104.この世界を創った神々に感謝しないわけがない
戦で負傷した英雄のみなさんや騎士たちが、すっかり回復した頃。
前回の妖怪騒動から延期になっていた、英雄たちのパレードが行われることになった。
このパレードは前回と同様に、お城の広場から出発し、王都内の大通りをぐるりと一周するもので、この日のために、たくさんの国民が王都に見物に来てくれている。
今回馬車に乗るのは、ブラン様、モント様、アッシュ様、ジェード様、ノワール様、ボルド様、セルリアン様、そして私の計八名。
全員で一つの馬車に乗り込む。
馬車を引いてくれるのは、今回も真っ白な馬たちだ。
今、私たちは、お城の広場で屋根のない馬車に乗り込み、出発の時を待っている所だ。
今回も全員正装をしていて、私は再びパンツスタイルを選んだ。
みなさんも今日のために服を新調されたようだけど、とっても様になっている。
雑談の話題はみなさんお気に入りの武士について。
剣をよく扱うブラン様、アッシュ様、ボルド様と刀について盛り上がっていた。
「そうか。ブシは『カタナ』と言う剣を使って戦うのか。それは私たちの剣とはどう違うんだ?」
「はい。剣と刀の最大の違いは、両刃か片刃かってことでしょうか。あとはそうですね⋯⋯刀は反った形が一般的って言うのと、斬れ味を追求したために、刀身が薄くて、不自然な力がかかると折れやすいみたいです」
「へぇ〜! なるほどね〜! 作ってみたいな〜カタナ〜!」
ボルド様は目を輝かせている。
もし、完成した刀を、ガランスのちょんまげ男のゴブランさんが持てば、完璧な武士が出来上がりそうだ。
「あと武士がかっこいいのは、『安心せい、峰打ちじゃ』って言うセリフでして、これは片刃だから出来る技なんですけど。相手を傷つけずに倒す方法で、斬りつける直前に刀を返して、刃が無い方で敵の身体を撫でつけることで、斬られたと錯覚して失神させ、戦闘不能にするんです!」
「そうか。それだと血が流れずとも、争いを解決可能と言うわけか」
アッシュ様は感心したように頷いている。
「ブシの定義が馬に乗り、カタナや槍、弓を扱う男なのだとしたら、僕たちは異分子ということになる」
「あ? んなのは良いんだよ。大事なのは忠誠心と戦闘力だ」
「そう。武器の種類よりも、主君への想いの強さの方が大切」
セルリアン様の疑問にジェード様とノワール様は答えた。
そうこうしている内に、パレードが始まろうとしていた。
今回の我々の馬車を先導してくれる騎士はカナール様で、馬車の周囲の守りを固めてくれているのは、ルートル様とコルク様。
三人とも無事に回復して良かったな。
カナール様がこちらを振り返り、頷く。
それを合図に、アッシュ様が魔法の花火を打ち上げた。
「わ! 前回よりもキラキラ具合がパワーアップしてませんか? すごくきれいですね! ずっと見ていたいくらいです!」
とは言えこれは出発の合図だから、何発も撃ったら他の場所の警備の騎士たちが混乱しちゃうもんね。
「そんなに気に入ったのか。建国記念日にも打ち上げるから、その時はもう少し奮発出来るようにしよう」
アッシュ様は、子どもを見るような優しい目で見つめながら言ってくれた。
「はい! ありがとうございます! 楽しみです!」
「俺たちも派手にやらせてもらお〜! セイラちゃん、見て見て〜!」
ボルド様は手の平を上に向けて、火花を出した。
まるで手持ち花火みたいだ。
「すごいです!」
「うわっ!」
馬車の外から遠慮がちな声が聞こえた。
どうやら木属性のコルク様が、びっくりしてしまったらしい。
「あっ、コルク、ごめん〜」
顔の前で両手を合わせるボルド様。
「んじゃあ、俺もやるから見とけよ」
「僕も」
ジェード様は花吹雪を出し、セルリアン様は精霊たちを呼び寄せた。
ジェード様の花吹雪は、花びらの色合いが暖色系寒色系など意図的に統一されていて、前回よりも芸術度が上がっている。
セルリアン様の精霊たちは、スケート靴を履いているかのように、水を撒き散らしながらくるくると馬車の周囲を回転している。
まるでアイスショーみたいだ。
「キャー! セルリアン様〜! こっちを見て〜!」
「ボルド様〜! 素敵〜!」
「ジェード様〜! なんてお美しいの〜!」
街の人たちから黄色い声が上がる。
その女性たちは手にそれぞれ、青、赤、緑の旗を持っている。
これは恐らくみなさんのファンの方々。
メンバーカラーを使った応援⋯⋯推し活と思われる。
「ええ〜! なんか、魔王討伐のときと雰囲気が違うくない?」
「前回よりも旗の色が多彩になっているように見える」
「俺の色は緑ってことか?」
国民のみなさんを見渡すと、他にも黒、グレー、ピンクの旗を持っている人がいた。
黒はノワール様、グレーはアッシュ様、ピンクは恐らく私だ。
「やった! 私を推してくれてる人もいますよ! ありがとうございます〜!」
ピンクの旗を持った方に集中的に手を振り返す。
ちょっとしたアイドル気分になれて嬉しい。
「モント殿下〜!」
「ブラン殿下〜!」
白い旗を持ったファンの方々。
二つの旗は柄が違って、どうやらモント様が三日月で、ブラン様が雪の結晶らしい。
「モント様! ブラン様! あの方々を見てください! 同じ白でも、あんな風に分かりやすいようにして、『推して』おられます!」
「本当だ。ありがたいね」
「熱い声援を貰えると嬉しいものだな」
モント様とブラン様も手を振り返した。
「キャー! 今、こっちを見てくれたわ!」
「アッシュ様〜! 笑って〜!」
「ノワール様〜! 指さして〜!」
「セイラ妃殿下〜! 投げキッスしてください〜!」
パレードは大盛り上がりだ。
温かい気持ちで声援に手を振り返していると、空から光の粉が降って来ている事に気づく。
赤、青、緑、黄、黒、そして白。
なんだろう?
光の粉はキラキラと私たちの頭上を旋回した後、教会の方へと向かう。
目で追いかけると、屋根の上になんと、六柱の神々が座っていて、微笑みながらこちらを見下ろしていた。
ナーダ様の膝の上には、キリリとキララが抱かれている。
「ちょっと! ブラン様! 教会の屋根の上!」
肩を叩いて大急ぎで知らせる。
「ん? なんだ? ⋯⋯⋯⋯まさか。そんなこと⋯⋯」
ブラン様も神様たちに気づいてくれた。
「なんだよお前ら。何見てんだ?⋯⋯⋯⋯はぁ? アルブル様ぁ?」
「生フェーゴ様だ〜!」
「フォンセ様もいらっしゃる」
「ヒュドール様も僕たちを見に来て下さったのか」
「ルーチェ様もだ」
「ナーダ様⋯⋯」
突然の神々の登場に、馬車の上は興奮状態になった。
周りの騎士たちや街のみなさんは、特段反応が無いから、私たちだけに見えているみたい。
「ありがとうございます〜!!」
神様に対して手を振って良いのか分からないけど、居ても立っても居られなかった私は、叫びながら大きく手を振った。
すると、神々もお上品に手を振り返して下さり、静かに消えていった。
それは、私たちがこの世界を守れたことに対する労いと、これからのことを応援しているというメッセージに感じられた。