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第29話 雪合戦①

「きゅーーっ」


 あの離宮で飼育されていたイルカは鳴き声をあげながら口をぱかっと開けた。他のイルカとシャチも似たような仕草を見せる。


「ちなみにこのシャチも、王族専用のプライベートビーチ近くに漂着してきた個体なんです」


 ゲーモンド侯爵曰く、私達が避暑地から去って3日後の事だったとか。中庭の海水をひいた池みたいな箇所では狭い上に先客がいたため、港に簡易いけすをつくってそこで保護したとか。

 ……ちなみにカルドナンド国にはシャチを食べてはいけないという言い伝えがある。なんでも食べたら死ぬとか呪いを受けるとかそういった類の都市伝説だ。その話はゲーモンド侯爵領地内で特に言い伝えられてきていると言う。


「ちなみにこの個体は雌です。シャチは背びれと体格で雄と雌を判別できます。雄は巨大な槍のような背びれで雌は鎌形の小さめな背びれです。そして人間と同じで雄の方が体格は立派です。ただ子供の雄は雌と同じ背びれですから絶対見分けられる! って事でもないのですけれど」

「さすがはゲーモンド侯爵。通じているな」

「これから更に研究を続けていきたい所存ですね」


 彼らを眺めながら私はにこっと笑顔を浮かべてみた。すると彼らは興味深そうに見つめているのが分かる。


(シャチの目、あの白い模様の下についているのね。目が合った気がする)

「あれからウィルソンはずっとフローディアス侯爵家の屋敷にておとなしく過ごしていると聞いています」


 いきなりぼそりとゲーモンド侯爵がレアード様にそう告げた。レアード様は一瞬目をきつく光らせると、元のきりっとした目つきに戻った。


「そうか。それならいいんだ」

「本当に申し訳ありません……」

「ゲーモンド侯爵は謝る必要はない。フローディアス侯爵の問題だからな」

「あとこれはこちらに流れてきた噂ですが、ウィルソンの愛人であるクルーディアスキー男爵令嬢は見張りの兵士達とただならぬ関係にあるとか」

「……は?」


 アンナが見張りの兵士達とそういう関係になっている? そんな事ってあるのか? ていうか見張りの兵士でも構わずそのような関係になるなんて……。


「本当か?」

「おそらくクルーディアスキー男爵家の領地から来た商人らが流したものかと。現時点でこの話が本当かどうかまではわかりませんが……」

「わかった。現地に兵士と女官を派遣させる。女の兵士をな」


 男だとアンナの手に落ちる可能性がある。それなら女を派遣させるという事か。確かにその方が良いだろう。

 女の兵士に見張られるとなればアンナはどう出るか……。


「アンナさんがそのような事を……」

「メアリー、聞いていたか」

「申し訳ありません。聞いてしまっておりました」


 えへへ。とわざとらしく笑って見せる。が自分でもわかるくらいに不格好な笑みになってしまった。


「フローディアス侯爵もつくづく罪な男だ。アンナ嬢に狙われ、お前の良さには気づかない。俺ならメアリーを一生手放したくないし、愛を注ぎたいと考えるのに……」


 ややメランコリックな表情を浮かべたレアード様にそっと抱きしめられると、彼の体温がじんわりと私の身体へと伝わってきて、なんだかそれだけで全身が暖まったような気がした。


「レアード様……」

「王太子殿下のメアリー様への愛は海よりも深いものでございますね。素晴らしい……」


 まるで詩人のようににこやかにそう語るゲーモンド侯爵の顔が、ちらりと見えたのだった。


 それから1週間後。とうとう結婚式の日程も決まった。その為王宮は結婚式に向けて慌ただしく動き始めたのだった。

 女官の皆様も色々気を遣ってくれたり、優しく話しかけてくれたりして接してくれているのはありがたい。女官長曰く女官の最年少は私なので、皆、娘か妹みたいに思っているからだろう。と話してくれた。今更ながら彼女達には女官として働き始めてから随分お世話になっているので、感謝の気持ちでいっぱいだ。


「お疲れ様でございますメアリー様。ラディカル子爵家令息兄弟がお越しでございます。メアリー様にぜひお会いしたいと」


 ランチを取った後、メイドからそう聞かされた私は応接室へと向かう。


(寒い寒い)


 廊下は屋内では最も冷え切っている場所だ。寒がりながら応接室に入ると、そこには既に弟達とレアード様が話をしている最中だった。


「姉さん!」

「姉ちゃん、忙しいとこ邪魔してごめんねーー」

「いいけど……何かあったの?」

「両親についての報告に来ていたんだ。今僕が当主代行を務めているからさ」


 マルクはまだラディカル子爵家の当主代行を務めている。

 それに両親を結婚式に呼ぶかという問題もあったか。


「メアリー、報告は先程終わったばかりだ」

「そうなのですね。お父様とお母様はどうしているの?」

「一応大人しくはしているんだけど、クソ親父の方はおとといと昨日に兄貴へ喧嘩吹っかけてきてさ、大変なんだよなーー。俺らちょいストレス溜まり気味」


 イーゾルは両手を組み、天井を見上げながら呆れ果てたような声を出す。確かにマルクの顔色はあまり良く無いように見える。


「あ、姉ちゃん。このあと時間ある? せっかくだし雪合戦しない?」

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