで何がいたの? 族長さんは?」


「族長さんは⋯⋯族長さんは⋯⋯」


 キララは青ざめた顔で言い淀んでいる。


「セイラ、早く略奪スキルであの魔物をここに引きずり出すんだ。けど、族長さんはもう⋯⋯」


 キリリも言葉を失っている。

 まさか⋯⋯


「おい! ジジイはどうなったんだよ? 魔物ってなんだよ?」


 ジェード様は狼狽(うろた)えている。


「とにかくやってみます。初めてなので上手く出来るといいんですけど⋯⋯」


 穴の中に手を入れ、略奪スキルを発動すると、しっとりした何かに触れた感覚がした。

 そのままそれを掴んで引っ張ると、ニュルンという感覚とともに、小さな穴から大きな魔物を取り出すことができた。


 

「ぎゃー! 気持ち悪すぎー!!」 


 急いで飛び退き魔物から距離を取る。


 魔物の正体は直径5メートルくらいはありそうな巨大な花だった。

 赤い花びらに白い水玉模様があって、5枚の花びらの中央は大きな穴が空いている。

 その穴の中心に、族長らしき人物が頭を突っ込んでいた。


「ジジイーーーー!!」


 ジェード様は頭を抱えて絶叫している。



 鑑定スキルで確認すると、魔物の名前は⋯⋯カクレシア。

 

「寄生植物みたいです! 強烈な臭いの原因はこれです! とにかく族長さんを助けないと!」


 カクレシアはツルをうねうねと動かし、花びらをひらひらさせ、族長の頭を吸っている。


 ブラン様がすかさず剣を抜き、カクレシアを斬り裂くと、カクレシアはすぐに動かなくなった。


 ジェード様が族長を花の中心から引きずり出す。


「おいジジイ! 生きてんだろ? しっかりしろ! 死ぬなんて許さないからな!」

  

 ジェード様は族長の肩を揺さぶったり、頬を叩いたりしている。


「ジャスパー! しっかりしろ!」

「族長さん! 大丈夫ですか!?」


 ブラン様と私も近寄り声をかける。


「うぅ⋯⋯」


 族長はうめき声を出した。


「生きてる! 生きてるぞ!」


 ジェード様は感動のあまり、目に涙を浮かべている。


 それから族長はゆっくりと身体を起こした。

 その顔にはシワが刻まれていて、髪の毛は薄く、真っ白で長い眉毛で目元が隠れている。

 鼻の下と顎のヒゲはお腹の辺りまでの長さがある。


「族長さん! ご無事でよかったです!」


 声をかけると族長は細くてシワシワの手で私の手を握った。


「暗闇の中、恐ろしい魔物にしゃぶり倒され、正気を失いかけていた頃、闇を切り裂き、再び光を与えてくださったのは、美しい聖女様⋯⋯あなたです」


 族長は恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべ、眉毛の奥のつぶらな瞳で私を見つめている。


「⋯⋯大変な目に遭われて混乱されてますね」

「どうか私を聖女様のお側に⋯⋯」


「おいジジイ! ブランが剣で魔物を斬り裂いて、俺が引きずり出してやったんだろうが! 臭いんだから、無事ならさっさと風呂に入ってこい!」



 こうして私たちは、グランアルブに巣食う魔物を無事に退治することができた。

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