番外編
「わあ、きれい!」
今、私達は新婚旅行中。とある南方の島に向けて船で移動している途中である。南方の島までは船で1日かかるくらいの長旅だ。
その為、乗っている船はカルドナンド王国の中でもトップクラスに巨大な船。なので私はいつもよりちょっとテンション高めというか、浮かれている状態だ。
「海面がきらきら輝いているのが見えるな」
「はい!」
巨大な船からは太陽光に照らされた海面が真珠のように見える。上を見上げれば空を海鳥が舞うように飛んでいた。レアード様は私とは反対の方向を向いている。
「どこを切り取ってもきれいだなあ……ずっと見て痛くなるくらい」
甲板を子供ながらに小走りしたりして船旅を楽しんでいると、レアード様がこちらへとやって来た。その手にはサンドイッチが握られている。いつの間に?
「食べるか?」
「いいのですか?」
「さっき、コックから頂いたんだ。小腹が空いでいるでしょうから作りました。とな」
「そうなのですか……では頂いても構いませんか?」
「ああ、もちろん」
レアード様からサンドイッチを1つ受け取って口にする。ハムとチーズの塩気が甘い風味のあるパンと合わさるとすごく美味しく感じた。
「美味しいですねえ」
「口に合っているみたいで何よりだ」
くすりと笑うレアード様の顔に思わず見とれてしまいそうになった。
「あ、あちらを見てください!」
侍従が指をさす方向には、あちこちにクジラが潮を吹いている様子が見えた。
「ここ、クジラの生息域なのですね」
「そうみたいだな。帰ったらゲーモンド侯爵に聞いてみようか」
「お願いします。彼も一緒に来れたらよかったのですが」
ゲーモンド侯爵は多忙を極めてこの旅行に同行する事は出来なかったのだ。
「今はフローディアス侯爵の件などもあって忙しいのは致し方ない事だ。また時間が取れたらクジラについて語り合いたいものだな」
「ええ、そうですね……」
ぽつっとなにか降って来たかと思えば雨だった。いつの間にか空の上には暗い雲が広がっている。あっという間に雨雲が広がっていったみたいだ。
「メアリー! 船の中に戻るぞ!」
「は、はい!」
レアード様に手を引かれながら慌てて船の中へと避難して雨をやりすごす。ぽつりぽつりと降っていた雨は私が船の中に避難して数分後には本降りへと変わっていった。
「すごい降ってきましたね……」
「そうだな。まだ午前中なのに……メアリー、まだお腹はすいているか?」
サンドイッチしか食べていないのでまだお腹はぺこぺこだ。
「サンドイッチもいいが、船の外に出られないならちゃんとしたランチでも食べよう」
「そうですね。温かい飲み物も欲しくなっちゃいました」
船の中にはランタンで灯りが灯されているけど暗いのは変わりない。しかも船内は大きく揺れだした。
「波も荒れているみたいだな」
「そのようですね……っと!」
バランスを崩してしまう。すんでの所でレアード様に受け止めてもらったので転ぶ事は無かったが、それでも歩くのがやっとな位だ。
「これではランチどころじゃないな……一旦部屋に戻ろう」
レアード様の手を繋いで、ゆっくりと壁を伝いながら部屋に戻った。はやく波が凪いでくれるといいんだが。
すると部屋にコックが入ってきた。
「王太子殿下。ランチは……」
「このような状態の波だからな。火を使わないものの方が良いだろう。完成したらこの部屋に頼む」
「かしこまりました」
コックもシチュエーションに応じて料理を変えないといけないのだから大変だ。
しばらくしてサンドイッチとカットされた数種類のフルーツにサラダが運ばれてきた。やっぱりこう言う時はサンドイッチが便利に思う。
ちなみにサンドイッチはさっき食べたものと同じ、ハムとチーズの具材だった。
「美味しいですね……」
ランチを食べ終わった時、窓から景色を眺めると雨はすっかり止んでいた。波も穏やかになって、船内は揺れなくなった。
「通り雨で良かったな」
「そうですね、早速船の上に行きますか?」
私からの提案に、レアード様はこくりと笑顔で頷いた。
「ああ……!」
船上はまだ雨で濡れていて滑りやすいが、晴れ渡った景色はとても爽快感がある。
「あ、見てください!」
私の左前方には巨大な虹が浮かんでいた。はっきりとした7色の半円形の帯を見るだけでわくわくとした感情が湧いて出てくる……!
「虹か……! 久しぶりに見るな」
「あ、もしかして下にもう1つありません?」
よく見ると虹は2つあった。最初に見つけた虹の下に、2回りくらい小さいサイズの薄い虹がかかっている。
「本当だ。2つ虹がある」
「2つあるのは初めて見ました……!」
「俺もだ。虹は2つかかる事もあるのだな……! あ」
レアード様の右肩にちょこんと、飛来してきたカモメが止まった。
「おおっ? 思ったより重くて大きいな……」
「カモメですねえ、近くで見ると可愛いかも」
「こいつ、怖がってないのか?」
確かにカモメはレアード様の肩の上から動こうとはしない。首を動かしてレアード様や私をじっと眺めている。
「君、どこから来たの?」
話しかけても反応は無かった。だけどなんだか笑っているようにも見える。
「……ずっと眺めたくなりますね」
「ははっ確かにな」
そして約3分後。カモメは空に向けて飛んでいった。私達は自由に空を飛び回るカモメの姿を見上げていたのだった。
以上で完結となります。ここまでお読み頂きありがとうございました!
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それではまた次作でお会いしましょう!




