二 Tokyo
「待って!!」
背後から少女の声が聞こえた。次の瞬間、俊はホームの方へ強い力で引き戻される。
「ぐあっ!」
ホームの人間全員が硬直した。
何が起こったのか、頭を整理している。
…飛び込もうとしていた少年が、どこからか現れた腕によって引き戻され…
消えた。
その場にいた者がみな、それをなかったことにするまでに、それほど時間はかからなかった。
疲れているのだろう。その一言で、無理矢理完結させようとしていた。
「起きなさいよ!」
強く揺さぶられ、俊は目を覚ました。
「あれ、僕、死んだ…?」
「何言ってんのよ。死のうとしてたけど、あたしがここに連れてきたから、ギリ生きてるわ。」
「…死んだか」
「だーかーらー!!」
俊の目の前には、淡い青色の長髪を無造作に束ねた、小柄な少女がいた。
「えっと、どなたですか?」
俊はとりあえず尋ねてみる。
「あんた意外と冷静ね。あたしはアメリ。サザナミ・アメリよ。そっちは?」
「僕は、早川俊…です」
「よく聞こえなかったわ。シュン…でいいの?」
「は、はい。」
「あっそう。じゃあまあ面倒だし、説明するわ。」
「はあ。」
アメリはにやりと笑い、手を大きく広げ、大げさにこう言う。
「ようこそ、あなたの世界とは一味?いや二味以上違った、別の世界線へ。」
「別の世界線?」
「ええ。では質問です。あなたの住む世界は、どこですか?」
「えっと、地球。」
「地球の?」
「日本。」
「日本の?」
「…東京。」
「東京の?」
「それ以上は言えません。」
食い気味に答える俊に、アメリは一瞬たじろぐ。
「な、何よ。…ゴホン。つまりここは、あなたの住む東京の、別の世界線。Tokyoです!」
「…同じじゃないですか。」
「あ、いや違う!違うの!発音は同じだけど、表記がこう…ローマ字って言うの?」
「別の世界線にしては、言語は共通なんですね。」
「そ、そうね。」
「ふーん。特に何も変わらないんじゃないですか?」
俊は意外としつこく尋ねる。
「うるっさい!もういいわ、マニュアル通りじゃなくて。とにかく、あたしはここの住人で、別世界の住民であるあんたに、頼みがあるのよ。」
「頼み?」
「そうよ。別にあんたじゃなくてもいいんだけど、たまたま良さげだったからさ。」
俊は、まだすべてを理解しきってはいなかった。けれどもこれから彼の大冒険が始まることに、彼も薄々気づいていた。