一 現実
ーーー2×××年。ここは、現実世界とは異なる日本。
いわゆる、「パラレルワールド」。
この日、パラレルワールドには危機が迫っていた。
チュンチュンチュン…
「朝が、来てしまった。」
鳥の囀る声が聞こえたら、朝を実感する。
早川 俊、17歳。彼は若くして、既に人生に苦痛を感じていた。家庭内や、学校での暴力、白い目、すべてが嫌になって、ついに俊は決断したのだ。
素早く支度を済ませ、親と目を合わせる暇もなく足早に家を出た後、今にも飛び出しそうなほどに暴れる心臓をぎゅっと押さえて歩き出した。
数分後、俊は立ち止まった。駅に着いたのだ。
ポケットをまさぐり、小銭を取り出す。切符を買うのも、これで最後である。そう考えると感慨深い…こともない。彼にそんな余裕があるはずもなかった。黙って切符を買い、改札口を抜ける。全身の毛穴から汗が吹き出ている。一方で体に力は入らない。そして何故か、どこか穏やかな心情だった。
ーーー2番ホーム、急行列車が通過いたします。危ないですから、黄色い線の内側まで、お下がりください。
ホームにいる疲れた表情の人間たちは、アナウンス通り、黄色い線の内側に立っている。
俊も普段通りならそうしていただろう。今日の彼は違っていた。アナウンスの声など聞こえていないかのように、黄色い線など見えていないかのように、徐々にホームの端へと前進する。
これまでの人生、ろくなことがなかった。
走馬灯なんて見たくもない。だからさっさと死んでやる。
周りの人間は、俊の挙動がおかしいことに気づき始めた。誰も動こうとする者はいない。
激しい音を立てて、急行列車が走ってきた。
「お、おい、君、まさか」
俊は体重を前に移し、軽く地面を蹴った。