仲間にしてもらえました。
「そんな聞き方じゃ喋らねぇよ」
男がつっこんできた。
「リックうるさい。ここはボクの見せ場」
「誰も見てねぇじゃん」
「残念筋肉剣士のくせに」
「それを言うなっていつも言ってんだろ!」
……
なんだろ、この感じ。
掛け合い漫才を見せられているようだ。
とはいえ、切先は俺の喉元にぴったりと向けられたままだ。
ボクっ娘とリック……名前、言っちゃっていいの?
あ! やべっ!
これは、名前を知ってもあとでみんな殺すから大丈夫って流れか?
……
冗談じゃない。
生き返ったばかりで死にたくないぞ!
向こうで死んで、こっちで72歳の身体に憑依して、15歳で復活したのに……
……変だよね? なんか変だよね? ここに来る前になんかあったんか? 俺。
いやいや、考えてる場合じゃないって。
行動しないと。
「リックさんとやら。俺はやっと牢から出られたばかりなんでまだ死にたくないんだ。どうすればいい?」
リックの両目が俺を射殺すかのように見開かれ、切っ先がちょっとだけ首に触れた。
「リック」
切っ先が離れる。
「……あなた、誰?」
ここはちょっと白を切る。
「すまん。記憶があいまいで自分の名前も思い出せん」
馬乗り女が俺をジッと見ている。
マルクも俺を横目て凝視している。
リックは……剣を鞘に収め、俺の背後に回った。
振り向くと、横の戸口に入って中から椅子を持ってきた。
そして俺の背後に椅子を置くと、その上にドッカリと腰掛けた。
……
そういえば他の牢屋の奴らは何してんだ?
この状況で誰一人、声が聞こえない。
「嘘つきは長生きしない」
おっと冗談言ってる場合じゃないってことね。
「冗談だ。クルト。名前はクルト。30歳だ」
「ほぉ」
リックはさも意外そうな顔……顔は見えないが雰囲気がそういう感じだ。
「……見た目と声が合ってない」
馬乗り女が呟くが、そりゃそうだ。
たった今、俺が考えた名前と年齢だからな。
馬鹿正直に本名を名乗るわけないじゃん。
俺の本名なら日本人の名前だし、この身体の元の名前だと罪人の名前だろ?
……正直にいえるわけねぇって……
しかもこの髭面だ。
15歳ですって言って誰が信じる?
俺だって信じられないのにっ!
……
しかし、声か。
自分じゃ自分の声、どんなだか分かんないしなぁ。
うーん……どうしようか……
「確かに。おまえは年の割にちっちゃいけどな」
リックが小馬鹿にしたように言う。
すると、目の前の黒づくめの女は
「……ふぅ」
とため息を吐き
「お馬鹿リック。女の魅力は背の高さじゃない」
とのたまった。
「ちっ! じゃあなんだってんだよ?」
「決まってる。愛」
「……!?」
「?……?」(愛?)
……
これにはリック君、なにも反論できないようだ。
……ちなみに俺も反論できんわ。
違う意味でだけどさ……
なんて思っていたら馬乗り女が俺をジッと凝視している。
あ……まだ疑ってるのね。
「わりぃね。ここに入ってから酒もやめたしな。おかげで喉の調子は前よりいいのさ」
……ちょっと苦しいか?
あれ? ひょっとして嘘を見破る魔法とかあったりするの?
だとしたら……ヤバイか?
「……」
しばらくはじっと見られていたが、やがて彼女の視線がマルクに戻る。
「協力してくれれば殺さない」
(邪魔したら殺す)
よかった。
なんとか敵ではない認定は貰えたようだ。
ならもうひと押し
「そりゃ嬉しいが、できればここを出るとき、一緒に連れていって欲しいんだが」
「……」
「……」
あれ? 答えが返ってこない。
怒ってる……感じではないな。
これはあれか? 想定外の出来事になったんで戸惑ってるのか?
……
こういう時は『押し』の一手だ。
「……連れてってくれるのか?」
「働き次第」
(面倒……)
……そっけない。
とは言え緩めの承認はもらえたようだ。
「了解だ。で? なにか手伝えることはないか?」
俺はそう言って馬乗り女の言葉を待った。
「特別区画に行く方法を聞いてから」
そう言って彼女は看守の首をナイフでチクチクと突っついてから
「で? 知らないならあなたは用無し」