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11.可愛い弟子を魔王のもとに送り出す師匠なんているわけがない


 季節は春になり、とうとう魔王討伐の旅に出発する日がやって来た。


 出発の時は何でもない平日の朝だった。


 王の間で再び両陛下に謁見(えっけん)し、励ましのお言葉を頂戴する。


「セイラよ! とにかく! わしの可愛いブランのことを頼んだぞ!」


 陛下は相変らず大泣きしながらブラン様に抱きついていた。

 


 その後は客室に戻り最後の支度をした。

 荷物はリュックサックひとつ分。

 サバイバルに必要な最低限の内容だ。


「キリリとキララもよろしくね!」


 バングルに向かって話しかけると、チカチカと二回宝石が光った。

 二人とも『了解』って返事をしてくれている。



「マロンさん、お世話になりました! 寂しいですけど、自分の役目を果たしてきます!」


「セイラ様、どうかご無事で。ずっとお待ちしておりますので、必ず戻ってきてくださいね」


 マロンさんとハグを交わし、別れを惜しむ。




――コンコン


 ノックの音がした後、入って来たのはアッシュ様だった。

 マロンさんは私とアッシュ様に会釈した後、すぐに部屋を出ていった。



「準備が出来たか確認しに来たんだが、まだ話の途中だったか?」

「いえ。大丈夫です。昨日もゆっくりお話しできましたから」

「そうか。実はブラン様の元に行く前に渡したいものがある」


 アッシュ様はそう言うと懐からペンダントを取り出した。

 そのペンダントのトップは、金色の金属で出来た円盤の部分に六芒星(ろくぼうせい)が描かれていて、星の6つの先端には6色の宝石が埋め込まれている。


「これは魔除けの効果がある首飾りで、描かれた印は神話の時代から伝わる神聖なものだそうだ。肌身離さず持っておくといい」


 アッシュ様は私の首にそっとペンダントをかけてくれた後、ペンダントトップを持ち上げた。


「聖の女神ルーチェ様の御加護があらんことを」


 アッシュ様は祈りを捧げ、ペンダントトップの6つの宝石の内の黄色い宝石にキスを落とす。

 すると黄色い宝石は光が宿ったように輝き出した。


「あとでブラン様やジェード達からも、祝福してもらうといい」

「ありがとうございます。素敵なお守りですね」


 もらったペンダントは神聖な光を放っている。


「不安が無いと言えば嘘になりますが、これがあれば頑張れそうです」


「それならばよかった。俺はセイラが努力する姿をいつも側で見てきた。セイラは少しそそっかしい所があるが、そこさえ気をつければ何も問題ない。大変な役目だが、必ずやり遂げられる」


 アッシュ様は優しい目で言ってくれた。

 

「後はそうだな。何か困ったことがあれば、各街には騎士団の支部があるからそこを頼るといい。ブラン様も立ち寄る予定だとおっしゃっていた。必ず良くしてもらえるはずだ」


「そう言えばそうでしたね! 私にとっては知らない街でも騎士団の方はいらっしゃるんですもんね。あと、時々お手紙を出しますね! 騎士団の方に渡せば、アッシュ様に届きますよね? あぁ本当、アッシュ様も一緒に来て下されば心強いのに⋯⋯」


 と語ったところで、またもや突然アッシュ様に抱きしめられる。


「こちらが本音を押し殺しているというのに、どうしてセイラは簡単にそんなことを言うんだ」

「え? 本音とは?」

「行かせたくない。行くなら俺が側で守りたい。なんて言ったら反逆罪になるだろう」


 アッシュ様は辛そうに言った。


「大丈夫ですよ? 私、アッシュ様に稽古をつけてもらったんですから。結構いい線行ってると⋯⋯」


「とは言えセイラは初級のままだ。他のメンバーと比べれば遥かに弱い。その上一人だけ女なんだ。敵に狙われる可能性だって高い。後衛職との連携だって未経験だ。それに⋯⋯」


「いや、さっき、そそっかしい以外は大丈夫って⋯⋯」


「だからそれは建前だと言っているだろう」


 どうやら私の軽はずみな一言で、アッシュ様の不安が溢れ出てしまったらしい。


「もう、大丈夫ですって! お守りも頂きましたし!」

「必ず無事に帰って来てくれ。それ以外は何もいらない」

「わかりました! 任せてください!」

「⋯⋯やはり手紙は欲しい」

「はい! 必ず出しますよ!」


 こうして重度の心配性の師匠と別れの挨拶を交わした。



 城下町の外れの門の前に、ブラン様は立っていた。

 道中で目立たないようにと、髪の毛と眼の色を金色から茶色に変えている。

 

「王子様が勇者として旅立つというのに、見送りもなく静かなものですね」

「あぁ。それでいい。きっとここに戻って来るときは派手に凱旋パレードを行うことになるだろうから。その時はセイラも私と一緒に国民に手を振る立場だ」


 ブラン様は爽やかに笑った。

 凱旋パレードか。

 平和な世の中が訪れて、みんなが手放しに喜べる日が楽しみだ。



「じゃあ、ラセット! よろしくね!」


 準備も整ったので二人で馬車に乗り込む。

 ブラン様に馬車の座席に座ってもらい、私が運転をして門の外の跳ね橋を渡る。



「あれ? そう言えば、残りの四人の皆さんとはどこで待ち合わせを?」


 神託ではブラン様は五人の従者とともに魔王を討つことになっている。

 そのうち一人は私で、残りの四人はブラン様のアカデミー時代のお知り合いと聞いていたけど⋯⋯


「実は神託が下った直後から、直近までずっと連絡を取りあってはいるものの、今まさに最前線にいる精霊術師のセルリアン以外の皆も、自分の故郷の問題に悩まされていて、その場を離れる事ができないんだ。だから私たちは旅をしながら等級上げや贈り物による強化をしつつ、彼らを拾いながら魔王の元へと向かうことになる。彼らは皆上級以上だから、私たちも早く追いつかないといけないんだ」


 なるほど。

 分かってはいたけど、まだまだ自己研鑽(じこけんさん)の旅になりそうだ。


 それにしても残りの四人は上級以上なんだ⋯⋯

 私たちは2ヶ月間の訓練では等級が変わらずに、私は初級、ブラン様は中級のままだ。

 ブラン様は王族としての公務もこなしながらだから、等級が上がりにくいとは言え、私は結構みっちりやったのにな。


 まぁでも上級者が多いのは心強い。

 この時は呑気にそう思っていた。

 まさかこの四人がくせ者揃いだとも知らずに⋯⋯

   

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