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105/108

105.愛する人の誕生日をお祝いするのに全力を出さないわけがない※


 とある秋の日。

 愛するブラン様が二十五歳になる、お誕生日の一ヶ月前のこと。


 ベッドの上でイチャイチャしながら、当日の希望をリサーチしていた。


「ねぇ、ねぇ、ブラン様〜お誕生日はどうやって過ごしたいですか? プレゼントのリクエストはあるでしょうか?」


 隣に寝転ぶ彼に抱きつきながら、甘えるように身体を揺らす。

 ブラン様もその動きに合わせて、ちょっとゆらゆらしてくれているのが、なんとも可愛らしい。


「そうだな⋯⋯セイラが一緒に過ごしてくれれば、それで⋯⋯」


 ブラン様は、私のことを愛おしそうに見つめながら答えた。


「もう! それは当たり前じゃないですか! それに加えて、何か希望が無いかを教えて欲しいんです。全く、無欲なのはブラン様の方じゃないですか!」


 照れ隠しもあって、ついついお説教っぽくなる。


「私は無欲なんかじゃないだろう? それなら、お言葉に甘えて、一日私の望みを聞いてもらうというのはどうだろうか?」


 キラッキラの笑顔でリクエストしてくれるブラン様。

 もちろん答えはイエスだけど、またコスプレとかするのかな⋯⋯

 ドキドキしながら当日を待つことになった。



 お誕生日当日。

 ブラン様は贈り物の山に埋もれていた。

 執事たちが開封し、ブラン様が中身をじっくり確認した後、お礼状を書くというチームプレーが出来上がっている。

 

 私はというと、ブラン様のリクエストである手料理を作るため、朝から厨房の隅をお借りしていた。


「妃殿下は料理もお上手なんですね〜」


 王宮で提供される食事の全責任者である料理長が、感心したように鍋を覗き込んで来た。


「はい! こう見えて、料理は得意ですよ〜子どもの頃から自炊してましたし、働いていた定食屋でも、調理の過程を近くで見て、お手伝いしてましたから!」


 とは言え、お洒落な料理は、あまり経験が無いんだよね。


 メニューはおまかせとのことだったので、以前にセルリアン様から授かったレシピの内、鯛の白ワイン蒸しと、チョップドサラダを作ることにした。

 後は個人的な懐かしの味、豚汁と卵焼きを作った。



 昼食の時間。

 二人きりで食事をすることに。


 料理長には自信満々にああ言ったけど、いざブラン様を目の前にすると、緊張して来た。


「どうぞ⋯⋯お口に合うといいのですが⋯⋯」


 椅子に座るブラン様の斜め後ろに立ち、お皿をテーブルの上に並べていく。


「全てセイラが作ってくれたのか!? どれも美味しそうだ!」


 嬉しそうなブラン様。

 

「これがセイラの故郷の味か⋯⋯どこか温かみがあって癒される⋯⋯私はなんて幸せ者なんだ⋯⋯」


 豚汁と卵焼きを食べながら、ほっこり気分を味わってもらえたみたいだった。


 

 デザートのお誕生日ケーキは、パティシエが作った『超超ゴージャスな特大ケーキ』⋯⋯ではなく、『かわいいクマさん型のチョコケーキ』だ。


「わぁ! とっても可愛いですね! まるでテディベアですよ!」


 さすが、王室専属のパティシエの方は、ブラン様の好みを熟知しているようだ。


「あぁ。幼い頃からずっと、クマやウサギなどの可愛い生き物のケーキにしてくれるんだ。もう二十五歳だと言うのに⋯⋯」


 ブラン様は顔を赤くしている。

 可愛すぎて崩せないと苦悩しながらも、最後は幸せそうにケーキを食べていた。

 


 次なるリクエストはなんだろう?

 ワクワクした気持ちで待機していたのにも関わらず、ブラン様に予定が入ってしまった。


「すまないな。スカーレット公爵が、急ぎ打ち合わせたいことがあると言って来ているんだ。恐らく燃料に関する問題だろうから、後回しにするのは難しそうだ」


 ブラン様は困ったように眉を動かした。


「そうですか⋯⋯急ぎのお仕事なら仕方ないですね。でも、せっかくのお誕生日なんですから、無理はしないでくださいね⋯⋯」


「あぁ。セイラが私のために頑張ってくれているというのに、申し訳ないな」


 落ち込む私の頭を優しく撫でてくれる。


「お戻りは何時頃でしょうか?」


「今は分からないが、もし今日中に戻れたら、夜は一緒に過ごしてくれるか?」


 片手で抱き寄せられ、耳元で甘えたような声でお願いされると、一気に顔が火照ってくる。


「はい。何時になっても待ってますから」


 頬に手を添えてキスすると、両手で抱きしめてくれた。



 そして夜。

 ブラン様が戻って来る事を信じて、メイドさんたちに準備を手伝ってもらう。

 

「殿下への最高のプレゼントになるよう、いつも以上に美しく仕上げさせて頂きますからね!」

 

 マロンさんは顔に保湿剤を塗ってくれている。


「ありがとうございます⋯⋯頑張ります⋯⋯」


 いわゆる『プレゼントは、わ・た・し』状態。

 これはなんとも恥ずかしい。

 

「そう言えばセイラ様? ブルムの露店で、ベッド用の香水を入手されたのではありませんでしたか?」


「そうなんですけど、これを買った直後にあんな事になったので、なんとなく使うのに躊躇してしまって⋯⋯」


「それはいけません! 香水に罪はありませんからね。ぜひ使いましょう! 今こそ、その時です! さぁ!」


 マロンさんの圧に負け、おずおずと入手した香水を渡す。

 シナモンさんとグレナさんも、マロンさんと顔を寄せ合って、香水の説明書きを読んでいる。


「セイラ様、これはかなり強力な香水のようです! 私たちも嗅いでしまえば、おかしくなってしまうかもしれませんので、二人きりになられてから、ご自分で使用してくださいませ!」


「うふふっ、楽しみですね」

 

「感想を教えてくださいね!」


 メイドさんたちはそう言い残して、出ていってしまった。


 

 嗅いだだけでおかしくなってしまうって、そんな物を使っても良いのか、果たしてどうなってしまうのか⋯⋯

 期待と不安が入り交じる中、説明書通りに香水を腰に吹きかけ、ブラン様の寝室へと向かった。


 まだブラン様は帰って来ていないみたいだ。

 ベッドに潜り込んで、シーツにくるまり、帰りを待つ。


 香水の香りは一言で言えばフルーティ。

 ありがちな香りと言ってしまえば、それまでだ。


 けど、そこから徐々に香りが変わって行って、石けんのような清潔感のある香りになったかと思ったら、ムスクのような妖艶な香りになっていき⋯⋯

 香りを嗅いでいる内に、身体に変化が起こった。


 なんだろう。

 香水を吹きかけた辺りがゾクゾクする。

 じんわりと何かが広がっていくような感覚。

 どうしよう。ブラン様が帰って来てないのに、一人でおかしくなり始めてしまった。


 腕が寂しくなって、枕を抱きしめる。

 洗いたてのはずだけど、微かにブラン様の香りが残っているような気がして、鼓動が速くなる。


「ブラン様⋯⋯早くぎゅってして欲しいのに⋯⋯」


 しばらく枕に頬を擦り寄せていると、耳元で声が聞こえた。


「何をしているんだ? 俺のベッドで、一人でそんなに乱れて」


 いつもより低い声に敏感に反応して腰が跳ねる。

 恐る恐る振り向くと、早くもオスの顔になったブラン様がいた。


「これは! あの! その⋯⋯⋯⋯うぅ⋯⋯ごめんなさい⋯⋯」


 こんな姿を見られるなんて。

 恥ずかしさで涙目になる。


 ブラン様はすぐに馬乗りになって、噛み付くようにキスしてくれた。

 両手の指を絡めるようにして、シーツに押し付けられる。


「遅くまで待たせて申し訳ないと思っていたが、俺がいない間に、セイラは一人で、いけない事をしていたのか?」


「違います! これは、香水のせいで!」


 間髪入れず正直に答えても、ブラン様は納得してくれない。


「確かにいい香りだが、言い訳にはならないな。いったい何をしていたんだ?」


 射抜くような目で見つめられながら、問い詰められると、また身体が反応してしまう。

 

「だって⋯⋯」


 いやいや。こういうのって、香りをかいだ男性側がめちゃくちゃ積極的になるとか、そういうのじゃないの?

 想像と違い、おかしくなっているのは私だけみたいだ。


「ブラン様の匂いがしたから、ドキドキして⋯⋯もう自分ではどうすることも出来ないんです。だから、お願い。もっと」


 両手で頬を包みこんで、唇を奪う。

 全然足りない。こんなんじゃ満たされない。

 

「どうして君はいつも俺を振り回すんだ。もうどうなっても知らないから」

 

 息が止まるほど強く抱きしめられる。

 深くなるキスに頭が真っ白になる。


「もうだめです。助けて、おかしくなる⋯⋯全部欲しいです。ブランの愛が欲しい」


 背中に腕を回して縋り付く。


「あぁ。俺の愛は全てセイラの物だ」


 抱きしめられて、頬や耳、首筋にキスされる。

 無意識に身体をよじって逃げてしまう。


「逃げないでくれ。今、楽にしてあげるから」


 その後は明け方まで、気が狂いそうになるほど、ぐずぐずに甘やかされた。


   

 翌朝。

 気づいたら眠っていた私は、盛大に乱れたシーツの上で目を覚ました。

 全身に甘いだるさを感じる。

 もう一歩も動ける気がしない。


 ふと隣を見ると、キラッキラ王子様モードに戻ったブラン様と目があった。

 

「あ、おはようございます⋯⋯ブラン様は⋯⋯大丈夫ですか?」


 叫び過ぎたからか、少し声が枯れている。


「おはよう、セイラ。私は大丈夫だが⋯⋯随分と無理をさせたな」


 私の頭を撫でながら、申し訳なさそうにしている。

 けれども、なんだかいつも以上に、キラキラ度が増している気がしてならない。

 肌ツヤがさらに良くなってるんだ⋯⋯


 薄々感じてたけど、ブラン様って絶倫?

 もしかして、今までのは物足りなかった?

 まぁ、今回ご満足頂けたのなら、なによりだ。


 この日以降、二人の間には香水ブームが巻き起こり、より濃密な時間を過ごすようになっていった。


 


 そして、とうとうこの時がやって来た。


 なんだか最近、お腹の下の方がチクチクするんだよね。

 それと、なんとなく胃もたれがして、食べ物が喉を通らない。


「セイラ、大丈夫か? 口に合わなかったか?」


 向かい合って食事をとっているブラン様は、手を止め、心配そうに私を見つめる。


「なんだか胃の調子がおかしくて、味覚も変わった気がします。美味しそうなのは、頭ではわかっているんですけど、どうも受け付けなくて⋯⋯」


 本音では匂いを嗅ぐのも、見ているのも苦しい。


「まさか⋯⋯」


 ブラン様は、すぐに女性神官による治療を手配してくれた。

 ベッドに横になる私に、神官が手をかざす。

 すると、聖属性のはずの私の身体が白く光った。

 これって⋯⋯


「ブラン殿下、セイラ妃殿下、おめでとうございます! ご懐妊です!」


 女性神官は満面の笑みで言ってくれた。

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