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この状況は〝泣きっ面に蜂〟とか〝踏んだり蹴ったり〟とかですよね?

今日もエファンゲーリウム聖教会エーレシュタート王国支部長ペーター・シラー枢機卿は頭を抱えていた。


「なぜだ! なぜこうも次々と問題が起こるんだ!」


早朝、彼は自室の机に突っ伏したまま叫んだ。

が、それで問題が解決することはない。

本人もそれは重々分かってはいるのだが、心情的にも声を出さずにはいられなかったのだ。


あれほど準備して召喚した勇者たちが、只の人だった上に訓練中に一人、死んでしまった。

さらに召喚の儀式をした地下祭壇では、後始末を頼んだ部下が見るも無惨な姿で死んでいた。

ついでにお金と労力を注ぎ込んで捕獲した〝古龍〟が忽然と消えていた。

その上、厄介者ではあるが利用価値は高かった司祭の一人が行方不明だ。

それに、聖女も視察と称してここに来る…らしい。

しかも、深夜に届いたエファンゲーリウム聖教会本部からの緊急指令書には

『聖女の種が3粒こぼれた疑い。捜査のため教育局員を派遣するので協力せよ』

と書いてあった。

〝聖女の種〟とは次代の聖女にするべく育てられている子供のことだ。

それが〝こぼれた〟という。

つまり〝脱走〟したということだろう。

…本部も何かしら齟齬が生じているのだろうか?

こんなことは自分が教会に入ってから今まで起きたことのない事例だ。

いや、そんなことより〝教育局員〟が来ることが問題だ。

聖女の種の捜査だけならいいのだが、ここで勝手に〝勇者召喚〟を行ったことがバレたら……

いやっ! バレる訳がない!

何せ召喚した奴らは何の役にも立たない普通の少年少女だ。

見た目の違いは東方の別大陸の者たちだと言えばいい。

…いやいやいや! どこから情報が漏れるか分かったもんじゃない。

しかもアイツらはまだ子供だ。

教育局の捜査員といえば〝勘のいい奴ら〟だ。

ちょっとしたことでバレる可能性はある!

極力彼らに子供達を会わせないようにしなくては!


コンコン


誰かが扉をノックする音が聞こえた。

「…どうしましたか?」

内心では心臓が止まったような感覚の驚きを感じたのだが、かろうじて平静を保っていられたようだ。


「はい! 転移室から訪問された本部の方たちが枢機卿へご挨拶をしたく、ご都合をお尋ねでございます」


えっ!! もう? 早すぎないか?

緊急指令書受け取ってから数時間しか経ってないじゃないか!

これは……嫌がらせなのか?


「わかりました。すぐに参りますので応接室でお待ちいただいてもらいなさい」

「承知いたしました」


ノックをした者はそう言って去っていった。

ピーターは急いで着替えると姿見の前に立ち自分の姿をじっと見る。

一睡もしていないのに頭はハッキリとしている。

目の充血もない。

彼は「よし!」と小さく声を上げ両手で頬をパンと叩き、服の端をつまみ襟元をピッと整える。

そしてもう一度自分の姿を上から下までしっかりと確認し自室を後にした。



田島悠斗たち4人の勇者は、早朝から基礎訓練で汗を流していた。

昨日の朝から夜明け前に叩き起こされ教会の敷地内を永遠かと思われるほどの時間、グルグルと走らされた。

やっと終わったと思う間もなく重い鎧と剣を持たされ素振りからの模擬戦と愚痴をこぼす隙間もない〝訓練〟という地獄を体験中だった。


「いやぁ、感心感心。抜き打ちの視察という形で拝見させていただきましたが…大したものですねぇ」


そんな中、ちょっと魔の抜けた感じで喋りながら近づいてくる白装束の集団がいた。

「こ、これは本部の… ご苦労様です」

今まで鬼の形相で勇者たちを指導していた団長が何やら複雑な表情をしている。

「いえいえ、あ、お邪魔をして申し訳ない。続けてください」

白装束の集団はそう言って去っていった。


「……」


団長はその後ろ姿を苦虫を噛み潰したような顔で見送っている。

田島悠斗はヘルメットの前面の蓋を開きながら思い切って聞いてみた。

「団長さんヨォ、あの偉そうな奴らは何もんだい?」

団長は振り向きもせず

「お前らには関係…ないことはないが…いや!」

団長こと教会衛兵団指揮官であるゲアハルト・シュミットはすぐに考えを改めた。

「お前らは絶対に関わってはいけない!」

団長は悠斗の肩をガッしと掴み、低い声でそう告げた。

「お前らに鎧を着けさせていて助かったわ。言っておくぞ! あの白く綺麗な模様の衣装の連中には関わるな! 万が一、関わったとしたら絶対に自分たちが〝勇者〟だなんて言うな! 他の国から来た留学生だと言え!」

「何故でしょうか?」

赤坂静香が二人の会話に割って入って来た。

「お前らにも言っておく! さっきの連中には関わるな!」

「だから、何でよ!」

斎藤莉美が食ってかかる。

団長は背筋を伸ばし周囲を見回す。

そしてチョイチョイと戯けた感じで皆に集まるように手を動かした。

少し離れたところで弓の練習をしていた早乙女美憂が小走りで団長の下へ来た。

「アイツらは〝教育局〟だ。奴らは女神様や教皇様を信じない者や逆らう者を〝教育〟するためにいるのだ」

「学校の先生みたいなもんか?」

悠斗が軽口を叩く。

「違うでしょ。警察みたいなもん?」

莉美が悠斗を否定する。

「団長さんの言い方だと…旧日本軍の憲兵みたいな感じでしょうか?」

静香はそう言って皆の反応を見る。

悠斗と莉美はポカンとしている。

美憂は

「あぁ、ゲシュタポとか?」

と賛同する。

静香は「そうそう、そんな感じ」

と言って賛同しているようだが悠斗と莉美はポカンとしたままだった。


「ケンペーとかゲシュータポとかは知らんがとにかく行動が苛烈だ。一度疑われたら冤罪も何も関係なく処断される」

団長はそう言って怖い顔をし4人を見る。


「わ、わかったよ」

「関わらなきゃいいのね」

「えー めんどー」

「そう言わないで団長さんの言うこと聞きなよ」


団長はちょっと呆れたが多分大丈夫だろうと思いながら小さくため息を吐いた。



「…ご協力することには同意いたしますが…」

応接室で教育局の7人と対峙しているシラーの表情は冴えない。

リーダー格と見られる男の言葉に動揺してしまったのだ。


応接室でのやり取りは和やかな雰囲気で始まった。

エファンゲーリウム聖王国の今の様子や教皇様の健康状態など、当たり障りのない話が続いた。

その後、本来の目的である〝調査・探索〟の話になってから急に教育局の態度が変わったのだ。

施設を脱走した3人の聖女候補者が出たことは深夜の本国からの告知で知らされてはいた。

が、積極的な調査を行なった形跡がないなど、エーレシュタート王国支部を攻撃し始めたのだ。

シラーは知らせを受けたのが深夜だったことを理由に調査の遅れを弁明した。

ならばとリーダー格の男は、自分たちの調査に支部の関係者全員が手伝うように依頼して来たのだ。

「特にさっき中庭で拝見した者たちの参加を期待しますよ、枢機卿」

彼はそう言って薄く笑う。

シラーは一瞬、何のことかと思ったがすぐに勇者たちが中庭で訓練をしていることを思い出し表情が強張る。

「い、いやいや。彼らは留学生で王都の地理には詳しくないので皆様のお役には立てないと思いますが…」

「そうですか…」

リーダー格に男はそう言って鼻を軽く掻き

「では、本番の強制執行の時にお手伝いをしていただきましょう」

と言ってにっこりと笑った。

「か、彼らは遠方から来た者たちで、たまたま…えぇ、たまたま教会でお世話をしているだけの子供にすぎません」

「だが、ここの衛兵たちと戦闘訓練をしておりましたよ?」

「え、ええ、そうです。まだ訓練の段階ですので…まだまだ実戦に投入するには未熟だと思われますので…」

「いやいや、枢機卿殿、実戦での経験に勝るものはありませんぞ? 我々は、その機会を提供しましょうとお話ししているだけではありませんか」

リーダー格の男はそう言って畳み掛けてくる。

何が楽しいのかうっすらと笑っているようにも見える。

(くそっ! なんて忌々しい! 教育局の提案を蹴る選択肢がないことを一番分かっているのが本人たちではないですか!)

何故なら、教育局は教皇直属の部署だ。

枢機卿といえども逆らえない構図になっている。

彼らの言葉はまんま教皇様の言葉だということになっているからだ。

名前も名乗らない。

位もない。

でも誰も逆らえない。

これが〝教育局〟だ。


「…ご協力することには同意いたしますが…」

「ではこの話はこれでお終いです。まずは調査をお願いいたします」

彼はそう言って持ってきた薄い鞄をテーブルの上に置くと、中から厚めの紙束を取り出し枢機卿へと差し出してきた。

「こちらが〝聖女の種〟脱走に関する資料となります。協力者と思われる人物たちの部分をよく見てください」

差し出された資料を慌てて広げパラパラと捲っていく。

「その2ページから8ページに書かれている者たちの調査をお願いします。なに、時間はたっぷりとありますのでよろしくお願いしますよ」

「わ、わかりました。早速取り掛からせていただきます」

シラーは横に座っていた司教に資料を渡した。

渡された男は教育局の人間とシラーに一礼すると早足で退室していった。

教育局のリーダー格の男はクククと笑い

「なかなか優秀そうな男じゃないですか。是非、ウチで働いて貰いたいくらいです」

と言い、ゆっくりとソファーの背もたれに身を預けた。

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