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第59話 アンナの死

 レアード様は医者達の処置により、徐々に体力を回復させていった。同時にレアード様に危害を加えた張本人であるアンナにはレアード様から死刑の要請が出た。


「あのような女、生かしても同じだ」

「レアード様……」


 王家の者を殺した者はカルドナンド王国では問答無用で極刑……すなわち死刑となる。ギロチンで首を刎ねられるのだ。

 とはいえレアード様は生きているからアンナは殺人罪ではなく、殺人未遂罪が適用されるはず。


「たとえヴェリーヌス島の監獄へ移送してもアイツは脱走してくるのが分かり切っている。それにアイツはこれまで何度もメアリーを傷つけてきた。公私混同は良くない事はわかってはいるが……また繰り返す事は想像に難くない」

「だから、死刑を」

「そうだ。メアリーはどう思う?」

「……それでよいかと」


 引き留める理由が他に思いつかなかった。なので私はレアード様の意見に賛同する。

 しかしながら彼女の処刑の詳しい日程など決める事は出来なかった。このタイミングで国王陛下は国境付近が不穏な状態だからその対応でお忙しい。レアード様も今は回復最優先で、私には処刑云々を決める権利はなかった。

 

「大変です!」


 吹雪がまだ続く午前の事。レアード様の脇腹に巻かれた包帯を女官や薬師らと共に変えていた時の事だった。

 侍従が慌ててレアード様の部屋にノックも無しに入って来る。


「アンナが脱走して……馬車に轢かれたそうです!」

「なんだと……、それで、その女は……」

「亡くなったそうです。遺体は今、王宮の兵士達が回収したそうです」

「わかった……クソ」


 アンナが死んだという驚きの知らせが飛び込んできた。しかも脱走後に馬車に轢かれて死ぬと言うあっけなさに私の胸の中が痛む。


(何よ、それ……)


 でも、もう彼女は死んだのだ。こちらからとやかく言う筋合いも無い。もうあとは忘れるだけだ。


「忘れましょう……彼女の事は」

「メアリー……」

「彼女は死にました。もうそれで終わりですから」

「ああ、そうだな……これ以上罰を与える事は出来ない。忘れよう……」


 アンナの死は一応、彼女の両親であるクルーディアスキー男爵とその夫人に伝えられた。両親は嘆き悲しんだと侍従から聞いた。

 彼女の葬儀は両親だけで執り行われ、遺体は両親の意向により、クルーディアスキー家所有の墓地の目立たない区画に葬られたという。


「王太子殿下、クルーディアスキー男爵より手紙が届いております」

「わかった、受け取ろう」


 アンナの葬儀が済み1週間後の事。執務室で仕事にあたっていたレアード様がクルーディアスキー男爵から送られた手紙の封を開け、中身を開いて読んだ。


『この度は我が娘が愚行を犯し、誠に申し訳ない気持ちで一杯でございます。娘は本当に可愛い娘でした。葬儀はすでに済みましたのでもうご存じかもしれませんがご報告いたします。今後は王家の方々へ精一杯尽くさせていただきますので何卒ご了承願います』


 文章を読み終えたレアード様は侍従にいつもの貴族から受け取った手紙を保管する区画へ入れておくようにと伝えた。手紙の文章は可もなく不可もなくと言った具合。

 娘を失ったクルーディアスキー男爵家はこれからどう生きていくのだろうか。いや、これ以上考えるのはよそう。


「メアリー、どうした?」

「いえ、なんでもありません」


 レアード様に心配そうに顔を覗き込まれた私は、作り笑いを浮かべたのだった。

 午後。今日はマルクとテレーゼを招いてのお茶会が始まった。白と灰色だけだった荒々しい天候もだいぶ落ち着いたのは救いに思う。


「姉さん、お久しぶり」

「久しぶりね、マルク」


 マルクはまだ、イーゾルお手製の眼帯を着用している。本人曰くまだ視力は完全には戻っていないようだ。

 だが、怪我をした時よりもほんの少しだけよくなったとも聞いたのでほっとした安堵の気持ちを覚える。


「よかった……」

「良くなっていっているのは本当に良かったよ」

「本当です。落ち着きましたから……」

「ああ、そうだ。姉さんあのね……母さんが病気になったみたいで」

「そうなの?」


 聞けば、1週間くらい前から彼女の体調は悪くなったとか。今は静かに療養しているようだが、もう先は長くないと医者からの言葉だと聞いた。


「そう……」

「だから実は今、葬式の準備を進めている。いつお迎えが来ても対応できるようにね」

「マルクがお母様の葬式をあげるの?」

「うん、実家では対応できないって言われてるから」


 そう。父親がマルクへの暴力罪により爵位を剥奪され平民となり、カルドナンドの王宮から遠く離れた孤島にある監獄への収容された時。母親は謹慎を解かれたが、代わりにラディカル子爵家所有の古びた別荘に事実上の幽閉となった。この時、母親の実家に彼女を送り返す案もあったが、それは母親実家である男爵家から受け入れられないとの申し出があった為白紙となったのを思い出す。


「母さんは実家から嫌われてるからね。当主であるおじからは穀つぶしと毛嫌いされてるし、弟や姉、妹からも嫌がられている」

「へえ……それは初めて聞いたわね。あんな性格だから?」

「そうだろうね。僕達には親切に接してくれているから、おそらくそうなんだろうね」


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