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101/108

101.愛する夫を犠牲にしていいわけがない


 幻獣たちの群れに襲われ、私たちのパーティーはバラバラになってしまった。

 みなさんが満身創痍(まんしんそうい)になりながら、時間を稼いでくれたお陰で、ブラン様と共に洞窟に逃げ込むことが出来た。


「みなさん、ごめんなさい。私が呪いなんか受けてしまったから。私がもっと動けていたら。私を逃がすために、あんな目に⋯⋯ごめんなさい。ごめんなさい」


 大切なみなさんを、自分のせいで傷つけてしまった罪悪感と悲しさで、涙が止まらない。

 

「セイラのせいじゃない。悪いのはこんな戦を起こした犯人だ。今は彼らの無事を祈るしかない。きっと彼らなら、持ちこたえてくれるはずなんだ」


 私を抱きしめるブラン様の手と声が震えている。

 お兄さんと、幼い頃からの親友たちと、あんな風に別れたんだ。

 ブラン様は私なんかよりも、もっと辛いはず。


 ブラン様の言う通り、今は信じるしかないよね。

 けど、あんなに酷い状況からなんとか出来る?

 ⋯⋯⋯⋯だめだ。悪い想像ばかりしてしまう。


「セイラ、こんな時になんだが、こんな時だからこそ、君に伝えたい事がある」


 ブラン様は私を真剣な目で見つめながら、強く手を握ってくれた。

 すぐにその手に自分の手を重ね、見つめ返す。


「セイラ、愛してる。君は私にとって、かけがえのない人なんだ。絶対に失いたくない」


 ブラン様の金色の瞳は潤んで揺れている。

 こんな絶望的な状況なのに、息を呑むほど美しいと感じる。


「ブラン様、私もあなたを愛しています。私だって、あなたを失いたくない。絶対に生きて帰りましょう。敵を倒して、またみんなで笑える日常を取り戻しましょう」


「あぁ。私たちならこの困難を乗り越えることが出来る。ずっと一緒にいられる」


 言い聞かせるように話すブラン様。


 後頭部に手を添えられ、優しくキスされる。

 これが最後なんて事はないよね。

 何度も唇を重ね合う内に、涙が溢れてくる。

 ブラン様は指で涙を拭い、微笑んでくれた。


「では行こう。この洞窟は向こうの草原に繋がっているから」


 肩を借りて歩き出す。

 これからどうすれば良いんだろう。

 誰か応援を呼ぶんだよね。

 あの幻獣たちに勝てる人なんて、この国にいるのかな?



 洞窟を抜け、草原に出ると⋯⋯そこには幻獣がいた。

 手足がないヘビのようなドラゴン――ワームだ。

 トゲだらけの体をしていて、顔の周りにはエリマキトカゲのような(えり)があり、それを広げて威嚇してくる。


「君も元々は人間だったのか? 私の言葉が分かるか?」


 ブラン様はワームに語りかける。


「私は君と争いたくないんだ。ここを通して貰えないだろうか?」

 

 おそらくこのワームは、ブラン様の言葉を理解出来ているんだろう。

 ブラン様に向かって頭を下げ、涙を流した。


 きっとこの子も元々は人間だったのが、姿を変えられて、無理やり従わされてるんだ。


 その辛さや無念さを思うと胸が締め付けられる。


「辛かったな。君を元に戻す方法を探すから、待っててくれ」


 ブラン様は私を庇うようにしながら、ワームに語りかけ、横を通り過ぎようとした。


 すると、突然、ワームは苦しそうに、のたうち回り始めた。


「ゴォーー!」


「そうか、頭が痛いのか⋯⋯ケルベロスたちと同じ症状だとすると危険だ。これ以上の説得は難しい。ここを離れよう」


 ブラン様は私を支えながら走った。

 けれども、ワームは正気を失った様子で、ヘビのように体をくねらせながら、ものすごい速さでこちらに向かってくる。

 

 ワームは私を食べようとしているのか、口を開けて襲いかかってきた。 

 ブラン様は剣を抜き、ワームの攻撃を受け止める。 

 

 ブラン様は一瞬ためらった後、ワームの体を斬りつけた。

 けれども、すぐにその体は再生していく。

 駄目だ。簡単に倒せる相手じゃない⋯⋯


「ブラン様⋯⋯」


「セイラ、君はペトロールに乗って逃げるんだ。そこの川を下ればイーリスがあるから、大神殿に保護を求めるんだ。教皇と大神官たちなら、この状況を打開できるかもしれない」


 ブラン様はこちらを振り返って言った。

 そんな。今度はブラン様を置いて逃げるの?

  

「私、あなたを置いて一人で逃げるなんて、そんなことできません!」 


「ここで君に何かあれば、彼らや兄上の覚悟が無駄になるだろう? ⋯⋯言い方を変えた方がいいな。セイラ、私や皆のために、助けを呼んできてくれないか?」


 ブラン様は私を安心させるためか、笑顔を作った。

 この人は、こんな時まで私のためを思って、優しい言葉をかけてくれるんだ。

 私が罪悪感を抱かないように⋯⋯


「⋯⋯⋯⋯分かりました。助けを呼んで来ます!」


 人型のペトロールに支えてもらい、足を引きずるようにしながら川へと向かう。

 けれどもそれを阻むかのように、後ろから黒い影が伸びてきた。


「いやっ! 何?」


 突然、足元に真っ黒な沼が現れ、足から順番に飲み込まれていく。


「セイラ!」


 異常に気づいたブラン様は、戦闘を離脱して、こちらに走って来て、手を伸ばしてくれたけど、間に合わずに引きずり込まれた。 

  

 その空間では何も見えない。感じられない。

 分かるのは呼吸が止まって苦しいという事だけ。

 私はすぐに意識を失った。

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