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第54話 大吹雪

「うわ、寒い寒い」


 食堂は暖炉があるにも関わらず、機能していない。目の前に用意され朝食はどれも温かいものだけどすぐに身体の外から冷えが内側まで侵食していく。


「今日は朝から嵐だな」

「そのようでございますね。ここまでの嵐は見た事がありませんね……」

「俺もだな。来客には安全に来てもらいたいものだが」


 今日は午前から応接室にて来客の対応がある。が、今朝から凄まじい吹雪が発生してるのだ。こんな大吹雪ではそもそも来客が王宮まで来れるのかが心配だ。


「そもそも来れるんですかね?」

「そうだなあ……こんな吹雪では馬車が横転してしまうかもしれないな」

「そうでしょうね……風も強いですから……」


 こうして朝食を食べている間中も、吹雪によって生じるごおおおっという荒々しい音が聞こえて来る。まるで狼の遠吠えのようにも聞こえるそれには圧が加わっているようにも感じられた。


「ごちそうさまでした」


 朝食を食べ終えた私は食堂から応接室へと移動し、いつものように来客対応の為のセッティングを侍従と共に行う。

 これも女官としての仕事だ。


「今日お越しになる方々は、ソファよりも椅子をお好みなので椅子をご用意しましょう」

「かしこまりました、王太子妃様」

「部屋の中はしっかり暖めておいて。お飲み物も来てからお出しするようにしましょう」


 来客の好みをしっかり覚えておく事は、とても重要な事である。


「王太子妃様……!」


 ここで慌てた様子の別の侍従が応接室に入って来た。


「来客の方はこれないと、先程申し出がありました……!」

「!」


 聞けば来客の使用人が来週に予定を変えたい。と自ら王宮に出向いて来たそうだ。


「レアード様はなんておっしゃってるの?」

「予定の変更を受け入れる、と……」

「わかりました。私もそのように致します。使用人の方にそうおっしゃってあげてください。必要であれば温かい飲み物でも飲ませて」

「かしこまりました……!」


 それにしてもよく大吹雪の中歩いてきたものだ。無事に帰還してほしい。


「では、応接室はこのままでよろしいですね」


 と、侍従が私へと尋ねてきたので、私は頷く。


「そうですね。このまま変更は無しで」

「かしこまりました、王太子妃様」


 予定が立ち消えた事で、応接室でのセッティングの必要も無くなった。午前の予定の1つが消えたのは、私にとってちょっと楽になるだろうか。


「?」


 息を吐いた時、何やら遠くからがやがやと騒がしい音が聞こえ始めた。


「きゃあああっ……!」

「誰かっ!」

「離しなさいよ……!」

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